8月7日発売の22巻をもって完結を迎えた小説「ストライク・ザ・ブラッド」。世界最強の吸血鬼“第四真祖”の能力を手に入れた高校生・暁古城と、彼を監視するため常夏の人工島に派遣されていきた見習い剣巫の少女・姫柊雪菜を取り巻く物語の結末を楽しみにしているファンも多いのではないだろうか。
コミックナタリーでは、小説「ストライク・ザ・ブラッド」の本編完結を記念し、原作者・三雲岳斗と、2013年のTVアニメから姫柊雪菜役を演じる種田梨沙との対談をセッティング。オーディションを受けた際のことも鮮明に思い出せるという種田と、長期シリーズになるとは思っていなかったという三雲に、“歴代ヒロイン大集結”だという、現在全6巻で順次リリース中の最新OVAまでたっぷり話を聞いた。暁古城役の細谷佳正へのメールインタビューも掲載しているので、合わせて楽しんでほしい。
取材・文 / 船津夏生 撮影 / 武田真由子
いろいろなことがあった「9年」と「7年」
──小説の第1巻の刊行から9年、アニメはTVシリーズの放送から7年が経ちました。まずは振り返っての感想をお願いします。
三雲岳斗 とにかく「長かったな」という印象です(笑)。こんなに長く続けられるシリーズになるとは思っていませんでしたので、ファンの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいですね。SNSで皆さんの感想を読んだり、アニメイベントで皆さんと直接交流ができたりしたことが印象に残っています。原作は一応、22巻で完結となりましたが、肩の荷が下りたという感覚はまだないですね(笑)。
種田梨沙 最初にオーディションを受けたときのことは、つい最近の出来事のように覚えています。「ストライク・ザ・ブラッド」の現場の記憶ってすごく鮮明なんですよ。「この話数の収録のときには、こんなことがあったなあ……」なんて細かく思い出せるくらい。お仕事の現場ではあるんですが、どこか「学校の教室」のような感覚もあって(笑)。共演者の皆さんと同じ学校に通っていたような記憶の残り方をしているんです。この7年間、変わらずずっと同じ座組で参加させていただけて……なかなかほかの作品では体験できないことなので思い出深いですね。
──それだけこの作品が長く愛されてきた理由は、どのようなものだとお考えですか?
種田 原作とアニメの相乗効果がすごい作品だと思うんです。原作ではバトルやファンタジーの要素が重厚感たっぷりに描かれて世界観が作られているんですが、アニメではセクシーな要素がファンサービスとして追加されていたり(笑)。アニメならではの要素に惹かれてファンになってくださった方も多いんじゃないかと。古参ファンと新規ファンの方々、両方から愛されている作品だと思います。あと、何よりヒロインが魅力的ですから。
三雲 確かに、種田さんの演じられている雪菜の魅力は、作品の人気を牽引してくれた大きな要素の1つだと思います。マニャ子さんが描かれている原作のイラストも、アニメの作画も気を遣ってかわいらしく描いてくださって。アニメスタッフの皆さんが、とにかく雪菜をかわいく描くことに注力していただけているのはありがたいですね。
吸血シーンは、やっぱり気まずい!?
──「ストライク・ザ・ブラッド」が2013年に初めてアニメ化された当時、三雲先生は制作スタッフとどのようなことを話し合われたのですか?
三雲 ありがたいことに、アニメの制作スタッフさんがすごく原作を読み込んで理解してくださっていて、私のほうから特に「こうしてほしい」といった要望を出した記憶がないんですよね。作品の舞台である絃神島は、いわゆる「常夏の島」なんですが、絃神島の全体的な色合いもイメージ通りでした。画面を通して熱気まで漂ってくるような、この作品特有の感じに仕上げていただけて……TVシリーズ第1話の冒頭部分から感動させられた記憶があります。TVシリーズのアフレコ現場に最初にお邪魔させてもらったときも、マイク前に細谷さんと種田さんが立たれている姿を見て、キャラクターのイメージ通りだなと感じました。おふたりの身長差も古城と雪菜くらいで、まるで「ストライク・ザ・ブラッド」が実写化されたかのように錯覚したのを覚えています。
──長いシリーズの中で、思い入れのあるエピソードについてお聞かせください。
三雲 原作の15巻……OVAだとちょうど「Ⅲ」のラストになるんですが、雪菜と浅葱が初めて本音でぶつかり合うシーンを書いたんです。以前から書きたいと思っていたエピソードで原作小説でも思った通りに書けた手応えがありますし、アニメでもイメージ通りにうまく描いていただけて、個人的にはすごく気に入っています。あとは、尺の問題でアニメでは日常シーンはカットされがちなんですが、OVAの「消えた聖槍篇」は全編がほぼ日常シーンでしたので、個人的にはすごく楽しませていただきました。
種田 私はTVシリーズの4話ですね。やっぱり雪菜が初めて吸血されるシーンは強く印象に残っています。現場の雰囲気も、なんだかみんな少しソワソワしてて。ほかには、「Ⅲ」の6話(「黄金の日々篇Ⅲ」)なんかも思い出深いですね。公園で雪菜と古城くんがイイ感じになるシーンがあるんですが、2人の会話の内容が好きで。事件や第三者に邪魔されることもなく素直な思いを語り合えたのはキュンとしました。演じる身としても、雪菜をかわいく魅せたいなという思いが強かったシーンです。
──雪菜以外のシーンで思い入れのあるエピソードを選ぶとすれば?
種田 そうですね、吸血シーンで言うと浅葱が一番ハラハラしました。現場でも「ついにきちゃったかー」みたいな感じでしたね。古城役の細谷(佳正)さんも「浅葱まで……」と戸惑われてて(笑)。アフレコの雰囲気が、久々にちょっと照れくさい感じになりました。
浅葱は物語の“裏主人公”
──おふたりのお気に入りキャラクターを教えてください。
種田 やっぱり一番は雪菜になってしまいます。雪菜以外では……紗矢華と凪沙がすごく好きなキャラクターです。凪沙役の日高里菜ちゃんとはWebラジオも一緒にやらせていただきましたし、凪沙というキャラクターが里菜ちゃんと似ているんですよ。凪沙が実在したら、こんな感じの女性に育つんじゃないかなと思えるくらい。紗矢華役の葉山いくみさんも、年上で先輩の役者さんなんですが、焦ったときの感じとかがリアル紗矢華みたいで(笑)。役者さんとキャラクターのシンクロ度が高いので、雪菜と接点の多い2人は、一層思い入れも深くなりますね。
三雲 凪沙といえば、原作の最終巻で彼女の出番がかなり増えたんですよ。初期構想ではそんなに登場する予定ではなかったんですが、思った以上に凪沙が前に出てきて……キャラクターが作者の手を離れて自分で動き出すというのは、こういう感覚なのかなと思いながら最終巻を書いていました。そのおかげでページ数が増えてしまって苦労したんですけどね(笑)。
──やっぱり三雲先生にとっては、古城と雪菜が特別なキャラクターですか?
三雲 ええ、書いていてとても安心感のある2人です。彼らが登場してさえいれば、例えどんな内容でも「ストライク・ザ・ブラッド」の物語になるという信頼感があります。反面、主要キャラクターの中では、浅葱を書くときには気を使いますね。とにかく彼女は複雑な裏設定が多いので、書きたいんだけど書けないことも多くて……。性格や能力的には動かしやすくてお気に入りのキャラクターなんですけどね。
──物語が進むにつれ、古城のクラスメイトという立ち位置だった浅葱も、徐々に戦いに参加するようになってきて、ずいぶん活躍は増えたように思えます。
種田 雪菜が前線を務めて、浅葱がシステム面で裏から支えるみたいな構図ができてきましたよね。
三雲 浅葱はヒロインであるだけでなく、この世界の成り立ちの根幹部分を担っている1人ですから設定的には裏主人公的なポジションでもあるんです。その分、彼女を描くのは楽しくもあり大変でもありましたね(笑)。
──ちなみに三雲先生はキャラクターを作られる際、どのようなことに気を付けられているのですか?
三雲 キャラクターがストーリーの主軸から離れてしまっても、ちゃんと地に足のついた生活感が感じられるようにしたいと思っています。例えば雪菜であれば、古城と一緒に行動していないときでも同級生の友人に囲まれて教室で他愛もない話で盛り上がっていたり、「主人公のためだけに存在するヒロイン」というふうにはしたくはないんです。雪菜には雪菜の人生がきちんとあって、それぞれが作品世界の中でちゃんと生きているように感じてもらえるように心がけながら書いていますね。
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雪菜はいわゆる“普通の子”!?