「ザ・ボーイズ」
奥浩哉×佐久間宣行 対談|暴力、セクハラやりたい放題!とにかく下劣なヒーローを、負け犬たちがぶっ潰す!

Amazon Prime Videoのオリジナル海外ドラマ「ザ・ボーイズ」シーズン2が、9月から全世界で配信された。名声に固執する腐敗したヒーロー集団と彼らに被害を受けた一般人の壮絶なバトルを描いた本作のトレードマークは、自主規制なしの過激な表現。同じアメコミ原作である、清廉潔白な「アべンジャーズ」や「ジャスティスリーグ」のキャラたちは取らないようなグロテスクな行動が満載だ。神のような権威と能力を持った悪魔的ヒーローに、何も能力を持たない一般人がどのように立ち向かっていくのか……。そこに現代アメリカが抱えるジェンダー、ポピュリズム、宗教、差別などの諸問題が絡み合い、かつてない物語が展開されていく。今回は「GANTZ」や「GIGANT」でおなじみの奥浩哉と、「ゴッドタン」ほか話題のバラエティ番組を手がけるテレビ東京の人気プロデューサー・佐久間宣行が「ザ・ボーイズ」の魅力を語り明かす。特集内にはグロテスクな表現も含まれているので、苦手な方はご注意を。

取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 高原マサキ(佐久間宣行)

クソ野郎のヒーローどもに、何も特殊能力を持たない一般人が立ち向かう!

「ザ・ボーイズ」

ザ・ボーイズの面々。

200名超のスーパーヒーローを雇用し、あらゆる地域に派遣する巨大企業・ヴォート社。その中でトップに君臨する最強チーム“セブン”は、表向きでは品行方正だが、裏では過度な暴力やセクハラなどやりたい放題だった。
ある日、セブンの1人が主人公の青年・ヒューイの彼女をあっけなく殺してしまう。この出来事をきっかけに、ヒューイをはじめとするなんの力も持たない一般人たちが結束。スーパーヒーローに復讐するべく、“ザ・ボーイズ”として立ち上がる。

ヒーローを悪役にしちゃう発想にすごく驚かされた(奥)

──おふたりは今回が初対面なんだとか。

佐久間宣行 そうなんですよ。今回こうしてお話できるのが光栄というか……。だって僕は「変[HEN]」(奥のデビュー作)がヤンジャンで連載されてた頃から読んでますからね。高校時代に読んで、自分の中にいろいろ刷り込まれてるマンガ家の先生なんて、僕からすると伝説上の生き物に近い(笑)。だから正直ちょっと緊張しています。

奥浩哉 いやいや。僕も佐久間さんの手がけた作品はたくさん観ていますよ。特に好きなのは「ゴッドタン」ですね。劇団ひとりさんが出てくる「キス我慢選手権」がすごく面白い(笑)。

佐久間 恐縮です(笑)。奥先生が映画好きなのは有名ですけど、「ザ・ボーイズ」はどんなきっかけで知ったんですか?

 最初はネットで見たニュース記事ですね。“負け犬の人間がヒーローを倒す”というプロットに興味を持って観始めました。

佐久間 「ザ・ボーイズ」は「アべンジャーズ」シリーズが「エンドゲーム」で一区切りついた今のタイミングにジャストの企画ですよね。僕は海外ドラマが好きだからけっこういろいろ見ていて。これまでAmazonプライムのオリジナルドラマは面白いけど地味な作品が多かったんです。そんなときにAmazonが力を入れたドラマを作るというニュースを読んで、期待して観始めたら予想以上にすごかった。

 わかります。再解釈した作品も含めて、いわゆるヒーローの表現は、MCU(マーべル・シネマティック・ユニバース)やDCエクステンデッド・ユニバースでやり尽くされたと思っていたんですけど、「ザ・ボーイズ」を見て「まだこんなやり方があったんだ!」って驚かされましたね。

セブンの面々。

佐久間 「ザ・ボーイズ」にはセブンという最強のヒーローチームが出てくるんです。でも「アべンジャーズ」や「ジャスティスリーグ」とは違って、メンバーが揃いも揃ってクズ(笑)。新人の女の子のヒーローにセクハラしたり、透明になれる能力を使って女子トイレを覗いたり、一般人の命なんて1ミリも考えてなかったり、とにかく下劣。でも、もし強力な能力を持つヒーローが実在していて、僕らと同じような感性を持っていたら、おそらくセブンのように傲慢で退廃的な存在になるだろうなとも思った。

 僕はヒーローを悪役にしちゃうっていう発想にすごく驚いたんですよ。

佐久間 しかもセブンは巨大企業に使われてるんですよね。現実的に考えると、スーパーパワーを持ってるだけじゃご飯を食べられないから、アイドルのようにアイコンとしていろんな企業の広告塔になるし、国防の観点から武器としても利用されるよなって。加えて、現実社会で起こってる事柄もストーリーの中に巧みに入れ込んで、視聴者に問題提起もしている。そういう面からもすごいエンタメだと思いましたね。

もし今こんな社会情勢にスーパーマンがいたらこうなっちゃうのでは?(佐久間)

──「ザ・ボーイズ」というドラマのどんな部分に魅力を感じましたか?

 “一般人がヒーローを倒す”という部分ですね。絶対不可能と思える状況を知恵と勇気でなんとか打破する展開が僕のツボなのかも(笑)。これは面白いと思ったのが、トランスルーセントという透明になれるヒーローとの戦いですね。そいつはダイヤモンド並に肌が硬いから、銃はもちろんバズーカでも殺せないんです。でも普通の人間であるザ・ボーイズたちは、あれやこれや知恵をひねって、ゲスなひらめきからトランスルーセントの弱点を見つけるんです。殺し方も含めて、その流れがものすごく面白かった。

佐久間 まあヒドい殺し方なんですよ、ネタバレになるので言いませんけど(笑)。実はボーイズもしょうもない連中なんです。リーダーのブッチャーのセリフは放送禁止用語だらけだし。相棒のフレンチーはヤク中、MMもメンタルに問題を抱えてる。でも僕はそこも面白かった。いわゆる勧善懲悪じゃない。

「ザ・ボーイズ」シーズン1より、ヒューイがトランスルーセントを殺したシーン。

 恋人をヒーローに殺された主人公・ヒューイと、いきなりセブンに抜擢されて戸惑いながらもがんばるヒロインのスターライトはいい奴だけど、序盤はどのキャラクターにも感情移入しづらいですよね。

佐久間 特にシーズン1は意図的にそう作ってるように感じました。最近配信されたシーズン2になって、セブン側もボーイズ側も、それぞれちょっとずつ人物の背景が描かれてきました。個人的に驚いたのはディープというシーズン1でセクハラをしたヒーロー。最初はただの最低な奴なんですよ。そして相応の報いを受ける。だけどシーズン2になると、心の弱さに付け込まれて複雑な状況に追い込まれてしまう。自業自得ではあるんだけど、その様子があまりにも哀れで、ほんのちょっとだけ彼を応援したい気持ちが湧いてきちゃいました。

──奥先生がキャラに感情移入をさせないストーリーを作るとしたら、どうやって読み手を引き込んでいきますか?

 刺激的なことを次から次へと起こして興味を持続させていきます。

佐久間 「ザ・ボーイズ」のシーズン1はまさにそういう感じですよね。まったく飽きないですよ。加えて、どのキャラクターもクズなのにとっても魅力的なんです。

 それで言うと、やっぱりホームランダーですよ。

ホームランダー(左)とスターライト(右)。

佐久間 わかりやすく言うと、徹底的に悪いスーパーマンなんです。みんなが知ってるスーパーマンは究極の善人だと思うんですけど、ホームランダーは精神が未成熟なソシオパス。でも能力はスーパーマンとほぼ同じ。最強で、知性も高い。だから本家と同じように神のような高潔さすら漂わせている。だけど倫理がないんです。僕が衝撃を受けたのは、ハイジャックされた飛行機の救助に行くシーズン1の4話目。そこで非情な判断を冷酷に下して全員見殺しにするんですね。あのシーンには「もし今こんな社会情勢にスーパーマンがいたらこうなっちゃうのでは?」と思わせる説得力があった。

ストームフロント

 主人公たちが倒すべき最強の敵役。ホームランダーは完璧だと思います。

佐久間 シーズン1ではホームランダーが最強で、セブンのメンバーもみんな頭があがらない。でもシーズン2になるとストームフロントという女性ヒーローがセブンに入ってくる。彼女はいろんな意味で古臭いホームランダーの対極にあるキャラクター。TikTokやインスタライブも使いこなせるインフルエンサーなんです。しかもどうやら相当強いらしい。そんなストームフロントがセブンをかき回します(注:取材時はシーズン2の4話まで配信済み)。さらに彼女にもどうやら重大な秘密があるらしい。しかもそれがアメリカ社会の今現在に大きく関係している。ストームフロントの登場は、シーズン2を見進めていくためのものすごい推進力になると思います。