高橋しん「雪にツバサ」「あの商店街の、本屋の、小さな奥さんのお話。」
青年誌・女性誌・少年誌…… 雑誌ジャンルをまたぎ活躍する使命感
“高橋しんオリジナル”は存在しない
──いろんな雑誌で描かれているのは、そういう新鮮な気持ちでいたいという思いからなのでしょうか。
そうですね……。昔から少女マンガ誌に男性作家が描く文化はあったし、石ノ森(章太郎)先生、赤塚(不二夫)先生も、当時の作家さんはみんなギャグから少女マンガ、少年マンガというように幅広く描かれてましたよね。
──ええ。
少年時代から大好きな、あすなひろし先生もそうでした。自分も読者として読んでいて、1人の作家さんを知ると、いろんな分野を知ることができると実感していたんです。少年誌で好きだった作家さんがまったく違うジャンルの作品を描いてたら、それまで少年誌しか読まなかった自分の幅が広がるきっかけになる。そういった文化を、自分は個人的に継いでいこうかなと。
──読者が読むマンガの幅を広げるきっかけになりたい。
はい。私の読者さんにも、全部跨いで読んでくれている方もいる一方で、「私は『いいひと。』派」とか、「僕は『最終兵器彼女』派」みたいな方もいて。マンガをそこまで読まないライトな読者さんだと特に、「こういう作品を描いてたからこういう人」って、作家のイメージを決め込んでる方が多い気がするんです。でももうちょっと1人の作家を幅広く捉えて読むことができれば、発見もあるんじゃないかなって……。大きな話になりましたね(笑)。
──いえいえ。高橋先生の使命感が伝わってきました。
自分もたくさんのジャンルのマンガを読んでいろんな先生方に育てていただいてきたので、「これが高橋しん」というオリジナルのものはほとんどないと思うんですね。ごちゃまぜのものが1つの個性になってる。私をきっかけに、いろんなマンガを読んでもらえたら本望です。だから今回、2冊同時に出させていただくのは本当にうれしいことだと思っています。
──ぜひ2作品とも買って、読み比べてほしいですね。
そうですね。マンガっていろんな作品がありますけど、おしなべて相当面白いじゃないですか。そして本来は少女マンガ、青年マンガ、少年マンガっていう線引き自体、別になくてもいいと思う。読んでいくとやっぱり豊かになれるものなので、自分の中で壁を作らないで、幅広く読んでみてほしいですね。
不良なのにイジメられっ子、でも実は超能力者のツバサ。声を失ってしまった女子高生・雪先輩の心の「うた」が、彼にだけは聴こえてくる。北国の寂れた温泉街で出会った彼らは、やがて超能力探偵団なるものを結成することに……。
それぞれに切ない痛みを抱えたまま、2人の物語が静かに重なり始める──。
ここにある本を全部読んだら、あなたのことがわかるかしら──。
時は昭和中期。亡くなった旦那様の本屋を継いだ、小さな奥さん。これは、商店街の人々をまきこみながら独自の書店商売を繰り広げる奥さんの「恋物語」です。
高橋しん(たかはししん)
1967年9月8日北海道生まれ。1990年「好きになるひと」で第11回スピリッツ賞激励賞を受賞、週刊ビッグコミックスピリッツ増刊号(小学館)に「コーチの馬的指導学」が掲載されデビューとなった。1993年、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「いいひと。」の連載を開始。お人好しの主人公が人々の幸せを願い努力する様子を描いた同作はヒットを記録した。2000年より同誌で連載を始めた「最終兵器彼女」では、世界の崩壊を背負った男女の壮大なラブストーリーを展開し、セカイ系の先駆けとして新たなファンを獲得。現在、同誌にて「花と奥たん」、ヤングマガジン(講談社)にて「雪にツバサ」を連載中。 また、メロディ(白泉社)から少女マンガ「トムソーヤ」「あの商店街の、本屋の、小さな奥さんのお話。」が刊行されるなど、幅広いジャンルで活躍している。