コミックナタリー PowerPush - ヤマザキマリ「スティーブ・ジョブズ」
テルマエ作者が天才ジョブズを熱筆
婚活女子はレンジを広げて、ジョブズみたいな変人でも付き合ってみればいい
──ヤマザキさんから見て、ジョブズは魅力的な男性ですか? もしくは天才萌えみたいなポイントがある、とか。
えー、ないない! 私はぜったい惚れない。突き抜けてイヤな奴じゃん。友達としてはアリだけど付き合ったら最悪な目に遭うと思いますよ。謙虚な天才ならいいけど、彼のような傲慢系天才に対しては萌えみたいなのも湧いてこない。
──てっきり女性誌の連載だから、読者の女子の移入具合も意識してるのかと。
ジョブズに惚れる女子続出みたいな? それはないでしょう。ああでも、Kiss読者っていうか30前後の女子はいま、婚活とか言ってるじゃない? その割に結婚できない、相手がいないとか言ってる。それはレンジが狭すぎるのかもしれません。 無責任ながら、たとえばジョブズみたいな変人とでも、付き合ってみればいいじゃん、とは言いたい。うちの夫もかなりの変人ですが、結婚してから細かいところは擦り合わせればいいのよ。まあ、ジョブズ級に変人難易度の高い人は私はご免こうむりたいけど(笑)。
── ははは、そうなんですね(笑)。
ただ老境にさしかかった頃からは、とてもいいですよね。皺があるジョブズは、描いていて老け専の血が騒ぎます。やっぱり人は歳を取ったときにどういう顔をしているかというのが大事で、昨日ちょうど、「ビル・カニンガム&ニューヨーク」っていうドキュメンタリー映画を観たんですけど、かっこよかったなあ。ニューヨークで50年以上ファッションスナップを撮り続けている伝説のおじいちゃんの話なんだけど。
──僕も観ました。作品である写真もいいんだけど、それ以上にビル・カニンガム本人が好きになりましたね。
なりますよね。周囲の老年の女性達もそうですけど、ああいう顔になるために、仕事をし続けてるんだと思う。その意味では歳取ったジョブズは、いい顔だなあと。別に恋人にしたいとかどうこうじゃないけど、魅力的だなあと思う。
ジョブズが読んだら、という基準でたっぷりした3段組みのコマ割りに
──ちなみに原作は世界各国でベストセラーになりましたが、このマンガも海外展開をはかっていくのでしょうか。
いまはちょっと何とも言えないですね。一応コマ割りとかは変形コマを避けて、3段組みという、すごくオーセンティックなコマ割りに落ち着いてきたんです。それはひとつにはさっき言ったジョブズが読んだらって基準からシンプルでソリッドな表現にしたんですけど、もうひとつには海外で出版されたとき、より多くの人に読めるようにしたかったから、ということもありますね。たっぷりしたコマ割りだから、当初想定していた2巻じゃ到底おさまりそうになくなっちゃったけど。
──海外の読者ということでは、原作者のアイザックソンの反応も気になります。
タイムリーな話題ですね。最初はマンガ化の許諾とかも、すんなりハイハイご自由に、って感じだったらしいの。向こうではコミックっていうとアメコミを思い浮かべるじゃない。実際ジョブズの伝記もこーんな薄いのが何冊か出ているんだけど、まあ、内容も深くまでは掘り下げていない、言ってみればジョブズ・ガイドブックみたいなもの。でも1話目が世界で話題になって、ガーディアン紙にまで取り上げられちゃいましたからね。そんな権威とされてるメディアに載るなんて思ってなかったみたいで。びっくりしたみたい。
──じゃあ、最初にこの企画を引き受けるように言った、息子さんは。
息子? 彼は鼻高々よ。「ほら言ったじゃん、描いてよかったろ」みたいに偉そうにしてる。
──目に浮かぶようですね。そろそろ時間ですので、ナタリーの読者に、メッセージをいただければ。
いまナタリー見てる人って、スマホ率どのくらいなの?
──6割は超えてきました。
すごいわねー。まあAndroidも多いんでしょうけど、iPhone、iPad、それにMacBookやiMacで見てる人合わせたらすごい数になると思うんです。だからApple製品でこのインタビューを読んでるみなさん、あなたがいま手にしてるApple製品がどうしてそういう形をしているのか、その理由がこのマンガにあります。ってどうかしら。
- ヤマザキマリ「スティーブ・ジョブズ」1巻 / 2013年8月12日発売 / 650円 / 講談社/KCデラックス
- ウォルター・アイザックソンが著した世界的なベストセラー「スティーブ・ジョブズ」を、「テルマエ・ロマエ」で一躍脚光を浴びたヤマザキマリ氏がマンガ化!! 第1話の試し読みは1週間で5万人以上が読み、第1話の掲載Kiss発売日には英・ガーディアン紙も取り上げた、超話題作登場!!
ヤマザキマリ
1967年東京都出身。17歳の頃、絵の勉強のためイタリア・フィレンツェで海外生活を送り、貧困生活ゆえに入賞金目当てでマンガを描き始める。その後、中東、ポルトガルで生活し、現在はアメリカ・シカゴで古代ローマを研究している夫と子供の3人暮らし。「テルマエ・ロマエ」でマンガ大賞2010、および第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。