仲村トオル、デビュー作「ビー・バップ・ハイスクール」で感じた使命感と過信を振り返る (2/2)

映画には電車から人を蹴り落とす自由すらあるんだ

──物怖じと言えば、仲村さんは初めての映画から、めちゃくちゃなアクションをされているじゃないですか。生前、高瀬さんは仲村さんのことを「物怖じせずに、堂々とやってくれた」とおっしゃっていましたが、怖くなかったんですか?

僕の場合はそもそも未体験のことだらけだから、おびえることすらなかった、ということでしょう。失敗して痛い目に遭う経験もほとんどない状態で、高瀬さんの教え通りにアクションをやろうとしていたので、どれだけの危険が待っているのか、よくわかっていなかったんだと思います。

──つまり、事前にわかっていたら、怖れが生じていたかもしれない。

そうかもしれないですね。何もわかっていなかったから、怖くなかったし、とてつもない解放感の中で、「俳優って、映画ってこんなに自由なんだ」という気持ちで走り回っていましたから。電車から人を蹴り落とす自由すらあるんだという、とてつもない解放感で(笑)。

──その1作目の、走行中の電車(静岡鉄道)から戸塚水産の生徒が川に落ちるシーンなんて、危険極まりないじゃないですか。

映画1作目「ビー・バップ・ハイスクール」より。語り草となっている静岡鉄道からの落下シーン ©︎1985 東映 セントラル・アーツ

映画1作目「ビー・バップ・ハイスクール」より。語り草となっている静岡鉄道からの落下シーン ©︎1985 東映 セントラル・アーツ

あのシーンは、高瀬道場の瀬木(一将)さんと高山(瑛光)さんが、都合2回飛び込んでいるんですね。お二人が一度川に落ちて、服を着替えて髪を乾かして、もう一度電車へ当たり前のように乗り込んできたときの姿が、とても神々しく感じたんですよ。「プロという存在は、なんてすごいんだ。未経験であってもお客さんに観てもらう以上、俺もプロとしてがんばらなくちゃ」と発憤しました。

──危険と言えば、3作目「高校与太郎行進曲」の、リョウ(長谷川悟)たち無期停学組と工場の中で戦うシーンで、そこで移動する足場にトオルがつり下げられるアクションがありますよね。

映画3作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲」より。工場で停学組・与田と戦うトオルは、高所の足場から落とされかける。ここで与田を演じたのは、1作目で電車落ちを演じた高山瑛光 ©東映

映画3作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲」より。工場で停学組・与田と戦うトオルは、高所の足場から落とされかける。ここで与田を演じたのは、1作目で電車落ちを演じた高山瑛光 ©東映

ええ、袖から命綱のワイヤーを通してはいましたが……。確か、撮影している途中で何が原因かはわからないんですが、足場が止まってしまったんですよ。下では火柱が上がっているから熱くて熱くて(笑)。けっこうな時間が掛かったんですが、いったん降りて最初からやり直すよりは……と思い、「このまま続けさせてください!」と言ったのは覚えています。

──高瀬さんの回想によれば、そのシーン、本来はヒロシがつり下げられるはずだったそうなんです。けれど、清水さんが高所恐怖症だということがわかって、途方に暮れていたら、仲村さんが自ら「僕と清水さんのアクションを入れ替えてください」と申し出てくれた、と。

僕が自ら? 恐縮ですが、高瀬さんが美しく話を盛っている気がするなあ(笑)。そもそも僕の記憶では、もともと清水さんがやるはずだった、ということも聞いた記憶がないですし。高瀬さんから「ここにぶら下がってくれないか?」と言われただけだったと思うんですよね。僕は高瀬さんに「はい」と「わかりました」以外の返事をしたことがなかったので(笑)。

高い足場でのバトルについて振り返る仲村トオル

高い足場でのバトルについて振り返る仲村トオル

──下で爆発があって、火柱が立っていることは聞いていたんですか。

聞いたのは、ぶら下がることが決まってからだったような……今思うと、たいていのことは撮影の直前まで聞いていなかった気がします(笑)。とにかく、危ないし、火薬ももったいないからテストでは火柱は立っていませんでした。だから本番になって「うわ、こんなに燃えてるのかよ!」と思ったんです。

──立場が違えば、記憶も違うんでしょうかね。

そうだと思いますよ。今でも、久しぶりにスタッフの方たちと会って「ビーバップ」の話になると、静岡鉄道のシーンで瀬木さんたちが何度飛び込んだか、論争になるくらいなので。40年経っていることもあるんでしょうけど(笑)。

作品を全部背負わなきゃいけない、と思った時期

──ところで、先ほど1作目の「ビー・バップ・ハイスクール」を40年ぶりに観返したというお話をされていましたが、これまで観なかったのは何か理由が?

「ビーバップ」のトオル役が決まって、9月の1カ月は高瀬道場に通い詰めて、10月から11月半ばまで撮影して……と、これまでにないくらい、毎日がすごく充実していたんですね。それで作品を観たら、90分で収まってしまっている。映画作りを知らないだけに、「えっ? たったこれだけになっちゃうの?」という気持ちが大きかったんですよ。その残念な第一印象があったから、観返すことがないまま、40年経ってしまったんだと思います。

「ヤンキー座りを今でもできますか?」という編集部からのリクエストに「もう似合わないと思うけどなあ……(笑)」と言いながらも快く応じてくれた仲村トオル

「ヤンキー座りを今でもできますか?」という編集部からのリクエストに「もう似合わないと思うけどなあ……(笑)」と言いながらも快く応じてくれた仲村トオル

──「スター性がある」と、仲村さんをオーディションで選んだ黒澤満さん──このシリーズを製作したセントラル・アーツの社長からは、1作目の撮影が終わったあとに、何か言葉はありましたか。

黒澤さんは、たぶん僕だけではなく、ほとんどすべての俳優やスタッフに対して「よかったよ、ありがとう」と温かい言葉を掛けて褒めてくださる懐の広い方だったので、特にこの作品についての評価云々を言われたことはありません。ただ「映画、やってみてどうだった?」と聞かれたので、「とても面白かったので、続けたいです」と答えました。そうしたら「じゃあ、しばらくウチにいたらいいじゃないか。(松田)優作もいるし」と言ってくださって。

──そうしてセントラル・アーツに所属して、本格的な俳優活動をスタートする中で、2作目以降の取り組み方は変わりました?

そうですね……ある意味でよくない方向へも変わったりしました。

──よくない方向?

今考えれば過信、うぬぼれに近い状態になっていって、4作目の「高校与太郎狂騒曲」あたりになると、この映画版「ビーバップ」の中間徹に関して、一番わかっているのは自分だ、という気持ちになっていったんですよ。だからこそこの映画、この役に関しては自分が全責任を取らなくちゃいけない、というような意識になっていってしまったんです。

──主演俳優の1人という仕事を考えたら、悪いことではないような気がするんですが……。

先ほど、那須監督が何度もテイクを重ねるという話をしたじゃないですか。

──ええ、それが監督にとってもうれしい、と。

ただ、その逆のことがあったんですよ。5作目の「高校与太郎音頭」で、愛徳と北高の抗争を止めるために、前川(小沢仁志)と話し合うシーンがありますよね。あのシーンは、前川がかき氷をスプーンでピッピッとトオルの顔にかける、という流れでテストをしていたんです。ところが何度もテストをするうちに、本番になったらかき氷が完全に溶けていて……小沢さんは芝居を続けようと、水になったかき氷をザバッと僕にかけたんです。

映画5作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭」より。海の家で話し合いをするトオル(左)と前川(右) ©東映

映画5作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭」より。海の家で話し合いをするトオル(左)と前川(右) ©東映

──確かに、我々が観たのは水になったものがかけられている映像です。

ちょっと予想していない展開だったので、一瞬冷静になったというか、中間徹ではなく、仲村トオルになってしまった。でも、そのテイクに那須監督がオッケーを出したんです。なので「今一瞬、完全に真っ白になってしまいました。もう1回やらせてください」と言ったら、監督は「いや、今のでいいよ。これでいこう」と。それで「え、なんで? なんで今のでオッケーなの?」という気持ちになってしまって……。

──それまで何テイクも重ねてきたのに、ここはすんなりオッケーなのか、と。ただ、監督としてはその表情や雰囲気がよかったということなんでしょうけど。

そうなんですよ。でも、自分の中で納得できない……それこそが、うぬぼれだったんでしょう。そのあたりから、監督との関係がちょっとギクシャクしてしまったんです。それまで一緒にいてくれた高瀬さんが、4作目と5作目の現場にはいなかったのも大きかったかもしれません。だから、最終作「高校与太郎完結篇」の話を黒澤さんにされたときに「監督とうまくやれる自信がありません」とネガティブなもの言いをしてしまったんです。それを聞いた黒澤さんは、「最後は清水さんも戻ってくる、高瀬さんも戻ってくる、気持ちよく終わるのも大事だよ」とおっしゃった。それで「楽しんで終わろう」とクランクインしたのを覚えています。

──「高校与太郎音頭」は清水さんが不在で、仲村さんの単独主演だった影響もあるかもしれませんね。

そのプレッシャーは非常に強いものでした。当時21~22歳だったと思いますけど「1人で全部背負わなきゃいけない」と、ちょっと自意識過剰だったんだと思います。今それぐらいの年齢の役者が「この映画は俺に懸かっているんだ」と気負っているのを見たら、「若いね、キミ」と言ってあげたいですね。それが40年の経験かもしれない(笑)。

「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズ6作中5作は清水宏次朗、仲村トオルのダブル主演だが、5作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭」のみ、清水が歌手活動によるスケジュールの都合で不在に。作中でヒロシは「傷害事件で警察署に留置中」という設定だった ©東映

「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズ6作中5作は清水宏次朗、仲村トオルのダブル主演だが、5作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭」のみ、清水が歌手活動によるスケジュールの都合で不在に。作中でヒロシは「傷害事件で警察署に留置中」という設定だった ©東映

「ビーバップ」は一生懸命の詰まった映画である

──ところで今回、映画ナタリーでは40周年で改めて映画「ビー・バップ・ハイスクール」の魅力を知ってもらいたいと、「ビー・バップ・ナタリー」という特設ページを組んでいるんです。

そんなことを。ありがとうございます(笑)。

特集ページ「ビー・バップ・ナタリー」の存在について伝えるとうれしそうだった仲村トオル。この取材中にも、その前後にあったイベント中にも、「40年前の映画を好きでいてくださるなんて」という感謝を何度も口にしていた

特集ページ「ビー・バップ・ナタリー」の存在について伝えるとうれしそうだった仲村トオル。この取材中にも、その前後にあったイベント中にも、「40年前の映画を好きでいてくださるなんて」という感謝を何度も口にしていた

──その中で登場された、芸人のケンドーコバヤシさんから「仲村さんは、国内外のいろいろな作品に出ておられますが、『ビーバップ』より危険な現場はありましたか?」という質問を預かってきました(参照:映画「ビー・バップ・ハイスクール」大好き芸人ケンドーコバヤシが、その魅力をニューヨークに熱弁!)。

危険かあ……。「ジェネックス・コップ」(1999年)という香港映画でしょうか。うわさ通り香港映画には台本がなく、毎日現場に行って指示を受けて変わっていくという現場でした。

──ニコラス・ツェー、スティーヴン・フォン、サム・リーといった香港の若いスターが演じる新人警官たちが、仲村さん演じる赤虎というテロリスト組織のリーダーに迫っていく、というお話で。

ビルの屋上からニコラスたちがパラシュートで次々と飛び降りて逃げようとする。そこで僕がビルの端まで走って追いかけて銃で撃ちまくる、というシーンだったんですが、その屋上にフェンスがないんですよ(笑)。しかも、確か日曜日の撮影だったんですけど、ビルの下には休日で和んでいる人がいるんです。当然、安全対策はしてくださっていたんでしょうけど、「これ、自分が足を滑らしたり、転んだりしたら絶対ダメだ!」と思ったのがもっとも危険だと感じた撮影かもしれません。

──現場で指示が変わって、ギリギリのアクション……「ビーバップ」に近いのでは?

ははは、確かに。

──やっぱり、仲村さんにとっては「ビーバップ」は俳優人生の基本なんですね。

僕の人生をいい方向に変えてくれた大切な作品です。40年前、あの映画を撮った人たちや、出演している僕たちを許して、受け入れてくれた方々、それを許してくれるパワーのある時代、すべてのことに改めて感謝したいですね。

──「ビーバップ」はいわゆるヤンキー映画のフォーマットになって、現在に至るまで観続けられているのも、そうしたパワーが感じられるからかもしれませんね。リアルタイムではない人たちにも視聴層が広がっているのですが、そうした若い方へのメッセージがあれば、ぜひ。

そうですね、ちょっと作品自体のこととは別になりますが……人間、がんばるとか、熱くなるとか、一生懸命とか、そういったものが恥ずかしい、という気持ちを抱くことがあると思うんです。実は、この映画に出演する前の僕自身もそうだったんです。けれど、「ビーバップ」に出て、それは逆だということに気付きました。自分がやったことだから、かっこいいとは言いませんけれど、一生懸命は悪くないよ、必要なことだよ、と。この映画から体感してほしいですね。

──ありがとうございます。本当に、命懸けのシーンが詰まった映画ですものね。

命懸けで思い出しました。先ほどの高い足場のシーンのエピソードを、友人に「命懸けってこういうことなんだ」と熱っぽく話していたら、それを聞いていた友人のお母さんから、真面目な顔で「世の中にはね、命まで懸ける仕事なんてないのよ!」と言われたんです。人の親御さんから心配されるなんて経験はなかったので、新鮮だったなあ(笑)。そんなことも含めて、「ビー・バップ・ハイスクール」は僕の人生にとって、貴重な作品ですね。

全身を黒で決めた仲村トオル。この衣装でイベントにも登場したところ、ファンからは「長ランとボンタンに寄せている?」という声もあったようだ

全身を黒で決めた仲村トオル。この衣装でイベントにも登場したところ、ファンからは「長ランとボンタンに寄せている?」という声もあったようだ

プロフィール

仲村トオル(ナカムラトオル)

1965年、東京都生まれ。1985年、映画「ビー・バップ・ハイスクール」の出演者オーディションにて、中間徹(トオル)役に選ばれ、俳優のキャリアをスタート。同作では第10回日本アカデミー賞ほか数々の新人賞を受賞し、作品も全6作が製作されるヒット作となった。1986年より放送のテレビドラマ「あぶない刑事」には町田透役で出演。ドラマ・劇場版ともに高い人気を得て、2024年公開の「帰ってきた あぶない刑事」まで続く人気シリーズに。2004年に日本公開された韓国映画「ロスト・メモリーズ」では、第39回大鐘賞映画祭にて、助演男優賞を外国人として初受賞。2005年日本公開の中仏合作映画「パープル・バタフライ」は第56回カンヌ映画祭コンペ部門に出品され、海外でも実力が評価された。2025年にはドラマ「イグナイト -法の無法者-」や映画「ブラック・ショーマン」に出演。そのほか舞台やナレーションなど、幅広く活躍している。