コミックナタリー PowerPush - 奥瀬サキ「低俗霊狩り 完全版」

完全版刊行&「自動人形」編、再開!四半世紀を経て作者が原点を振り返る

描かれるはずだった幻の表紙イラストがついにお目見え

奥瀬サキ

──再開だけではなく、完全版の刊行というのもうれしい出来事です。

もう文庫化された作品ですし刊行は難しいと思っていました。でもワニブックスの営業の方が、「低俗霊狩り」の完全版を作ろうと思うと複数の書店に声をかけてみたところ、当時読まれていた世代の書店員の方の反応がとてもよく、そのおかげで刊行の話が進んだと聞いています。

──当時のマンガ読みがちゃんと待っていたということですよね。

それで自宅や倉庫から「低俗霊狩り」の原稿をあるだけ掘り起こして。予告カットだったりカラーイラストだったり、未掲載だった原画なんかもいくつか出てきましたので、それも全て収録しましょうということになりました。

──完全版の名に相違ないものになるわけですね。「低俗霊狩り」には同人誌など雑誌以外で発表された未収録短編もありますが、それらも入るんですか?

手元にあるものはすべて入れるつもりです。具体的には、「低俗霊DAYDREAM」のひな形になった深小姫が初登場する「低俗霊狩り SADISTIC DOMINA」というドラマCDのライナーノーツ用に描いた「24 GHOST OF THE SADISTIC DOMINA」、それから文庫だけに収録していた「公園の散歩者」シリーズなどになります。同人誌で描いた「レイプ魔Q」は、原稿を紛失してしまったので難しいかもしれません。

白泉社版の「低俗霊狩り」3巻。顎に添えられた4本の指は、「事実上の4巻」を意味している。

──完全版のカバーも旧版のカバーイラストが使われていて、往年のファンにしてみると当時の感動を呼び起こされるようなデザインに仕上がりました。この魔魅が描かれたカバーイラストには、コアなファンの間では知られた話ですが、ちょっとした裏話がありますよね。魔魅が、1、2巻では指を1本、2本と巻数に併せて立てているのに、3巻では突然4本になっているという。

そうですね、これは3巻が事実上の4巻であることを示している、という暗喩です。3巻には本来なら「自動人形」の中・後編が収録されるはずだったのですが、それをすっとばして別のエピソードが収録されているので、これは本当は4巻なんだよと、3巻を飛ばしているんだよと。

──完全版の3巻には「自動人形」の中・後編が収録されるわけですよね。ということは、完全版3巻の表紙は……。

もちろん、指を3本立てた魔魅になります。

もとは美少女誌向けに1話だけのつもりで描いた

──「低俗霊狩り」開始当初のことをお聞きしてもいいですか。

第1話は白泉社の美少女コミック誌メルティ・レモンに載せる予定でネームを切りました。それが、ネームを見た編集部の判断で、元々絵柄が美少女コミック向きでないこともあって、メルティ・レモンの本誌にあたる月刊コミコミに載せようということになりました。

──はじめは単発ものとして描いたんですか。

続き物にするつもりはなかったですね。当時流行っていたオカルトマンガなどのパロディとして、ギャグマンガの気分で描いていました。

「低俗霊狩り」の1編「乳鬼」より。

──コミカルなシーンのノリや絵のタッチからも、初期は少女マンガのテイストが目立ちますね。

もともと自分が少女マンガが描きたかったというのもありますし。

──そうだったんですか。話が逸れますが、それは奥瀬サキという女性的なペンネームにも関係があるんですか?

そうですね。サキは本名をいじったもので。奥瀬の由来は、恥ずかしいので言いたくないです(笑)。

──ははは、ではご本人だけの秘密ということで。少女マンガは具体的にどんな系統の作家さんを好まれていたんですか?

当時は絵柄で言えば、わかつきめぐみさんですね。とても影響を受けました。ストーリーテリングに関してはあげたらきりがないので今日はやめておきます(笑)。

──なるほど、確かに初期には、そのタッチを感じる部分があります。月刊コミコミに掲載されてからはすぐ連載に?

いや連載になったのは途中からです。当時は新人でしたし、まずは短編を描けと言われ、読み切りの短編ばかり描いていました。ネームを切ってはボツを食らうというのもしょっちゅうで。描いてお蔵入りしたものもありましたし。

──完成させたのに? それはつらい。

ただ当時はバブルだったので、載らなくても原稿料は出たんですよ。だからあんまり気にしてなかったですね。結果的にはその作品も、去年出した「4LOST CAUSE 不発作品集」で発表することができました。

奥瀬サキ「低俗霊狩り 完全版」2巻 / 2013年10月25日発売 / 590円 / スクウェア・エニックス

奥瀬サキの原点であり、後のスピンオフ作品「低俗霊DAYDREAM」「低俗霊MONOPHOBIA」へと繋がる「低俗霊」シリーズの原典を全4巻予定で完全復刻!
1巻には「低俗霊狩り」「乳鬼」「神勾し」「幽霊階段」「降霊」に加え、単行本未掲載原稿を収録。2巻には「残像」「流香魔魅の私生活」、単行本未掲載原稿、そして「低俗霊狩り」最大の長編(となるはずだった)「自動人形」編の前編が収められている。幻のエピソードとされていた作品も網羅したまさに完全版!

アニメイトで配布される、「低俗霊狩り」イラストペーパー。

奥瀬サキ(おくせ さき)

奥瀬サキ

1966年9月18日、神奈川県生まれ。1985年デビュー。主なマンガ作品に「低俗霊狩り」「火閻魔人」「こっくりさんが通る」「Flowers」「ドロねこ9」、原作作品に「低俗霊DAYDREAM」「低俗霊MONOPHOBIA」「夜刀の神つかい」がある。