コミックナタリー Power Push - 海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」

デビュー26年目にして花開く 契約結婚マンガが話題に

「コント、嫁!」と思えば客観的になれる

──「逃げ恥」を読んでいると、「役割」という言葉が多く出てくるように思います。登場人物がみんなそれぞれの役割を意識していて、ロールプレイしている。それは雇用主と従業員だったり、恋人だったり、男と女だったりするのですが。

平匡の実家での、妻としての働きっぷりを伺うみくり。

「逃げ恥」の1巻でも描きましたけど、例えば旦那さんの実家に行ったら、「お義母さんの気に障ったら……」とかいろいろ考えてしまうと思うんですけど、「嫁」という役割として客観的に演じられれば、何か義母に言われたときも傷つきすぎない。「コント、嫁!」って思えば「嫁、こんなこと言われました!」みたいな感じで受け流せる。ちょっと客観的になることでダイレクトに受けすぎず、広く物事を見られるというか。

──みくりの妄想シーンは、まさにそうですね。「徹子の部屋」だったり、「情熱大陸」だったり、いろんなシチュエーションに自分を置いて客観視しています。

そうですね。あとあの妄想シーンは、くどくど説明するんじゃなくてコントとして見せたほうがわかりやすいから、ショートカットするために入れたっていうのはあります。第1話の「情熱大陸」なんか特にそうですね。それと、ページが微妙に余ると入れたりしてました。でも2巻まででやりすぎたので、最近減らしてます。最初は調子に乗りすぎましたね。量産型妄想(笑)。

──5巻で久々に出てきた妄想シーンはフィギュアスケートのインタビューのパロディでしたね。こういうの見たことある!と、とても楽しく拝読しました。

大相撲の優勝インタビューとかでもやりたいんですけどね。「トントントントトン……ごっつぁんです!」みたいな(笑)。早く使いたいんですけど、みくりちゃんが優勝インタビューできるくらい、なかなかいい気分になってくれないので。一応、大相撲のインタビューは録画してあるんですけど(笑)。

「情熱大陸」風なみくりの妄想シーン。 みくりの落ち込んでいる心情は、フィギュアスケートのインタビューをパロディ化して描かれた。

知らなくても楽しい、知ってるとより楽しい小ネタ

──あ、もう資料があるんですね。馴染みのあるテレビ番組のパロディを見るのは本当に楽しいです。

単純にテレビっ子なんです。「逃げ恥」の前に「くまえもん」っていう時事ネタをいっぱい入れたショートを連載してたんですけど、時事ネタってあんまり読者ウケしないし今までだったら切ってた部分なんですよ。でも「くまえもん」はWebでの連載だしいいかなと思って描いたら、意外と大丈夫だった。だからあんまり主張しすぎないくらいで、軽い感じでさらっと入れるのがいいかなって。

「くまえもん」より。駅横一等地に何を建てるかで盛り上がるくまえもんたち。

──「くまえもん」はくまのぬいぐるみと食品会社の社員たちが、ずっと時事ネタで妄想するという会話を描いたショートでした。梅田北ヤードに大仏を建てる計画「うめきた大仏」の話など、斜めな発想に目から鱗でした。

あ、うめきた大仏ってまさにここですよね!(窓の外を眺めながら)ここに大仏あったら、みんな写真撮るでしょ!?(笑)(取材はグランフロント大阪で行われた)

──ええ(笑)。

いつもアシさんとテレビとかワイドショー見ながら、あーだこーだ妄想話をしてるんですよ。こんな小ネタって普通だったらマンガで切るところだけど、それが「くまえもん」で描けて楽しかったんですよね。だから妄想シーンは、やっぱり「くまえもん」から始まったのかもしれないです。

──とにかく実在する人物や番組などの小ネタが多いのも海野先生の作品の特徴かと思います。過去の作品だと「Telescope Diaries」でも多かったですよね。私がとても印象に残っているのは、「夕食ばんざい」の結城先生の作務衣とか……。

日々の生活を丁寧に描く「Telescope Diaries」では、実名を交えてさまざまな小ネタが盛り込まれた。

あー、なんかそんなの描きましたね(笑)。お茶会のときも読者さんに「先生のあのネタが好きで」とか言ってくださる方も結構いらして、そういえば描いた記憶あるなーと思い出したりしました。描いてるほうはどんどん新しいものに入れ替わっていっちゃって、すぐ忘れちゃうんですよね(笑)。昔はよく芸人さんのラジオとか聞いて仕事してたんですけど、自分の知らないことをしゃべってても、何回も繰り返されると、わかんないなりに面白くなってきたりするじゃないですか。そういう経験があったので、こういう小ネタは知らなくても楽しいし、知ってるとより楽しいくらいのものを入れようとはしてましたね。なんとなく語感が面白いとか。

海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」 / 発売中 / 463円 / 講談社
「逃げるは恥だが役に立つ」1巻
「逃げるは恥だが役に立つ」2巻
「逃げるは恥だが役に立つ」3巻
「逃げるは恥だが役に立つ」4巻
「逃げるは恥だが役に立つ」5巻
「逃げるは恥だが役に立つ」6巻

森山みくり26歳、彼氏なし。院卒だけど内定ゼロ。派遣社員になるも派遣切り。見かねた父親のはからいで、父親の元部下で独身の会社員・津崎さんの家事代行として働き始めた。良好な関係を築くも、みくりの実家の都合で辞めなくてはならないことに。そこで、現状を維持したい2人が出した結論は、就職としての結婚(契約結婚)だった。

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海野つなみ(ウミノツナミ)
海野つなみ

8月9日兵庫県神戸市生まれ。1989年、第8回なかよし新人まんが賞入選の「お月様にお願い」がなかよしデラックス(講談社)に掲載されデビュー。登場人物の多様な愛のかたちを繊細に描き出した連作集「回転銀河」で注目を集め、鎌倉時代後期の皇后や妃が暮らす宮中を舞台にした歴史ドラマ「後宮」で新境地を切り拓いた。2009年よりKiss(講談社)にて「小公女」をSF風にアレンジした「小煌女」を連載。 2012年にスタートした「逃げるは恥だが役に立つ」では契約結婚をテーマに描き、2015年に第39回講談社漫画賞少女部門を受賞した。