コミックナタリー PowerPush - 梅内創太「四弦のエレジー」

音大出身のルーキーが放つ音楽サスペンス 音が“視える”兄弟のオリジナル楽曲も公開

音楽なんて描きたくなかった

──音楽を題材にした連載は今作が初めてとのことですが、何か特別な思いはありますか。

「四弦のエレジー」より。

あの……、最初は本当に描きたくなかったんです。読み切りを描いてたころに、音楽メインの話はどうかって言われたんですけど「やだ」って言って(笑)。

──それはなぜなんでしょう。

音楽やクラシックの世界、そこで生きていく空気に対して、憎しみしかなかったんですよね。せっかくそこから脱したのに、またそれと向き合わなきゃいけないっていうのが……。

──先生にとって音大時代はそんなに暗黒なものだったんですか?

いや、一緒に過ごした友達とかとの時間はすごく楽しかったんですよ。でもクラシック音楽をやらなきゃいけない環境にいることがとにかく苦痛で。私の場合母が厳しくて、音楽は絶対にやるものとして、強制されているっていう感覚だったので。

──なるほど。自分を抑圧しているものになっていたという。今作を描かれるときはどのようにそれを乗り越えられたんでしょう。

「四弦のエレジー」より。

音楽ものではなくて、みんな表現者のひとりだっていうくくりでとらえたことですかね。作曲家やヴァイオリニストを描いてるっていう意識よりも、表現者を描いてるという意識の転換をして描こうと思えるようになりました。

──音楽の演奏も、表現者によるパフォーマンスの一部分であるという心持ちで描くんだと。

ええ。「四弦のエレジー」を描く少し前、ダンス動画を見るのにハマっていたんですが……好きになったダンサーの方が、自分はダンサーというよりも表現者である、ということをおっしゃっていて、なるほどなと。ダンサーを描きたいけど難しそうだなあ、と思っていたんですけど、そこで自分のやってきたことも同じだな、と気付けたんです。

お固いドイツから、洒落たフランスへ

──第1話でもアリョーシャがエンリコのために作った「リラの花」の演奏シーンが印象的でした。実際の楽曲とマンガはどちらが先にできたんでしょう。

マンガが先ですね。演奏シーンのネームを作った後に、作曲科を出た友人に見せて「こういうイメージで」と伝えました。

「四弦のエレジー」より。

──ほかにもさまざまなオリジナル曲が登場していますよね。例えば同じく1話で、ブロイアーの作った曲をエンリコが弾いている。この中で鳴っている曲については、先生の中にイメージはあるんですか?

そうですね……ワーグナーとかブラームスとか、私からしたらクソつまんない曲(笑)。

──はははは(笑)。確かにドイツの作曲家には真面目で固い、というイメージがありますね。

聴いてて眠くなる感じです(笑)。だからこの物語は、私が苦手なお固いドイツを脱出して、洒落てて柔らかいフランスに行くという流れを描いているんですよね。

ピアノは孤独

──自分の今までの音楽人生について、マンガの中に活かされている部分はありますか。

例えばアリョーシャの「音が視(み)える」っていう設定ですけど、その風景については自分が今まで20年くらいやってきた経験から自信を持って描ける、とかでしょうか。このマンガだとメインに出てくるのはヴァイオリンだから、ピアノに比べてわからないところもいっぱいあるんですけどね。

──ああ、確かに先生はピアノ科出身なのにマンガの主役はヴァイオリンですね。

「四弦のエレジー」より。ブロイアーの曲を演奏した後のエンリコは、アリョーシャからは化け物に視える。

楽器を持った状態で動けて、演奏しているときの見た目がいいので。というか、ピアノがそんなにカッコよくない……(笑)。

──(笑)ピアノだと確かに、姿勢やポジションがかなり固定されてしまうというのは。

はい。顔の見える構図が描きにくいし、ステージでもずっと横向きだし。あんまり映えないかな、と。あとピアノって結局、孤独なんですよね。

──孤独といいますと。

例えばヴァイオリンだと独奏、協奏曲、四重奏……いっぱい演奏の形態もあるし、オーケストラにも参加しやすくていろいろ描く側としても広がりを付けやすいんです。だけどピアノはそれが難しい。私が音大にいたときも、明らかに弦科の子は友達の幅が広いんですよね。だけどピアノ科は、同じ科の子としか付き合いがなくて、なかなか友達ができない(笑)。

やるんなら最後までやったほうがいい

──最後に読者の方へお伝えしたいことなど、ありましたら。

クラシック音楽マンガだと思わないでくださいっていうことかな。自分でも絶対つまんなそうって思っちゃうから(笑)。

──梅内先生が「四弦のエレジー」を一言で表すとしたらどのようなものになるんでしょう。

うーん……音楽バトルファンタジー(笑)。自分の中ではファンタジーです。

──なるほど。ちなみに、音大からマンガ家という人生を歩んだ梅内先生から、現役で音楽を学ばれている人々にメッセージはありますか。

そうですね、やるんなら最後までやったほうがいいよ、というのは。

──その心は?

「やりたくないやりたくない」って言ってやり続けて、やり切ることに意味があると思うので。音大生って、やりたいことがポンポン出てくるタイプの子が多いと思うんですけど、その中でひとつやり遂げた、っていうことが後々自分の自信になると思うので。私が今そうだから。

──飽きても最後までやれよ、と。

まあ、やめたかったらやめたらいいっていうのはもちろんあるんですけどね。ただ結局、自分でどうにかするしかないから、何事にも覚悟が必要だよねっていう。そういうお話です。

梅内創太「四弦のエレジー(1)」 / 2015年4月10日発売 / 596円 / 小学館 / Amazon.co.jp
梅内創太「四弦のエレジー(1)」
“囚われの兄弟”の旋律は国境を越えて──

19世紀末、ドイツ。囚われの兄弟は、
自分達の自由な旋律を求め、
国境を越えパリへ──
音大出身の気鋭が綴る音楽サスペンス始動!!

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梅内創太(ウメウチソウタ)

梅内創太11月23日生まれ。神奈川県出身。血液型O型。音大を卒業後、漫画の道へ進むことを決意。2009年6月に第1回ゲッサン新人賞佳作受賞。2010年6月に第66回新人コミック大賞入選。2010年9月に「ヴァラドラ」でプロデビュー。その後も読切に加え「Bloody Rose」「ドン・バルバッツァの息子達」という2作を短期集中連載し、「四弦のエレジー」で本格連載デビュー。