「ユーレイデコ」佐藤大×霜山朋久、最新ガジェット×ジュブナイルで描きたかった「嘘」と「本当」の物語

サイエンスSARUが制作を務めるTVアニメ「ユーレイデコ」の放送が7月にスタートした。“近未来ソーシャルネットワーク・アドベンチャー”を謳う同作の舞台は、「らぶ」と呼ばれる評価係数が生活に必要不可欠になった情報都市・トムソーヤ島。現実とバーチャルが重なり合うこの島で起こった、“0現象”という「らぶ」消失事件に少女・ベリィが巻き込まれたことから物語が動き出す。ベリィは、天才ハッカーで“ユーレイ”のハックが所属するユーレイ探偵団に参加し、トムソーヤ島に隠されたある真実を探っていく。

コミックナタリーでは、この挑戦的なオリジナルアニメ「ユーレイデコ」を作り上げた原案・シリーズ構成・脚本を務める佐藤大と監督の霜山朋久にインタビューを実施。佐藤と同じく原案に名を連ねる湯浅政明の1枚のイラストから始まったという「ユーレイデコ」の根幹から、最新ガジェット×ジュブナイルによって描かれる「嘘」と「本当」の物語を2人がどう作り上げたのか、たっぷり語ってもらった。

取材・文 / 前田久撮影 / 星野耕作

「ユーレイデコ」の世界を形作る3つのキーワード

トムソーヤ島

情報や個人のデータが、「らぶ」という評価係数で数値的に可視化された情報管理都市。住人は「デコ」と呼ばれる拡張現実(AR)・仮想現実(VR)を再現するデバイスの装着が義務付けられている。「デコ」によって市民たちの情報は相互共有されているため、不正やごまかしのない、安全で住み心地のよい都市となっている。

らぶ

トムソーヤ島で生活するための評価係数。デコを介して情報や個人のデータなどの相互評価を数値的に可視化し、多くの「らぶ」を集めるとデコの機能を拡張することが出来る。♡と数字で表示され、現実世界のSNSでいうところの「いいね」などのように、面白い動画や、かわいい写真を共有し、他人から評価されることなどで「らぶ」を集めることができる。島の住人は日々「らぶ」集めに奔走している。

デコ

トムソーヤ島の住人たちの目に装着が義務付けられている視覚情報デバイス。「デコ」によって住人たちは「らぶ」を数値的に可視化することができ、住人たちの情報はリアルタイムで島の管理組織に共有される。機能を拡張することも可能で、個々人の目に映る拡張現実(AR)・仮想現実(VR)を好きな見た目に変えることもでき、自分が見たいモノや風景しか見る必要がなくなっている。

あらすじ

情報や個人のデータが「らぶ」という評価係数で数値的に可視化された情報管理都市トムソーヤ島。この島の住人たちは「デコ」を使い、超再現空間と呼ばれる仮想空間と現実をリニアに行き来しながら生活を営んでいた。島では“怪人0”が引き起こしているとされる“0現象“と呼ばれるらぶ消失事件の噂が広がっており、少女・ベリィは“怪人0”の姿を暴き注目を集め、大量の「らぶ」を集めようとその姿を追うが、“0現象”に巻き込まれてしまう。その結果「ユーレイ」と呼ばれる住人登録の無い、見えない存在になってしまった彼女は、怪人0と0現象の謎を突き止めるため、天才的なハッカーでありユーレイのハックが所属するユーレイ探偵団に参加。舞い込む依頼を解決していくなかで、トムソーヤ島に隠されたある真実に近づいていく。

佐藤大×霜山朋久インタビュー

始まりは湯浅政明の1枚のイラスト

──“都市化されたソーシャルメディア”……FacebookやTwitterが現実空間にせり出しているようなビジュアルイメージが印象に残ります。実に現代的といいますか。

佐藤大 作っているほうからすると、実は「現代を描こう」「ソーシャルメディアを描こう」みたいなことは、そこまで考えていなかったんです。企画の途中で「探偵もの」だったり、「冒険もの」だったりのコアにある要素を考えながら、テーマを何にするかを議論していったら、「見せかけじゃない本物」とか、「嘘に見える本当、本当に見える嘘」みたいなキーワードが出てきたんです。自分の目で確かめる前から「嘘」も「本当」も与えられていて、自分たちでは環境を選べない子たちが、自分たちにとっての「嘘」と「本当」を改めて見つけていくような物語を描く。そのために、設定した「見せかけじゃない本物」「嘘に見える本当、本当に見える嘘」というキーワードを、ベリィの片目では「本当」が見えてもう片方の目には「嘘」が見える……みたいな具体的な設定に落とし込んだり、わかりやすく、可視化して物語に描いていくための設定を考えていきました。“都市化されたソーシャルメディア”は、あくまでその過程で出てきたものの中の、ひとつでしかないんです。

佐藤大

佐藤大

──そうなんですね。てっきりそのアイデアが先にあったのかと。

佐藤 「デコ」もそうですね。打ち合わせの最中に湯浅(政明)さん(※今作の「原案」として共同クレジットされている)がいきなり何か描いてるなと思ったら、「デコってどう? 『デコレーションカスタマイザー』の略で」みたいな話をし始めたので、それを取り入れました。

──企画の根幹にありそうなガジェットや世界観に関わるアイデアは、そうしたアドリブ的なやり取りの中で後から出てきていたんですね。遡ると、今作の企画はいつ頃、どのような形で立ち上がったものなのでしょう?

佐藤 そもそもは2016年ぐらいに、プロデューサーの鈴木哲史さんから、「サイエンスSARUさんでオリジナルの企画をやりませんか?」みたいな話をいただいたのがスタートです。ただ、その前から原案としてクレジットされている湯浅政明さんとは、いろんなタイミング……例えばアニメイベントのゲストとして一緒に呼ばれて、裏でお会いしたときなんかに、「何か企画を一緒にやりたいですね」と話していました。実際に何度か湯浅さんと企画開発を進めていたこともありましたが、実現はできませんでした。そんな中、鈴木さんから企画のお誘いをいただいた、という経緯ですね。

──お付き合いは長かったんですね。

佐藤 最初に鈴木さんからご説明いただいた企画の意図としては、湯浅さんが描いた、少年探偵団や超再現空間が出てくるオリジナル企画の一枚絵を原案というか、発展させた形で、シリーズものができないか……みたいな話でしたね。

──そこからしばらくは佐藤さん、湯浅さんと、鈴木さんのあいだで企画を練られて。

佐藤 そうです。といっても、最初のうちは企画の打ち合わせというよりは、湯浅さんへのインタビューに近い形でのアイデア出しをしていました。そこから紆余曲折があって、実は2回くらい企画が消滅しそうな流れもあったんですけど(笑)、最終的には2017年か2018年ぐらいから本格的に動き始めて、2019年にはほぼ、やることが確定していました。

“事件もの”から紆余曲折で少女の物語へ

──「紆余曲折」とおっしゃいましたけど、そうした一連の流れの中で、いちばん大きかった企画内容の変化というと、何になるのでしょう?

佐藤 一番大きかったのは、もともとは少年探偵団というだけあって、江戸川乱歩の作品に近いテイストの企画だったんです。ところが、我々が長く話し合っているあいだに、著作権が切れたこともあって、乱歩作品をモチーフにしたアニメがけっこう先に発表されまして。

──一時期、乱歩の作品がモチーフのアニメが続きましたね。

佐藤 だから、乱歩だけだと企画として弱くないか?という話になって、そこから「トム・ソーヤーの冒険」「ハックルベリー・フィンの冒険」といった別作品のモチーフが入り始めました。実はどちらも探偵小説の要素があるんです。特に「ハックルベリー・フィンの冒険」は、作中でハックの父親が殺されるんですけど、最後まで誰が殺したかわからないまま終わることで、いろいろな読みにつながっている。そこに打ち合わせに参加していた人たちが皆、強く反応したんですよね。登場人物の誰もそこに興味を持たなくて、どういうことなの?で話が終わる雰囲気が、この作品が描こうとしているテーマにピッタリだな、と。

左からハック、ベリィ。メインキャラクターの名前も「ハックルベリー・フィンの冒険」が由来になっている。

左からハック、ベリィ。メインキャラクターの名前も「ハックルベリー・フィンの冒険」が由来になっている。

──竹内康浩さんによる「謎とき『ハックルベリー・フィンの冒険』―ある未解決殺人事件の深層―」という研究書も出ているくらい、興味深い題材なんでしょうね。ともあれ、乱歩に限らず、もう少し児童文学、ジュブナイル作品の中で参照枠を広く取ることになったと。

佐藤 そうですね。そしてもうちょっと、企画がポップになりました。最初は事件ものの要素が強かったんです。そこから少女の物語に変わっていった……あ、考えてみれば、それ以前に一番大きかったのは、主人公が少年から少女に変わったことでしたね(笑)。

──わ、確かにそれはかなり大きい。こうした流れの中で、霜山監督はどのタイミングで企画にご参加されたのでしょう?

霜山朋久 サイエンスSARUで「SUPER SHIRO」のチーフデレクターをやったときにお話をいただきました。最初の顔合わせは2019年の11月でしたね。懐かしいですね。

佐藤 懐かしいですね。

──もうそのタイミングだと、企画はかなり固まっていました?

霜山 そうですね。ただ、作品のラストと細かい設定がそこまで決まっていない状態で、自分が入ってから、ちょっと視聴者の方にわかりづらそうな部分を変えてもらいました。といっても、俺が決定したのではなく、あくまでアイデア出しをして、大まかな方向性をお願いしただけですけどね。

霜山朋久

霜山朋久

佐藤 でも監督が入ったことで、作品のテイストの根底にある部分がかなり変わった印象があります。もともとはどちらかというと、ガジェットやギミックを見せることを重視した作品だったんです。それが割と、設定を見せることよりも、登場人物たちの物語にぐっとフォーカスしていくことになった。主人公たちの過ごす日常だったり、何気ない要素にフォーカスしていくためのアイデアを、かなり霜山監督からいただいた感じがありますね。

霜山 確かに、それはありますね。設定をわかってもらうような作りの作品ではなく、設定がある程度わからなくても楽しめるような内容にしたいです……っていうお願いをしました。でも、それって佐藤さんにとっては大変でしたよね? こんな難しい設定を、そんなわかりやすいお話にできるか?って。

佐藤 大変でしたが楽しかったです。完成した内容にも、細かく作った設定はバックボーンとして活かされていますから。監督がおっしゃったことは、別にそうした設定をなくすのではなく、見せ方、描き方を変えるっていう感じでしたよね。

霜山 ですね。参加する前にあったものから、世界観のリアリティは変わっていない。この作品で描こうとした世界を見せる味付けは変わっているけど、世界のルールそのものはあんまり変わってないです。大さんに「ここ、もうちょっとこういう方向がいいです」って言うと、それをほぼ汲んで作っていただけたので、大さんと組ませてもらえると本当に楽だなあって思ってました(笑)。

佐藤 いやいや(笑)。監督のビジョンがはっきりしていたので、すごくアイデアの出しがいがあるというか。迷いがなかったのはありがたかったし、楽しかったですね。

2022年8月5日更新