コミックナタリー PowerPush - 吉河美希「山田くんと7人の魔女」

男子も女子も、入り乱れてキス三昧!「ヤンメガ」の吉河美希が放つ、型破りな学園ラブコメ

キスシーンは毎回被らないように試行錯誤

──「山田くんと7人の魔女」は、主人公の山田がキスをした相手と入れ替わってしまう、という筋書きですが、男子同士のキスや女子同士のキスも盛り込まれていて、ネット上でちょっとした話題になりましたね。腐女子の皆さんが「ちょっとマガジン買ってくる」ってザワついたり。

上から3巻第25話、3巻第18話より。同性同士のキスシーンも度々登場する。

それ、担当から聞いて知りました。あんまりネット見ないので、疎くて……。

──BLや百合とかは、全然通ってきてはない?

そういうジャンルがあることは知ってますけど、読んだことはないですね。特に意図してやっているわけじゃなくて、必然性があるから描いてるだけなので。話題にしてもらえるのは、とてもうれしい限りです。

──確かに同性同士のキスシーンは、基本的には「入れ替わる」という目的のための行為として、前ぶれも余韻もなく登場しますもんね。たくさんキスシーンが出てきますが、それぞれバラエティ豊かに描かれている気がします。それこそ横から上からさまざまな角度でだったり、はたまた直接キスの瞬間は描かれてなかったり。

毎回違うふうに描こうとしてるので、結構大変なんです。キスって、実は割とアングルが限られちゃうんですよ。真上から切り取っても、キスしてるってわからないですよね? 必然的に一番わかりやすい真横からのアングルが多くなっちゃう。でも絶対、全部被らないようにしてるんです。

──その縛りはすごい。TVドラマや映画など、参考にしてるものはあるんですか?

ないですね。いったんキスシーンを紙に描いてみてから、どのカメラアングルから描こうかなって考えるんです。その後でこれまでに描いたキスシーンを全部振り返って、被ってないか検証。無駄な労力ですよね(笑)。

──いやいや、その努力は伝わりますよ。色んな角度や姿勢で描かれてるなあと思ってました。

そう思ってもらえるとありがたいです。

──3巻までで出てきたキスの回数を調べてみたんですけど、はっきり絵でキスとして描写されているものだけでも山田×うららが10回、山田×伊藤と山田×宮村が4回、山田×小田切が2回、宮村×うらら、宮村×伊藤、伊藤×うららがそれぞれ1回ずつの計23回でした。

キスの回数は普通のマンガの100巻分くらいいってるんじゃないですか?(笑) ほかの作家の人とかに「こんなのやっちゃっていいの?」とか言われますね。男女がキスするのってラブコメだったらクライマックスなのが普通なのに、こんなに簡単にやっちゃダメでしょ、と。

仕事場のキッチンも作業スペースとして活用。複合機の向かいにあるIHコンロは、FAXする直前に原稿を修正する台として活躍しているそう。

──「ヤンメガ」には1度もキスシーン出てきてないですもんね。そこから考えるとギャップがすごい。うららや伊藤さんが、女の子なのにグイグイ自分からいっちゃうのもドキドキしちゃいます。

山田の周りの人たちはキスへの抵抗がなさすぎて、おかしいですよね(笑)。でも伊藤さん、何気に男性読者から人気あるんですよ。

物語はまだまだ序章

──伊藤さん、出てきた時はかなり電波チックで、どんなウザキャラ!? と思っちゃいましたけど(笑)。彼女含め、出てくる女の子は皆それぞれにかわいいですよね。モブの1人ひとりに至るまでしっかり造形されていて驚きました。

1巻第5話より。うららとクラスメートたち。

脇の子たちも進学校っていう世界観を構築する1人なので、やっぱり適当にはできないなって。忠実に学園生活を表現するために、モブにも力が入ってしまうというか。

──これだけの数の女の子を個性豊かに描き分けるのって難しいんじゃないかと思うんですが、友達とか実在のアイドルとかをモデルにすることはありますか?

ないですね。誰かをモデルにしたとしたら、そのキャラクターに無茶なことさせたくない……じゃないけど、変な感情が湧いてきちゃいそうで。名前とかも含め、絶対に自分の周りにいない人にしてます。

──「ヤンメガ」の単行本で「女の子を描くのが苦手」って書いていらっしゃいましたが、今は克服できました?

いや、まだ苦手です……。人によって「かわいい」の基準は違うから、いろいろと悩みます。

──「ヤンメガ」の花もそうですけど、うららも謎な部分が多いですよね。なんで山田にだけ最初から心を開いてるの? とか。ミステリアスな部分は、ヒロインにとってやはり大事な要素でしょうか。

そうだと思います。うららも何考えてるのかよくわからないっていうのを出すようにしてますね。わかんないところがある人って、とりあえず気になるじゃないですか。そして気になるって多分「好き」につながる第1歩だと思うので。

仕事場で飼っているペットの猿。撮影当日はご機嫌ななめの様子だった。

──4巻までの間、山田の周りにはそれぞれに不思議な能力を持った魔女が3人出てきて数々のドラマが生まれているわけですが、今後はタイトルにある「7人の魔女」とは何かとか、そのあたりの謎も解き明かされるんですよね。

ふふふ。ここからいろいろ出てきますから。

──残り4人の魔女がどんな能力を持っているのか、どんな女の子なのか楽しみです。「ヤンメガ」のときはかなり制作現場もドタバタだったようですが、「山田くん」はかなり構築的にストーリーを作られているんですね。

「ヤンメガ」と違って大きな筋がある話なので、毎週のヒキを考えたりが大変です。結構話がポンポン進んで、どうなっちゃうんだろうってみんな思ってるかもしれないけど、4巻でもまだ序章と言う感じなんです。これから想像を絶する話……じゃないですけど、色んな展開が待ってるので期待しててください!

あらすじ

進学校である朱雀高校一の問題児・山田は今日も先生に怒られて超不機嫌。そのうえ、優等生の白石うららと一緒に階段から落っこちて、死んだ!
と思ったら白石と体が入れ替わっていた!! 相性サイアクな2人の運命が、不思議な力をきっかけに結びつく!!

キスするとナニかが起こるスクール・ラブ・コメディ開幕!!

最新5巻は2013年2月15日より発売中。また講談社のサイト・コミックプラスでは、スマートフォン&タブレットでも読める第1話が、全ページ公開されている。

吉河美希(よしかわみき)

プロフィール写真

2003年マガジンSPECIAL(講談社)にて「GLORY DAYS」でデビュー。以降、真島ヒロのアシスタントを経て、2005年に少年マガジンワンダー(講談社)に「ヤンキー君とメガネちゃん」を掲載。読み切りや短期連載での掲載を経たのち、翌年、週刊少年マガジン(講談社)にて正式連載が開始した。不良少年とクラス委員長の元不良少女が漫才のような掛け合いを繰り広げるコメディは人気を博し、2010年にドラマ化。2011年に完結した後、2012年2月から「山田くんと7人の魔女」の連載を開始した。


2013年2月18日更新