コミックナタリー PowerPush - 冨明仁「ストラヴァガンツァ-異彩の姫-」

花も恥じらう鉄仮面ヒロイン ジェントル・エロスの新境地

冨明仁インタビュー

描こうと思ったのは「谷仮面」

──鉄仮面を被った女王という、この一風変わったヒロイン像はどのようなプロセスで生まれたのでしょうか。

「ストラヴァガンツァ」は連載になる前に、プロトタイプとなる読み切りがあったんです。そのときは読み切りだから、ひとつのネタで笑えるようなものを描こうと思っていて。頭にあったのは、柴田ヨクサルさんの「谷仮面」だったんですけど。

読み切り時代のエピソードより。このあと、肉は吸い込まれるように仮面の中へと消えていった。

──主人公は普通の男子高校生なのに、なぜか仮面を着けて生活しているというギャグ作品ですね。

女王様なのにゴツい鉄仮面をかぶっていたら、そのビジュアルだけで面白いのじゃないかというのが最初に浮かんで。表情が見えないということは、中で何をしているかわからない。じゃあ逆に何をさせてもいいんだと思って、会議中に居眠りをさせたり、仮面を着けたまま肉を食べさせてみたり(笑)。

──仮面で顔が見えないのに、キャラクターからは不思議と表情豊かな印象を受けます。

実を言うと……読み切りのときは目尻を上げたり下げたり、仮面を変形させてたんですよ。あのままショート・ショートのギャグを描いていくのだったらそれを楽しみどころにするのもありだと思うんですが、長い物語を描く連載では禁じ手としました。今は仮面はそのままに、キャラクターの表情が伝わるよう描こうとしています。

──でも実際、仮面を被っているわけですが、どうやって中の表情を伝えるんでしょう。

表情はないはずなのに、仮面から晴れやかな気持ちが伝わってくる1シーン。

定型の仮面を描くときも、中の表情をちゃんと考えながら手を動かしています。やはり思いを込めて描けば絵に出ると思うので。

──体の動きとか、周りの雰囲気を作るのじゃなく、あくまで仮面に滲ませようと。

もちろん首を傾けるだとか、暗い影を落とすだとか、演出で喜怒哀楽はつけていますが。中のビビアンが悲しいときは仮面も悲しく、笑ってるときは仮面も楽しそうに見えるよう心がけています。

──あるあるネタで、マンガ家は表情を描いてるときキャラクターと同じ顔をしているという話がありますが。冨さんの場合は。

気にしたことはありませんでしたが、思い出してみると……同じ顔をしているかもしれません。とはいえ実際に描いている絵は、鉄仮面ですけれど(笑)。

女性の良さは、描いてるうちにわかってくる

お風呂に入っていると、浴室に人が。普通の女性ならば体を隠すところだが、ビビアンはまず仮面で顔を隠した。

──冨さんといえば“女体”というファンも多いかと思います。ビビアンは仮面で顔を隠しているのに、肌の露出が多いのも印象的です。

お風呂に人が入ってきたときに、まず隠すのが胸や下半身じゃなく顔、というネタも番外編で描きました。顔を隠さなくてはいけない立場にあるので、守るべきところが普通の人とは違うんです。

──躓いた拍子にドレスが脱げて、スッポンポンになったときも仮面は外れませんでしたね。

だからと言って裸を見られて恥ずかしくないわけじゃなくて。女王という身分を隠して素顔で行動をしているときには、お尻が出たら隠そうとしていますし。ビビアンは、仮面の姿と素顔、両面合わせてひとつのキャラクターです。だから読者には、顔もしっかり見せています。

スケッチブックに描かれたビビアンの設定画。

──せっかくのナイスバディも、顔を隠しっぱなしではもったいないですしね。

体型についてはセクシーなものを求めたというより、西洋ファンタジーの世界観なので西洋系の女体の魅力、豊かさとか肉感とかを意識しています。……最終的には、自分の好みを全部乗せた感じのキャラクターになっている気もしますが。

──やはり女性を綺麗に描こうとすると、ご自分の趣味が出ますか?

仮面に目が行きがちだが、ビビアンはボンキュッボンのナイスバディだ。

肉感的なほうが描いてて楽しいというのはあります。でも女性の良さは描いてるうちにわかってきますね。かわいさとか綺麗さにも種類があって、その数だけ見せ方があって。マンガを描き始めたころよりも、女の子自体への関心が高まってきたというか。

──さすがジェントル・エロスの言葉には重みがある。

それはハルタ編集部が僕に付けたあだ名なんですが、自分でも意識するようになりました(笑)。最初は、女の子を可愛く描こうとしたり、おっぱいを出したりすることには少し照れがあったんでけど、今では、ジェントル・エロスの称号は誰にも譲らん、と思って描いています。

冨明仁「ストラヴァガンツァ-異彩の姫-」3巻 / 2015年2月14日発売 / 670円 / 株式会社KADOKAWA
あらすじ

民に、友に、自らに――ビビアンは誓う。愛する国を守り、甦らせることを!
巨森族の助けを借り、ミテラは復興への一歩を踏み出した。だが一方で、ウンバ狂乱の謎は解き明かせぬまま、深まっていくばかり。愛する国と民のため、仮面女王ビビアンは“彼女にしかできない”大胆な行動に出る……!豊かな画力で繰り広げられる戦闘群像劇、第3巻。物語はついに核心へ!

冨明仁(トミアキヒト)
冨明仁

東京都生まれ。2006年、コミックビームFellows! vol.2(エンターブレイン)掲載の読切作品「もっと もっと…!」でデビュー。2008年、Fellows! vol.1にて初連載「彼女の彼」を開始。以後、精緻なだけでなく美しく温かみのある人物・背景描写で読者を虜にし続ける。「玲瓏館健在なりや」全2巻、短編集「柔らかい女」「艶やかな女」の単行本4冊を刊行しており、現在ハルタ(KADOKAWA エンターブレイン)にて長編作品「ストラヴァガンツァ -異彩の姫-」を連載中。