GA文庫大賞《大賞》受賞作と、初監督の挑戦的な演出の化学反応が光る「処刑少女の生きる道(バージンロード)」原作者・監督・チーフプロデューサー鼎談

4月に放送がスタートしたTVアニメ「処刑少女の生きる道(バージンロード)」。同作では、異世界の日本からやってくる《迷い人》を殺す役割を持った《処刑人》の少女・メノウと、無自覚な“とある能力”によってメノウにも殺せない《迷い人》の少女・アカリを軸に物語が紡がれる。不死身のアカリを殺しきるため、いかなる異世界人をも討滅可能な儀式場があるというガルムの大聖堂を目指すメノウ。アカリを騙してともに旅に出たメノウだったが、妙に懐いてくるアカリを前に、メノウの心は少しずつ揺らぎはじめて……。

原作は、GA文庫大賞にて「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」以来7年ぶりの大賞に輝いた佐藤真登によるファンタジー小説。アニメーション制作のJ.C.STAFFをはじめ、アニメ「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」に携わったスタッフが多数参加している。コミックナタリーでは、ひとつの山場を迎えるアニメ第6話放送を前に、原作者の佐藤真登、監督の川崎芳樹、プロデューサーの大澤信博による鼎談を実施。大澤の「監督に一言、お礼を言いたかった」という言葉から始まった取材では、佐藤の小説での表現を考え抜いて映像化した川崎監督のこだわり、初監督作だからこそチャレンジしたという演出から、“とある映画”に影響を受けたというシーンまで語ってくれている。

取材・文 / 前田久

絵コンテを見て、面白いものになる確信があった(大澤)

──今作の第1話は衝撃の展開でした。今日はそのオンエア直後の取材ですが、お手元に届いた反響はいかがですか?(※取材は4月初旬に行われた)

佐藤真登 新鮮ですね。原作はある程度、今のライトノベルのパターンに慣れている方が手に取られていたように思います。でもアニメになると慣れていない人のところにも届くので、「こういう感覚で受け取られるんだ」と驚きがありました。おかげで、読者のイメージをアップデートできたように感じています(笑)。

川崎芳樹 私はもう、佐藤先生やキャラクター原案のニリツ先生、コミカライズの三ツ谷亮さんをはじめ、関係者の皆さんが楽しそうに実況されている姿をちらちらと見つつ、作品を預かっている身としてはもうずっと心穏やかならずで。どうしても作った側からすると「もっとああすればよかったんじゃないか……」という自問自答はあるところでして、だからその意味では、プロデューサーの大澤さんに景気のいい話を聞かせていただけると、大丈夫だったと思えるんですがいかがでしょう?(笑)

大澤信博 すごいね、話題の振り方がインタビュー慣れしてる(笑)。でも本当に、そう言われたからじゃなく、今日ここにいるのは監督に一言、お礼を言いたかったからなんですよ。ずいぶん会えてなかったじゃないですか。

「処刑少女の生きる道(バージンロード)」第1話より、メノウ。

「処刑少女の生きる道(バージンロード)」第1話より、メノウ。

「処刑少女の生きる道(バージンロード)」第1話より、アカリ。

「処刑少女の生きる道(バージンロード)」第1話より、アカリ。

佐藤 そうなんですか? 意外ですね。

川崎 コロナ禍ということもあって、アニメのスタッフが集まる機会は本当に減っているんです。

大澤 そう。コロナ禍じゃなければ打ち入りだ、打ち上げだと、何かとスタッフで集まるんですけど、まったくそういう形でのコミュニケーションができなくなっちゃったんです。だから感想も、こうした取材でもなければ直接お伝えできる機会がなかなかない。

──寂しいですね。

大澤 本当に、オンエアの反響はすごくよかったです。ただ、その反応は僕としては第1話の、監督がみずから手がけた絵コンテが上がってきたときに、確信があったんですよね。これは面白いものになるな、って。

佐藤 僕も本格的なアニメの絵コンテをちゃんと見るのは初めてだったんですが、1話の絵コンテが届いて読んだとき、純粋に読み物として面白いなと思いました。

大澤 絵コンテが素晴らしすぎて、作画が追いつくのかが心配になったくらいで(笑)。でも完成したものは予想通り……いや、予想以上のものが上がってきた。本当にありがとうございました。

川崎 いやいや。恐縮です。

「処刑少女の生きる道(バージンロード)」第1話より、メノウ。

「処刑少女の生きる道(バージンロード)」第1話より、メノウ。

「処刑少女の生きる道(バージンロード)」第1話より、アカリ。

「処刑少女の生きる道(バージンロード)」第1話より、アカリ。

大澤 本当に大変だったでしょう? 初監督作品で、しかも制作現場のJ.C.STAFFと本格的に組むのは初めてで、お互いに慣れない状態だっただろうし。そういうときって、監督と制作会社が、どうしてもお互いの地力みたいなものを探り探りになるじゃないですか。その状況でよくあれだけのものを完成させてくださったなと。

川崎 ……なんかちょっと気持ちがよくなってきました(笑)。おっしゃるとおりで、「監督」という立場で1話目の絵コンテを描くのは初めてだったので、やはり多少の緊張感はありました。

──やはり監督の下で、各話スタッフとして関わるのとは意識が違いますか。

川崎 監督作での第1話の絵コンテというのは、「どういう方針でこのアニメーションを作っていくのか」の前提となるものといいますか、シリーズ全体の方向性を示さなきゃいけない。それがうまくいくのかどうか、そして、見てくれる人たちにも受け入れられるかどうか。その前にまずは、製作委員会のプロデューサーの人たちや、原作者さん、それから作ってくれるスタッフの人たちに魅力を感じてもらえる絵コンテにしなければならない。ヒヤヒヤします。加えて初監督作ですから、多少チャレンジングに、普段、各話のスタッフとして関わっているときだったら、作業のカロリーが若干高いから抑えようと思うような表現を、あえてやってみたくもあったんです。そうしたら制作プロデューサーの鈴木(薫)さんからは案の定、「最初からそんなに飛ばさず、少し抑えてください」と言われたりして(苦笑)。

大澤 ははは。いやでも、面白かったから。初監督はそれくらいじゃないと。そうしたチャレンジしている姿勢も含めて、第1話は素晴らしかったと思います。

魔導の「発動」はラノベの詠唱の流行り廃りから考えた (佐藤)

──第1話の内容は原作に即したものですが、そもそも監督は最初に読んだとき、どんなご感想を持たれたのでしょう?

川崎 ライトノベルって、私の子供の頃からありまして。でも私自身はそんなに読んだことはないんです。それでもどこか昔懐かしい、王道のライトノベルの雰囲気があるように感じました。そのうえで、とりわけ1巻ですが、賞レースを通るための掴みのよさというか、ケレン味をふんだんに盛り込まれているなと感じましたね。率直に「すごいなあ」と。アニメで演出するときも、そのケレン味の部分をしっかり押して作ろうと考えていました。

佐藤 掴みをよくすることは、書くときに意識していたことです。というか、書くうえで最初に思いついたのが、冒頭の展開だったんです。1巻に関しては何はなくとも、あそこがもっとも大事でした。そこを押さえたうえで、後ろの部分でも楽しんでいただけるように工夫して書いていくような意識でしたね。

第1話冒頭では、異世界へ少年が召喚される場面が描かれるなど、“異世界転移もの”の雰囲気で物語が進んでいく。

第1話冒頭では、異世界へ少年が召喚される場面が描かれるなど、“異世界転移もの”の雰囲気で物語が進んでいく。

途方に暮れていた少年を助けたのはメノウ。最初は優しく接していたメノウだったが、少年が持つ能力の危険性を確認すると躊躇なく彼の息の根を止める。

途方に暮れていた少年を助けたのはメノウ。最初は優しく接していたメノウだったが、少年が持つ能力の危険性を確認すると躊躇なく彼の息の根を止める。

大澤 アニメの脚本周りの打ち合わせを始めるにあたって、会議の冒頭で佐藤先生と、それから監督にも、「これはメノウとアカリ、殺す側と殺される側のふたりの主人公がいるわけですけど、あくまでメノウを軸にして描く形でいいんですよね?」と確認した覚えがあります。

佐藤 ああ、そうでしたね!

大澤 「これはあくまでメノウのお話です」と確認することで、一本、アニメのシリーズ構成を考えるうえでの筋が通った。あとは監督に相談したのが、やはり絵ですね。特に魔導の「発動」を、どうやって絵にするのか。この作品の絵を考えるうえで難しいところは、異世界ものでは珍しい、日本語表記のある世界観なこと。魔導の発動にも、それが関わってくる。どう表現するのか、不安はありました。やっぱり、文字の原作は読者がそれぞれの想像をしているものですからね。それはもう、監督に預けるしかなかった。正直、すごく難しい宿題を預けちゃったなと思っていたんです。

川崎 そうですね(苦笑)。大澤さんだけじゃなく、ホン読み(シナリオ打ち合わせ)のときからライターのヤスカワショウゴさんも、J.C.STAFFのプロデューサーの松倉友二さんも、みんな気にされていた。打ち合わせのたびに「監督、あそこはどうするの?」って聞かれ続けてましたね(笑)。その都度、うやむやにし続けたんですけど。

大澤 そうね(笑)。

川崎 最初に設定を決め込もうと思っても、やっぱりどうしても、絵コンテを描き始めて見ないとわからない部分があるんです。だからひたすら原作を読み返して、それはどういうものなのかを文章から追いかけていきました。「紋章で発動するものもある」「純粋概念と呼ばれるものは、異世界人の中にもともとあったものが出てくる」「教典から発動するものもある」……そういう種類があることを原作から調べて、加えて佐藤先生がホン読み最初から最後まで出てくださったので、そこで疑問点があれば密にやり取りして、設定を補っていきました。音声的に発動されるものじゃなく、一瞬で発動されるものというイメージは、先生とのお話の中で理解しましたね。それがやっぱり大きかったです。

大澤 監督が会議のときに持ってくる原作本がすごかったですね。ものすごく大量の付箋を貼っていて、読み込んでいるのが見た目でわかった。

佐藤 確かに、あれはすごかったです。

川崎 昔から勉強するとき、教科書に付箋を貼るのが下手なんですよ(笑)。あとはそうですね……魔法の世界なんだけども、原作からどこか、SFっぽい雰囲気を感じたんです。呪文がコンピュータ言語のイメージ。だから異世界ものの中に、ちょっとSFっぽい表現が入ったら面白いんじゃないのかなあ?とも考えて、アイデアを収斂させていったのが、完成した「発動」の表現ですね。いろいろなアイデアはあるものの、とにかく原典をたどって収斂させたといいますか……。

大澤 面白いですね。表現を突き詰めていったら、原作に回帰した。なかなかそういう答えはでてこない。やろうと思えば、勝手にイメージを作ることだって、いくらでもできますから。聞いていて、なるほど、だからいいものになったんだなと思いました。

魔導を発動する際には、教典に文字が浮かび上がる。

魔導を発動する際には、教典に文字が浮かび上がる。

迫力ある魔導の演出も見どころの一つ。

迫力ある魔導の演出も見どころの一つ。

──ちなみに執筆されていたとき、佐藤先生の中ではなんとなく、魔導の「発動」のビジュアルイメージはあったのでしょうか?

佐藤 いえ。そこは正直、ビジュアルイメージからではなくて、ラノベの詠唱の流行り廃りから割と考えたんです。

──流行り廃り?

佐藤 これはあくまで僕の考えですが、もともとライトノベルの魔法描写は、「スレイヤーズ」や「魔術士オーフェン」のように、呪文を声に出すものが主流でした。そこからだんだんと、戦闘のスピード感を出すためか無詠唱で魔法を放つのがブームになり、近年ではゲームシステムに近い形の魔法描写になっている印象です。そうした流れを意識したうえで、文字上では詠唱的なカッコよさを維持しつつ、「発動」自体は無詠唱以降の、ほぼ一瞬でできるような形にしたいと考えて、小説での描写に落とし込んだのが、「処刑少女の生きる道(バージンロード)」の魔導の描写なんです。だから発動したときの形のビジュアルイメージくらいはなんとなく思い浮かべてはいましたが、発動の経過に関しては、あまり頭になかったです。監督に絵にしていただいて、カッコいいな、こんなふうになってたんだと、作者が初めて知ったような感じです(笑)。

演出によって視覚的なカッコよさに加え、アクションシーンのスピード感が生まれている。

演出によって視覚的なカッコよさに加え、アクションシーンのスピード感が生まれている。

川崎 佐藤先生は小説とアニメのメディア……表現形式の違いを踏まえて、守るべきところは当然守りつつも、こちらにかなり自由に任せてくださって。それでいて、ホン読みで原作に対してこちらが感じた疑問をその場で答えてくださるので、現場としてはとにかく、懐深く見守ってくださったのがありがたかったです。アニメのスタッフたちのやる気にもつながりました。

佐藤 いえいえ。原作者にはアニメの現場で何ができて、何ができないかもよくわからない立場からの参加だったのに、意見の出しやすい雰囲気を作ってくださって、無理のない形で関わらせていただけたので、こちらも本当にありがたかったです。