「でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男」特集 | キタニタツヤが主題歌「なくしもの」に込めた思いとは (2/2)

人と会話をするために必要なものが、映画という存在

──今回は映画の主題歌を手がけられましたが、キタニさんが最初にご覧になった映画を教えてください。また、最近気になる映像作品はありますか?

最初に観たのは、ピクサー制作の「バグズ・ライフ」(1998年)あたりだったかなと。ここ最近観た映画となると……今は韓国映画ばかり観ています。「ソウルの春」(2023年)を観たり、韓国が民主化していく過程の「1987、ある闘いの真実」(2017年)という映画を観たり。韓国の人たちが民主化のために闘っている作品をずっと観ていますね。

キタニタツヤ

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──それは最近、韓国で政権交代など、政治面のニュースが注目されていることもあるからですか?

これまでもなんとなく韓国の政治には関心があったのですが、何かのきっかけで「ソウルの春」を観てから、ChatGPTに「これに関係する映画を全部教えてくれ」と聞いたんです。すると、時系列順にまとめて韓国映画を教えてくれたので、今はそれを片っ端から観ているところなんですよ。

──なるほど。では、これまで観た映画で好きな映画、面白かった映画は?

今パッと頭に浮かんだのは、「メッセージ」(2016年)という映画ですね。お菓子の「ばかうけ」みたいな形の巨大なUFOが地上に降りてきて、そこにいたエイリアンと言語学者が対話を試みるというストーリーなのですが、この映画がすごく好きです。エイリアン側には時間の概念がなくて、そもそも対話をすることが非常に難しい中、その言語学者は奮闘するんですよね。ジャンルで言えばSFがすごく好きです。でも、映画好きの人に比べたら観ていないと思うので、人並みに鑑賞している中での感想ですが……このあいだ観た「サブスタンス」(2024年)という映画は最高でしたね。ゴア表現は苦手なのですが、この作品はホラーなのにとても面白くて、一気に観ることができました。映画館に行くときは、空いているときに一番後ろの端っこの席で観ています。

左から亀梨和也演じる鳴海三千彦、綾野剛演じる薮下誠一

左から亀梨和也演じる鳴海三千彦、綾野剛演じる薮下誠一

小林薫演じる湯上谷年雄(左)。薮下の弁護を唯一引き受けるベテラン弁護士だ

小林薫演じる湯上谷年雄(左)。薮下の弁護を唯一引き受けるベテラン弁護士だ

──映画音楽については、印象深いものはありますか?

「哀れなるものたち」(2023年)ですね。実のところ、映画を観ていると音楽はあまり耳に入ってこないタイプなのですが、この映画に関しては「めっちゃ曲がいい!」となりました(笑)。思えば、美術がすごくかっこよくて、視覚的に引き付けられているノリで音楽も入ってきたのかも。映画の美術の雰囲気に音楽がぴったりで、普段は聴かないサントラまで聴いたほどでした。

──では、キタニさんにとって映画とはどのような存在ですか?

映画は、誰かとの共通言語です。「流行している映画で面白いものがあったよ」「これを観たら楽しそうだよね」と、誰かと話したい感覚で映画館に行くところがありますね。人と会話をするために必要なものが、映画という存在です。

キタニタツヤ

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真実は何か、1つ想像力を増やしてほしい

──映画「でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男」のお話に戻りますが、本作からキタニさんはどのようなメッセージを受け取りましたか?

薮下に訪れた状況はとんでもなく理不尽なことですが、世間には類似した温度感の出来事がいっぱいあって、苦しんでいる人が少なからずいるのかもしれないですよね。この作品を観るだけで、こんな出来事が誰しも起こり得る可能性がある、見えているものが真実ではないかもしれないと知ることができる。「なぜ、それを信じますか?」というコピーはすごくいいな、と思います。映画を観る側に立ち止まる想像力を1つ与えてくれる作品だと感じました。啓蒙ではないですが、そういった部分を微力ですが音楽でも後押しできればと。せめてこの映画をご覧になった方だけは、真実は何か、1つ想像力を増やしてほしいという、祈りのようなメッセージを受け取りましたね。

「でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男」場面写真

「でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男」場面写真

──最後に、これから映画をご覧になる皆さんへメッセージをお願いします。

この映画は本当に教訓になるところがあって、鑑賞して映画館を出たときに、きっと何か考えることがあるはず。映画の最後に流れる主題歌「なくしもの」が観てくださる方の心にどんなふうに響くか、すごく気になるところでもあります。この曲を聴いて、いろいろなことに想像をめぐらせている時間の中で、なんとなく自分の曲が心に残っていたらいいなと。映画も主題歌もぜひ味わっていただけたらと思います。

キタニタツヤ

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映画「でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男」主題歌特別映像公開中

プロフィール

キタニタツヤ

1996年生まれ。2014年頃からネット上に楽曲を公開し始める。高いソングライティングセンスが買われ、作家として楽曲提供をしながら2017年よりソロ活動も行う。2023年にテレビアニメ「呪術廻戦 懐玉・玉折」のオープニングテーマ「青のすみか」をリリースし、「第74回NHK紅白歌合戦」に出演を果たす。2024年には中島健人とのユニット・GEMNとしての活動をスタートさせた。2025年4月からはニッポン放送「キタニタツヤのオールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティを担当。自身初のホールツアーは、9月から12月にかけて開催される。