「子供はわかってあげない」上白石萌歌×細田佳央太|写真家・石田真澄が切り取った2年後の夏

共演者のお芝居を見て泣きそうになったのは初めて(細田)

──細田さんは、上白石さんの“目の芝居”に感化されたとInstagramアカウントに投稿されていました。

細田 はい。屋上での美波ちゃんともじくんのシーンなんですが、台本を読んだときに「自分が美波役だったら絶対こんなお芝居できない」と思っちゃいました。

上白石 私も無理だと思った(笑)。

「子供はわかってあげない」

細田 でもリハーサルのときから涙を流してた気がしますよ。

上白石 そうだったかな?

──沖田さんは「萌歌ちゃんが完璧なタイミングで涙を流した」とおっしゃっていました。

上白石 ほぼ順撮りで、屋上のシーンが最後の撮影だったんです。「子供はわかってあげない」は私にとって10代最後の作品だったし、すべての集大成をこのシーンに閉じ込めたいという思いが強かった。気持ちを持っていく必要はなくて、涙は自然に湧き出てきました。

細田 後ろに見える夕日も相まって、美波ちゃんがとにかくきれいだったことを覚えています。

──何回も繰り返して撮れるようなシーンではないですよね。

細田 テイク数は少なかった気がします。日の入りとか、大人の事情もあったので。

上白石 それ大人の事情かな?(笑)

細田 いや、ただの時間の都合ですね(笑)。僕、もらい泣きしそうになったんですよ。沖田さんに「俺も泣いちゃいそうです」と言ったら、ニコニコしながら「泣いちゃっていいよ」って。もじくんはそこで泣かない気がしたので我慢したんですけど、共演者のお芝居を見て泣きそうになったのは初めてでした。

「ダークライ好き!?」って来られたら?(上白石)

──いろいろな人間を演じられるのが役者というのはあると思うんですが、お二方ともハマり役すぎて、本当に美波ともじくんのような人なのでは?と考えてしまいました。実際にはどうですか?

細田 もじくんのほうが性格いいですよ(笑)。

上白石 あはは。そう?

細田 原作では、もじくんに暴力を振るったヤンキーたちを、“岩高の狂犬”千田くんがぼこぼこにするシーンがあって。千田くんは「(前にラブレターを代筆してもらった)借りは返したからな」と言うんですけど、もじくんは一見怖い人に対しても、偏見を持たずに心を開けるんだと思います。僕は人を受け入れることに対して怖さがあるし、壁を作ってしまうので……。書道をしているときに沖田監督から「もじくんっぽいね」と言ってもらえたので、似ているところもあるのかな?とは思いますが。

「子供はわかってあげない」

──美波とは劇中アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」をきっかけに仲良くなりますが、細田さん自身の性格だったらあんなに仲良くなれてはいないですか?

上白石 「ダークライ好き!?」って来られたら?(※編集部注:細田は「ポケットモンスター」の大ファン)

細田 共通の趣味の話から始められたらうれしいですけど、それは裏がありそうでちょっと怖い(笑)。

──上白石さんはどんなふうに役作りを?

上白石 今までの作品の中で、一番肩の力を抜いて臨めたのがこの作品です。装備品は身に着けず、自分に足し算ではなく引き算をしていく作業が多かったので、美波はほとんど私と言ってもいいかもしれません。水泳が好きで、水の中に自分の居場所を求めているところとか。

細田 行動力があるところも似てますよね。作中で、もじくんが美波ちゃんに引っ張られているのと、僕が萌歌ちゃんに引っ張られているのがリンクして「萌歌ちゃんって、美波ちゃんなんじゃないか」と感じることもありました。あとは家族仲がいいのも一緒だと思います。ご家族と過ごしているところを見たことはないですけど、楽しい家庭なのは間違いない。

上白石 合ってる(笑)。

「好き」が始まりじゃなくてラストにある(細田)

──みずみずしい青春映画の傑作だと思うのですが、甘さだけでなく苦さも含まれているのは原作と共通していますね。

上白石 私も、眩しすぎず輝きすぎていないところが好きです。自分はどこから来てどこに行くのかといったことや、親からの卒業もテーマだと思いますし。作られた青春ではなくて、自分の夏休みをそのまま映画にしてもらった感覚が強いです。

細田 甘いだけじゃないからか、「こういう青春送りたかった!」と思うことはなくて。自分が当時現役の高校生で、もうこういう青春が送れないことをわかってたのもあるかもしれませんが(笑)。僕がこの映画で大好きなのは、「好き」が始まりじゃなくてラストにあるところです。「誰かのことを好きな誰かの話」ではなくて、自分の心の興味に従った結果、最終的に「好き」につながる。すごく現実味があるなと感じました。

「子供はわかってあげない」

──「好き」につながる屋上のシーンは名場面でした。最後に、撮影から2年経っていることにちなみ、美波ともじくんの2年後に想像を巡らせたいと思います。今頃何をしていると思いますか?

上白石 ええーなんだろう! 横に並んで書道をしていてほしいです。

細田 一緒にいてほしい。常に2人でいてほしい。現実的なことで言うと、大学には行ったのかな?とか考えちゃう。

上白石 確かに。通ってたとしても、同じ大学ではない気がする。

細田 うん、一緒のところは目指してないと思う。2人とも、すくすくと成長していることを願います。

上白石 変わらずにいてほしいね。

上白石萌歌(カミシライシモカ)
2000年2月28日生まれ、鹿児島県出身。2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞。2012年デビュー。2016年にキリン「午後の紅茶」のCMで披露した歌声で注目を集め、2019年にはadieu名義でのアーティスト活動を本格始動した。2018年公開作「羊と鋼の森」では、第42回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞。主人公の少年に声を当てた劇場アニメ「未来のミライ」は、第71回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出された。2021年10月スタートの「連続ドラマW 宮部みゆき『ソロモンの偽証』」で主演を務め、2022年春から放送される連続テレビ小説「ちむどんどん」にも出演する。
細田佳央太(ホソダカナタ)
2001年12月12日生まれ。東京都出身。テレビドラマ「先に生まれただけの僕」「FINAL CUT」、特撮ドラマ「魔法×戦士 マジマジョピュアーズ!」に出演後、2019年に「町田くんの世界」で映画初主演を飾る。2020年、「さくらの親子丼」で連続ドラマに初レギュラー出演。そのほか映画「十二単衣を着た悪魔」「花束みたいな恋をした」「青葉家のテーブル」、ドラマ「イチケイのカラス」「ラブファントム」「初情事まであと1時間」にも参加し、「ドラゴン桜」では昆虫を愛する原健太を演じ注目を集めた。