コミックナタリー PowerPush - 奥瀬サキ「低俗霊狩り 完全版」

完全版刊行&「自動人形」編、再開!四半世紀を経て作者が原点を振り返る

絵の変化は散々叩かれた

奥瀬サキ

──そうして当初は短編形式、1話完結型で描かれていましたが、「自動人形」は前・中・後編と分かれた、「低俗霊狩り」初の長編エピソードになりました。「自動人形」のような、スケールの大きな話を描くことは最初から考えていたのでしょうか。

いやまったく。連載枠をもらえたことで長編を描く下地ができて、徐々にそういうアイデアが生まれたという感じだったと思います。

──ただ掲載誌が休刊に見舞われ、「自動人形」編は発表の場を失ってしまいます。

初めての長編ということで、気合を入れて伏線をたくさん仕掛けただけに残念でしたね。当時は単行本のあとがきにも、「ここから面白くなりますよ」みたいなことを書いていたと思うんですけど。そこで終わるとは思ってなかったので。

──今回「自動人形」の後編が初めて発表されるわけですが、そのプロットは当時のまま描かれているんですか?

月刊コミックガム12月号に掲載された新作エピソード「すりすり」より。「低俗霊狩り」のお約束・ジャングルブーツキックも健在だ。

いえ、再構築しています。

──絵柄も当時と現在とでは違いがありますので、後編から急にタッチが変わることになるわけですよね。現在の絵柄についてはご自身でどう見られていますか。

やっぱり当時の絵のままで描いてほしいという人は多いです。「火閻魔人~鬼払い~」を始めた時に、散々叩かれまして。

──そんなにですか。

思い出には勝てないです。「原作だけやってろ」とかひどい言われようでした。でも自分にとっては、これが今の最適化された絵なので、違うと言われても、その違いが見えないんですよね。自分も当時の読者の一人ひとりも四半世紀を経てみんな違う理想を見ている。叩かれたことで逆に開き直れて、「自動人形」編の続きが描けるのかもしれません。

「低俗霊狩り」には奥瀬サキという作家のすべてがある

──今はデジタルで描いてらっしゃるんですよね。デジタルとアナログでは達成感みたいなものに違いがありますか。

一長一短を均せば、どっちも一緒ですね。道具に関わらず、絵を描くのは楽しいですが、大量の絵を描くのはつらいです(笑)。カラーは、気楽な学生時代の課題を思い出すこともあって、アナログの方が楽しいかな。

「自動人形」前編の原稿。

──奥瀬作品は描き文字の美しさも特徴だと思うのですが。

描き文字は好きですね。絵には正解がないけど、描き文字はある程度正解があるじゃないですか。だから終わりが見える。

──描き文字に注目して読んでみるのも面白そうですね。奥瀬さんはご自身で作品を読み返されることってあるんですか。

ないですね。今回のような、刊行物をチェックする機会がなければ。

──読み返されていかがでした?

成長してねえなーと思いました(笑)。

──どういった部分が?

あんまりネガティブなことを言うつもりはないですけど、本質的な才能はどうにもならないというか。デビュー作にその作家のすべてがあるとか言うじゃないですか。まさにそんな感じがします。

──奥瀬作品としては入門編にしてマスターピースのような。「低俗霊」シリーズで見ても、スピンオフの作品と比べて取っ付き易いんじゃないでしょうか。

ナメられ易い作風ですよね(笑)。その分確かに取っ付き易いと思いますので、気軽に読んでみてほしいですね。「低俗霊DAYDREAM」と「低俗霊MONOPHOBIA」だけ読んでいた人にも、その原典になる作品ですので、ぜひ手にしてもらえればと思います。

奥瀬サキ「低俗霊狩り 完全版」2巻 / 2013年10月25日発売 / 590円 / スクウェア・エニックス

奥瀬サキの原点であり、後のスピンオフ作品「低俗霊DAYDREAM」「低俗霊MONOPHOBIA」へと繋がる「低俗霊」シリーズの原典を全4巻予定で完全復刻!
1巻には「低俗霊狩り」「乳鬼」「神勾し」「幽霊階段」「降霊」に加え、単行本未掲載原稿を収録。2巻には「残像」「流香魔魅の私生活」、単行本未掲載原稿、そして「低俗霊狩り」最大の長編(となるはずだった)「自動人形」編の前編が収められている。幻のエピソードとされていた作品も網羅したまさに完全版!

アニメイトで配布される、「低俗霊狩り」イラストペーパー。

奥瀬サキ(おくせ さき)

奥瀬サキ

1966年9月18日、神奈川県生まれ。1985年デビュー。主なマンガ作品に「低俗霊狩り」「火閻魔人」「こっくりさんが通る」「Flowers」「ドロねこ9」、原作作品に「低俗霊DAYDREAM」「低俗霊MONOPHOBIA」「夜刀の神つかい」がある。