映画ナタリー Power Push - 「64-ロクヨン-」

世代を超えた俳優たちの白熱演技バトル

2012年の「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、2013年の「このミステリーがすごい!」国内編第1位に輝いた横山秀夫の小説を「ヘヴンズ ストーリー」の瀬々敬久が映画化した「64-ロクヨン-」。昭和64年に発生した未解決誘拐殺人事件の真相に挑む県警広報官・三上義信と、彼を取り巻く人々が織りなす物語を重厚かつサスペンスフルに描き出す人間ドラマだ。

映画ナタリーでは、前後編2部作・計4時間の巨編となった「64-ロクヨン-」に集結したオールスターキャストのうち、ストーリーの中心を担うメインキャラクターを演じた佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、瑛太、三浦友和にインタビューを実施。それぞれの役に懸けた思い、豪華共演陣から得たものについて語ってもらった。

取材・文 / イソガイマサト 撮影 / 入江達也

広報室メンバーの俳優たちに助けられた(佐藤)

──「64-ロクヨン-」はミステリーとしての面白さと同時に、主人公・三上を中心とする多くの登場人物の対立や共鳴という、群像劇としての魅力も兼ね備えています。佐藤さんは、共演者の皆さんをどのように受け止められましたか?

佐藤浩市 三上は警察内部のほとんどの人と対立していますし、本来刑事部に所属していたのに今は不本意ながら警務部で広報官を務めているという心情を部下たちにも見透かされています。この映画には、三上が「ロクヨン」という事件を通して自身のあり方や他者との関係を見つめ直していくお話という側面もあるじゃないですか。三上は広報官として記者クラブと対峙し、警察内部のパワーゲームに翻弄されながらも「ロクヨン」の真相に迫っていく。そんな三上を部下である諏訪たちが支えるわけですが、同時に僕自身も広報室のメンバーを演じた綾野、榮倉、金井(勇太)に助けられましたね。

──共演者の方々は、それぞれの役を演じる際にどんなことを心掛けられたのでしょうか?

綾野剛 僕が演じた諏訪は広報室のメンバーの中でも記者クラブとの距離が近くて、瑛太くんが演じた秋川のことを「秋川ちゃん」と呼んだりしています。一方で諏訪は広報室の中でも感情的になりやすいタイプなので、熱を持って演じることを意識しました。

──諏訪は三上にとって右腕といってもいい存在ですね。

「64-ロクヨン- 前編」より。

綾野 前後編を通して、三上の背中を見ながらどんどん成長していく諏訪を演じることができればいいなと思っていました。

──印象的なシーンはありますか?

綾野 記者クラブを前に、浩市さんが脚本9ページ分の長ゼリフを言うシーンが非常に印象に残っています。

ただただぶつかっていこう(榮倉)

──榮倉さんは広報室の紅一点でもある婦警・美雲役にどのように臨まれましたか?

榮倉奈々 美雲には、「ロクヨン」のことをリアルタイムで知らない者の強みがあると思って。それは同時に、目の前にいる三上さんにだけぶつかればいいという強みでもありました。だから変な先入観を持たず、浩市さんにただただぶつかっていければいいなと思っていました。

──「刑事は男にしか務まらない」と言う三上に、美雲が反論するくだりが印象的でした。あのシーンでは三上という人物のある一面も浮き彫りになりますね。

榮倉 あのシーンは、何度か撮り直しをしてもらったような気がします(笑)。すごく緊張しました。

「64-ロクヨン- 前編」より。

佐藤 あの美雲のセリフは脚本の字面で見ると非常にわかりやすいものだけど、実際に口にすると説明臭くなるから難しいだろうなと思っていたんですよ。でも榮倉はそれをさらっと流れるように言うのではなく、三上ののどに魚の小骨のように刺さる言葉にしてくれた。美雲の思いがちゃんと出ていたしそれが三上の次の日の行動にもつながったので、ちょっと偉そうだけどいいシーンに仕上がったんじゃないかと。

榮倉 ありがとうございます。

──三浦さんが演じられた松岡は三上の刑事部時代の上司で、「ロクヨン」発生時とは関係性が変わっています。その微妙な関係性を演じるうえで、どんなお芝居を心掛けられましたか?

三浦友和 松岡は「ロクヨン」の現場を三上と共有している人間です。刑事部時代の三上の上司として厳しい態度を取りつつも、彼の熱さに引きずられていくような役回りだと解釈していました。

──三上に詰め寄られても「言えん」と言って情報を教えないシーンなどでは、松岡の複雑な胸中が見え隠れしていました。

三浦 何度も三上に詰問されるうちに、「言えん」と言ってたのに言ってしまうんですね。……言わないとストーリーが進まないので(笑)。

一同 (笑)

──トイレの個室の中で待っていた三上が松岡に詰め寄るシーンはすごい迫力でした。

佐藤 あれはほぼ原作通りです。ただ小説では、松岡がトイレに入ってきたことを三上が判断するきっかけが、手を洗ったあとに水を切る音なんですよ。でも実際にやってみたら水を切る音が聞こえなくて(笑)。それでどうしようか?となって、松岡がハンカチをパッと広げる音を聞いて三上が気付くという設定に変えたんです。

──三浦さんはあのシーンについてどんな印象をお持ちですか?

「64-ロクヨン- 前編」より。

三浦 あのトイレはセットだったから、臭くなくてよかったなって。

一同 (笑)

三浦 それはともかく、ああいうシーンでわざわざセットを組むような映画は最近は少ないんですよ。

「64-ロクヨン- 前編」公開中 / 「64-ロクヨン- 後編」2016年6月11日より公開

「64-ロクヨン-」

平成14年12月。県警の警務部秘書課広報室で広報官を務める三上義信は、ある交通事故の加害者の氏名を匿名で発表したため記者クラブからの突き上げに遭っていた。そんなある日、昭和64年に起こった未解決誘拐殺人事件「64(ロクヨン)」担当捜査員を激励するために、警察庁長官が視察に訪れるという通達を受け取る三上。長官の予定に被害者遺族の慰問が含まれていることから、殺された少女の父親・雨宮芳男の了解を取り付けろという命令が下される。かつて刑事部に所属し上司の松岡らとともに捜査に加わった「ロクヨン」発生時以来14年ぶりに被害者宅を訪れた三上だったが、雨宮は長官の慰問を拒否。匿名問題を巡り記者クラブとの緊張が高まる中、三上は雨宮が長官の慰問を拒絶する理由を探るため「ロクヨン」の捜査関係者を訪ねて回るが……。

スタッフ

監督:瀬々敬久
原作:横山秀夫「64(ロクヨン)」(文春文庫刊)
脚本:久松真一、瀬々敬久
主題歌:小田和正「風は止んだ」

キャスト

三上義信:佐藤浩市
諏訪:綾野剛
美雲:榮倉奈々

三上美那子:夏川結衣
目崎正人:緒形直人
日吉浩一郎:窪田正孝
手嶋:坂口健太郎
蔵前:金井勇太
辻内欣司:椎名桔平
赤間:滝藤賢一
荒木田:奥田瑛二
二渡真治:仲村トオル
幸田一樹:吉岡秀隆
秋川:瑛太

雨宮芳男:永瀬正敏
松岡勝俊:三浦友和

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佐藤浩市(サトウコウイチ)

1960年12月10日生まれ、東京都出身。1980年にテレビドラマ「続・続 事件 月の景色」で俳優デビューし、1982年の「青春の門 自立篇」で映画初主演を果たした。1994年には「忠臣蔵外伝 四谷怪談」で第18回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。その後も「ホワイトアウト」「ザ・マジックアワー」「誰も守ってくれない」「起終点駅 ターミナル」などで幅広い役柄を演じてきた。茶人・千利休役を務める「花戦さ」の公開を2017年に控えている。

綾野剛(アヤノゴウ)

1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。2003年に俳優デビューし数々の映画やテレビドラマに出演する。2013年に「横道世之介」と「夏の終り」で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2014年公開の「白ゆき姫殺人事件」「そこのみにて光輝く」で第88回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞に輝いた。2016年6月25日に白石和彌監督作「日本で一番悪い奴ら」、9月17日に李相日監督作「怒り」、秋に「闇金ウシジマくん Part3」「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」の公開を控えている。

榮倉奈々(エイクラナナ)

1988年2月12日生まれ、鹿児島県出身。2004年のテレビドラマ「ジイジ~孫といた夏~」で女優デビュー。その後「メイちゃんの執事」「Nのために」などに出演。現在はTBS系ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」に出演中。近年の主な映画出演作は「余命1ヶ月の花嫁」「アントキノイノチ」「娚の一生」「図書館戦争 THE LAST MISSION」など。

瑛太(エイタ)

1982年12月13日生まれ、東京都出身。2002年の「青い春」でスクリーンデビュー。近年の主な映画出演作は「まほろ駅前多田便利軒」「大鹿村騒動記」「一命」「ワイルド7」「僕達急行 A列車で行こう」「モンスターズクラブ」「まほろ駅前狂騒曲」「殿、利息でござる!」など。

三浦友和(ミウラトモカズ)

1952年1月28日生まれ、山梨県出身。1972年にテレビドラマ「シークレット部隊」で俳優デビューし、1974年の「伊豆の踊子」で映画初出演を果たす。近年の主な映画出演作は「アウトレイジ」「アウトレイジ ビヨンド」「死にゆく妻との旅路」「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」など。2016年6月18日より主演作「葛城事件」が公開される。