週刊少年サンデー|「サンデーを日本最強のブランドにする」所信表明から5年、編集長が語る“礎”を築くためのこれまでとこれから

ひっくり返りましたよ。今年始まった少年誌の若手の新連載の中で一番面白いと思います

──編集長の立場からすると具体的な名前を挙げるのは難しいかもしれないんですが、これからの活躍に期待している作品や作家さんを教えていただけますか?

「葬送のフリーレン」1巻。魔王を倒した勇者一行の“その後”の人生を描く、後日譚ファンタジーだ。

作家さんを挙げるのは大変難しいんですけど、ベテラン・中堅勢は本当に皆さんがんばってくださっていると思うんですよね。青山(剛昌)先生、椎名(高志)先生、田中(モトユキ)先生など長期連載陣はもちろんですし、藤田和日郎先生の「双亡亭壊すべし」だったり、増刊(サンデーS)では西森博之先生が新連載「カナカナ」を描いてくださっていたり。あれも超面白いですからね。それこそ畑健二郎さんの「トニカクカワイイ」やコトヤマさんの「よふかしのうた」、高橋留美子先生の「MAO」も面白い。今年スペリオールから来ていただいた柳本光晴先生(「龍と苺」を連載中)もカンフル剤になっているというか。そういう新たにサンデーに参入していただいた作家さんにもがんばっていただいてると思ってます。新人さんは、どうしても育成に長い長い時間がかかるので。ようやく「古見さん」や「魔王城」、(サンデーうぇぶりで連載中の)「死神坊ちゃんと黒メイド」が盛り上がって来ているところで。2015年に新人の育成をチーム一丸でやるって決めて今年で5年ですから、ようやくこれから5年前にド新人だった子たちが新連載で世に出る時期なんですよね。そういう意味では今年始まった「葬送のフリーレン」っていうのは新人コンビの作品ですから、それの象徴ですね。

──「葬送のフリーレン」は連載開始時から、新人さんとは思えないほどの完成度だなと感じました(参照:「葬送のフリーレン」特集 有野晋哉(よゐこ)、浦井健治、江口雄也(BLUE ENCOUNT)、小出祐介(Base Ball Bear)、近藤くみこ(ニッチェ)、須賀健太、鈴木達央、豊崎愛生が読後の思い綴る)。

恐ろしいですよね。担当から企画が上がってきてネームを読んで、ひっくり返りましたよ。「超おもしれえ!」って(笑)。「日本一面白いんじゃね?」って。いや僕ね、今年始まった少年誌の若手の新連載の中で一番面白いと思いますよ。

──連載開始時に掲載された1・2話の時点で面白いんですけど、どんどん深みが増していく作品ですよね。サンデーは少年誌なので読者は学生が中心になるとは思うんですけど、たぶんそういう読者が「フリーレン」を読んで、大人になっていろんな経験をしてから改めて読み返したらきっとまた違う思いを抱くんだろうなと思います。

人間の業の話を描いてますからね。

──そうなんですよね。だからこれから長い歴史の中で愛される作品になるだろうなと思うし、なってほしいなと思いました。

ネームを読んで鳥肌立ちましたからね、「なんじゃこれ」って。原作の山田鐘人さんも、作画のアベツカサさんもド新人の頃から知ってますけど、山田さんはこれまでにもいろんな作品を増刊でやっていて、そのときからどの作品も妙な力があるネームを描いているなと思っていたんです。そこから何がどうなってあのような化学反応を起こすネームを担当編集者と打ち合わせしたのかわからないですけど、本当に見事でしたね。ちょうどコロナの時期と被っちゃってたのですぐにはお会いできなかったんですが、とにかくコミックスが発売される前には作家さんたちには「最高だったよ」って伝えなきゃっていう思いがあったので、直接お会いして「最近始まった少年誌の若手の新連載の中では君らの作品が一番面白い」と。「売れるか売れないかはわからないけど、俺は最高だと思ってるよ」と伝えました。

「名探偵コナン」ワールドに新たに参加、新井隆広とかんばまゆこの活躍

──5年間を振り返ってほかにも印象的だったことを挙げると、「名探偵コナン」はこれまでにも映画版のコミカライズなどはありましたけど、本編1本で連載していたところ、本誌で「名探偵コナン ゼロの日常(ティータイム)」「名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story」、サンデーSで「名探偵コナン 犯人の犯沢さん」とスピンオフ作品が立て続けにスタートしましたよね。

僕がサンデーに帰ってきたときに自分がやらなくちゃと思ったことは100個くらいあるんですけど、その中の1つに「名探偵コナン」ってもっとちゃんと大切にしないといけないんじゃないかっていうのがあって。別にないがしろにしていたわけではないと思いますけど、僕にとってはもっと大切にしなきゃいけないんじゃないかっていう思いがあったんです。もう1回きちんと「コナン」を盛り上げていきたいというのを宣伝部や販売部とも話し合っていて、そんな中、映画をきっかけに安室透が大変な人気になって。

──2016年公開の「名探偵コナン 純黒の悪夢」で人気に火が点き、2018年公開の「名探偵コナン ゼロの執行人」で不動のものにしましたよね。コミックナタリーでも記事にするたびに大きな反響があって、本当に大変な人気キャラクターになったと思います。

安室が人気だと言われたら、そりゃ読者が喜ぶことをしたいよねと。じゃあ安室を主人公にしたスピンオフのようなものをやったら読者が楽しんでくれるんじゃないかというのを考えて、「こういうふうな形でできないかと思ってるんですけど、どうお考えですか」っていう話を青山先生にしたら「面白いね! 協力するよ!」って言ってくれて。「俺もちゃんと読むからやってみたら」っていうことで、「ゼロの日常」が始まった流れですね。こちらからスピンオフを推奨しているわけではなく、たまたま「コナン」でそういう大きなニーズがあったのでやってみようと思ったんです。

──「ゼロの日常」は作画を「ダレン・シャン」「天翔のクアドラブル」の新井隆広さんが担当されています。

新井先生は新人時代から長く僕が担当していたので、彼が青山先生の大ファンってことは知っていて。安室のスピンオフをやろうという企画が挙がったときには、すぐに新井隆広という名前が閃いたんです。あれだけ青山先生をリスペクトしていれば描けるだろうし、新井先生にとってもいい企画なんじゃないかなって。でもこんなに反響があるとは思ってなかったですね。最初は青山先生も喜んでくれるんだったら、と企画してみて、新井先生も喜んでくれたので、1巻分くらい描いてみたらいいかなというくらいのテンションだったんですよね。

──それがもう開始時から大反響でしたね(参照:安室透が主人公の「名探偵コナン」スピンオフ連載、サンデーで開幕)。青山さんもすごい協力的ですよね。細かく作画の修正指示を出されたりしていて。

そうなんですよね。全面協力して頂ける青山先生も、それに応える新井先生も、ついでに担当編集たちも本当にがんばってくれていると思います。

──「錦田警部はどろぼうがお好き」「迷宮入り探偵」のかんばまゆこさんが描いている「名探偵コナン 犯人の犯沢さん」は、どういう経緯で始まったんですか?(参照:コナンの“犯人”が主役!かんばまゆこ新連載が次号サンデーSで、今号に付録も

「名探偵コナン 犯人の犯沢さん」1巻。世界トップの犯罪都市・米花町を舞台に、おなじみの“黒い人”が奮闘するクリミナルギャグ。

「犯沢さん」はあの“黒い犯人”のフィギュアがあったんですよ(参照:コナン&“黒い犯人”が可動フィギュアに!凶器も多数付属)。あれのできがすごくいいなと思っていて。それが担当編集者の机に飾られていたんですね。それを見ていて、犯人側から見たら主人公(コナン)って恐るべき人間ですし、犯人が主人公のギャグマンガをやったら面白いんじゃないかと思って。編集者に「このフィギュア超よくできてるから、これを主人公にしたギャグとかできないの」って言ったら、誰に描いてもらうのがいいかねっていう話になって。担当編集に「かんば先生とかってダメなんですかね?」って言われて、「それだ!」って。「かんばしかいない!」って。そう、あいつ「コナン」大好きだった!と思ったんですよ。かんば先生はね、ゲッサン時代にそれこそド新人の時代から見ていたんですけど、当時からギャグセンスが抜群で。そのときから彼女は「コナン」が大好きだったんですよ。

──犯人が主人公というだけでも面白いですが、それをかんばさんが描くというのが最高の組み合わせだと思いました(笑)。「犯沢さん」のほうも青山さんは監修しているんですかね?

細かなやり取りは担当に任せているので詳しくは知らないんですけど、「ゼロの日常」や「警察学校編」のような感じではないと思いますよ。もちろん楽しく読んでいただいているとは思います。まあ、「犯沢さん」は何をチェックすればいいのか(笑)。

──まあそうですよね(笑)。

ただ1つだけ確実に言えることは、「犯沢さん」みたいなのって、結局原作が好きな人が描かないと面白くないんですよ。愛がないとおちょくりようがないし、詳しくないと描けないから。

──本編の細かいネタとかも拾ってますもんね(笑)。

かんば先生も新井先生もきちんとしたファンですから。ああいう作家さんが描くと面白いんですよ。「コナン」についてはたまたまその2人ともタイミングがあっただけで。より多くの読者が本当にそれをやってほしいって思うような企画がもしあれば今後もやるかもしれないけど、戦略としてそういったスピンオフを仕掛けているわけでもないんです。

“日本最強のブランド”になるための本当の戦いへ

──それでは改めてにはなりますが、今のサンデーの強み、また今後もサンデーが大切にすべきことはなんだと考えていますか?

市原武法編集長

初めに話したところがほぼすべてですけど、チーム・サンデーが永久に掲げるべき旗は、きちんと生え抜きの新人さんを育成し、誠実にその人たちと向き合って、正のスパイラルを作ってサンデーの風土を守っていくこと。当然“サンデーらしい”マンガっていうのはありますし、それを研究しながら編集者たちが絶えず努力し続ける。そこへ新人さんたちが面白いと思って門を叩いてくれて、その人たちと向き合ってきちんと育成・起用していくこと。それはずっと大事にすべきことですね。たとえ将来的に紙の時代からデジタルの時代に変わっても、マンガブランドのイメージっていうのはありますから。ジャンプにはジャンプらしいマンガがあるし、マガジンにはマガジンらしい、チャンピオンにはチャンピオンらしいマンガがある。じゃないとレーベルの意味がないですからね。「これはやっぱりサンデーじゃなきゃ読めないな」「サンデーらしいマンガだね」っていう作品は大事。でもそれを守っているだけでもダメなので、新しい間口を広げる必要もある。より強いブランドにしようと、より自分たちがいい編集者にならなければといけないという気持ちを編集部には持ち続けてほしい。逆に言えば“強み”っていうのは、そのことを完全に理解したチームに今の編集部がなれたってことですね。あとはそのチームから僕が世に放った狼たちが、いかに優秀な新人さんを獲得し、力強く育成を進められるか。現状僕が一番自信があるのはそこです。

──これからのサンデーも楽しみです。

5年目より6年目、6年目より7年目と、きちんとレベルを上げていかないと意味がないので、ここからが正念場ですね。5年後に、本誌はもちろん、サンデーうぇぶりも充実して、増刊のサンデーSも充実して、そこからがさらに本当の戦いになると思います。きちんと戦力を整えて、“日本最強のブランド”になるための。わずか5年前には未曾有の危機を迎えていた少年サンデーが、そこから10年間でどこまで復活できるのか。その頃は僕はお茶でも飲みながら百戦錬磨の後輩たちを楽しく眺めていたいですけどね(笑)。

──(笑)。では最後に読者へのメッセージもお願いします。

5年前は編集長に就任したばかりだったので、「これからいろいろと変わりますのでぜひ見ててくださいね」というお話をしましたけど、それの延長線上ではあると思うんですよね。実際に読者の方からも「すごく面白くなりましたね」っていうメールやハガキをいっぱいいただくんです。そういった熱心な読者の方々含めたすべての皆さんに、この5年でうちの編集者たちが、打ち合わせを重ねてきた新人さんたちがここからさらに世に出ていくと思うので、そのさまを見てほしいなと思いますね。これからますます少年サンデーは加速していくと思うので、楽しみにしていてください。