コミックナタリー Power Push - ヤマザキマリ「テルマエ・ロマエ」

実録!動画で味わう名物編集長とのインターナショナル生打ち合わせ

1巻が80万部超の大ヒットを記録したヤマザキマリの「テルマエ・ロマエ」。公衆浴場設計技師にしてバカ真面目男のルシウスが、古代ローマと現代日本のお風呂を行き来するタイムスリップコメディだ。

その担当編集であるコミックビームの名物編集長、奥村勝彦に聞けば、海外在住のヤマザキとは、日頃からスカイプを用いて打ち合わせをしているという。ということは、ひょっとして──。

構成/坂本恵 撮影・編集/唐木元

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コミックナタリーと奥村編集長の出会いは、折しも「テルマエ」が大賞に輝いた「マンガ大賞2010」の授賞式。式場のスクリーンにはリスボン在住のヤマザキがスカイプで登場し、奥村編集長との丁々発止を披露した。

2010年3月17日にニッポン放送で行われた「マンガ大賞2010」授賞式にて、会場とスカイプで話すヤマザキ。

2010年3月17日にニッポン放送で行われた「マンガ大賞2010」授賞式にて、会場とスカイプで話すヤマザキ。

スカイプのビデオ画面は、別のアプリケーションを使えば録画できたはず。マンガ家と編集者の迫真の打ち合わせを、2画面ムービーで見せる記事ができるぞ! 思い付いたが吉日とばかり、その場で取材を申し込んでしまった。

それから待つこと2カ月、待ち望んだ電話が入る。「来週テルマエ10話のネーム打ち合わせやります。あの企画、やってみましょか」。そして取材日、エンターブレインを訪れたコミックナタリー記者が、会議室のドアを開くと……。

打ち合わせを前にあらためてネームを読み込む奥村編集長。真剣だ。

打ち合わせを前にあらためてネームを読み込む奥村編集長。真剣だ。

さっそく進行状況を訊くと、2度の打ち合わせを経て、ほぼ完成形のネームが届いたところだという。3回目となる今日は、ネームの細部に生じた疑問や違和感を解決していくとのこと。ここで収録を始める前に、単行本2巻に収録される第10話のプロットを紹介しておこう。

第10話あらすじ

斬新なアイデアで次々と公衆浴場を作ってきたルシウス。だが伝統的な浴場の経営者たちは、新しい浴場に客を取られたとルシウスを責め立てる。どうしたものかと悩む彼は、またもやタイムスリップ。着いた先は日本の昔ながらの銭湯だった。同じような古びた浴場なのに、なぜ経営が成り立っているのか。彼は「平たい顔族」から学ぼうと観察を始める──。

「ほな、やりますか」。奥村編集長がスカイプで呼び出すと、さっそくリスボンの自宅にいるヤマザキと回線がつながった。いよいよ打ち合わせのスタートだ。

実演! 男泣きポーズが問題だ

まず議題に上がったのが、責め立てられたルシウスの“男泣き”シーン。仮ネームの段階でも違和感があって修正されたものの、修正後もまだ「ちょっと違う」ところがあるという。

涙を流す直前、ルシウスは頭を抱えこんでいる。心象風景にむりやり音を付けるとすると「ヌオー!」という感じ。

涙を流す直前、ルシウスは頭を抱えこんでいる。心象風景にむりやり音を付けるとすると「ヌオー!」という感じ。

ここをどう直したものか。パソコンを前にしていきなり、想像を超えるやりとりが展開された。まずはとにかく動画をご覧いただきたい。

奥村編集長の打ち合わせは、自らの身をもってリクエストを示すストロングスタイルだった。実演される男泣きポーズを、ヤマザキはすかさずデッサン。

雑誌に掲載された原稿。責め立てられている圧迫感が、ネーム段階よりさらに深刻に感じられる。こちらもむりやり音で示すなら「ズーン」だ。

雑誌に掲載された原稿。責め立てられている圧迫感が、ネーム段階よりさらに深刻に感じられる。こちらもむりやり音で示すなら「ズーン」だ。

さらに男泣き動作のディテールを詰めていくご両人。顔を上げるアクション、涙の流れ方、目は開けているか閉じているかといった細部まで演出は及んだ。

奥村編集長曰く、ルシウスはストイックな男だから「絞り出し系」の泣き方をするという。実際のマンガにはこんな風に反映された。

どばどばと涙を流しているネームに対し、ストイックな溢れ出し方を表現している完成原稿。

どばどばと涙を流しているネームに対し、ストイックに涙が絞り出される完成原稿。

「テルマエ・ロマエ」II / 2010年9月25日発売予定 / 定価714円(税込) / エンターブレイン / BEAM COMIX

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時はローマ時代。公衆浴場の設計技師ルシウスは、浴場のアイデアについて悩んでいた。彼は公衆浴場で友人にグチをこぼしながら湯に入り、思索にふけろうとする。その途端、ゴボゴボと沈みいきなり現代の日本の銭湯にタイムスリップ。こうして何度もタイムスリップを繰り返し、ルシウスは新しい技師としての名声を得ていくのだが……。古代ローマと現代日本のお風呂を行き来するルシウスの活躍を描く、空前絶後&抱腹絶倒のタイムスリップ風呂マンガ。

プロフィール写真

ヤマザキマリ

1967年東京都出身。17歳の頃、絵の勉強のためイタリア・フィレンツェで海外生活を送り、貧困生活ゆえに入賞金目当てでマンガを描き始める。その後、中東、ポルトガルで生活し、現在はアメリカ・シカゴで古代ローマを研究している夫と子供の3人暮らし。「テルマエ・ロマエ」でマンガ大賞2010、および第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。