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劇場版「SHIROBAKO」特集 堀川社長対談4番勝負 第2回 P.A.WORKS 堀川憲司×TRIGGER 大塚雅彦|「真に作品を作っているのは制作。制作がいないと作品は絶対完成しない」

劇場版「SHIROBAKO」が2月29日に公開されることを記念し、コミックナタリーではP.A.WORKSの社長であり本作のプロデューサーでもある堀川憲司と、ほかのアニメーション制作会社の社長による対談企画を連載中。第2回では映画「プロメア」のヒットも記憶に新しい、TRIGGER・大塚雅彦のもとを訪れた。堀川と大塚の出会いは古く、25年前の「新世紀エヴァンゲリオン」の現場にさかのぼる。2人の対話からは、スタジオジブリ、ガイナックスと錚々たるキャリアを歩んできた大塚のターニングポイントとなった出来事や、会社のブランドイメージについてなど、興味深い話が次々に飛び出した。

取材・文 / 柳川春香 撮影 / 佐藤類

「SHIROBAKO」は家族に仕事を説明するとき便利

──おふたりは堀川さんがタツノコプロ、大塚さんがガイナックスに所属されていたときに、「新世紀エヴァンゲリオン」の現場で出会ったんですよね。

堀川憲司 そうですね。でも、大塚さんが社長になられてからはほとんど会っていなかったですね。

大塚雅彦 TRIGGERを立ち上げるときに、堀川さんに相談に行ったりしましたよね。

堀川 方向性から何から、P.A.WORKSとは全然違うのにね(笑)。

──大塚さんは「SHIROBAKO」を放送当時ご覧になっていたそうですが、どのような感想を持たれましたか?

大塚 アニメ制作の現場の雰囲気がすごく出ているのと、「このキャラ、あの人だな」みたいな、モデルが思い浮かぶ方が時々出てくるのも面白かったです(笑)。普段アニメを観ている人でも、どうやって作っているのかまではなかなかわからないだろうし、舞台裏を知ったうえで観ると、また印象も変わるのかなと。僕はずっと演出をやってきましたが、「何をやっているんですか?」と聞かれても説明が難しいんですよね。それをアニメで観てもらうことで「こういう雰囲気でやっているんだな」ってことがわかりやすいんじゃないかと思います。

左から堀川憲司、大塚雅彦。

堀川 だから「SHIROBAKO」は家族に自分の仕事を説明するときに便利だったらしいですよ。「このキャラが俺のやっている仕事だよ」って。

大塚 なるほど。

堀川 うちの相馬(紹二)プロデューサーは、麻雀やってるだけってお母さんに思われたらしいですが(笑)。

──(笑)。ちなみに大塚さんは、「SHIROBAKO」を観ていると仕事の苦労を思い出してつらい、ということはなかったんでしょうか?

大塚 全然なかったですね。アニメの制作現場って、もちろん大変なことはあるんですが、じゃあなんでみんなやっているのか?っていうと、やっぱり楽しい部分があるからやっているわけで。その情熱や楽しさを伝えてくれる内容になっていたと思いますから。

堀川 僕が「SHIROBAKO」を作りたかった理由の1つがそれなんです。アニメ業界のネガティブな情報がたくさん出ているなかで、もちろん過酷な環境を肯定したいわけではないんですが、じゃあ何を楽しみに作っているのか、というのを表現したかった。

──特に主人公の宮森あおいのやっている制作進行(※)の仕事って、「大変だ」「激務だ」という情報くらいしか一般には聞こえてきませんからね。堀川さん自身は、プロデューサーや制作進行の楽しさってどこにあると思いますか?

※制作進行…担当話数の制作全体を管理するポジションのこと。絵コンテが上がってから作品が納品されるまでのスケジュール管理や、スタッフの手配、社外のアニメーターから絵素材を集める外回りなど、業務は多岐にわたる。

堀川 僕は演出ができるわけでも絵が描けるわけでもないけど、単純に上がってくる原画(※)1枚にも「こんなものが描けるんだ」って興奮するし、自分の想像をはるかに超えるものが作られるので、そこに刺激をもらうんです。そういう刺激を与えてくれるクリエイターたちが好きっていうのと、その人たちが一緒になったときの現場の一体感かな。「SHIROBAKO」第12話の杉江さんのエピソードで描いたような、現場のボルテージが上がる瞬間、「ああ素敵な現場だな」って感じる気持ちいい体験が、たまーに訪れる(笑)。それが続けてこられた理由だと思います。

※原画…動き始め、節目になるポイント、動き終わりといった動きの要所を描いた絵素材のこと。また、原画と原画の間の動きを描いた絵素材を「動画」と呼ぶ。

P.A.WORKSは、バッドエンドは作らない

──「SHIROBAKO」の第1クールではオリジナルアニメの制作が描かれていますが、P.A.WORKSもTRIGGERもオリジナルアニメを多く手がけていて、会社としてのカラーがアニメファンに認知されている会社のように思います。

大塚 よくそう言われるんですが、実際はなんでもやりたいと思っているんですよ。でも監督のカラーがどうしても色濃く出るし、特にTRIGGERは立ち上げのときから今石(洋之)がいて、今石作品を作りたいスタッフも集まってくるから、やれることをやっていると自然にそうなってくるんですよね。観る側もそれを求めているというか、外れたことをやると「TRIGGERらしくない」と言われたりもして。

堀川 外からフリーの監督を呼んでくるってことはしないの?

大塚 それを考えた時期もあるんですが、中にいる監督に対してのほうが、スタッフたちも「この人のために」っていう思いが働きやすいみたいで。やっぱりアニメを作るのって大変な労力がかかるので、そういう雰囲気が作れる人じゃないと難しいかなとは思います。特に若い人は「誰かのために」とか、作品に帰属する意識が強い気はしますね。僕らの時代はもっと我が強かったんですが。

左から堀川憲司、大塚雅彦。

堀川 うちも会社のブランド化とかカラーというものを考え始めたのは、ごく最近です。今までは単に僕の好みが出ていただけですけど、現場から離れてからは、P.A.WORKSとしてのビジョンや理念をプロデューサーたちに伝えるようにしています。バッドエンドものは作らないとか、観たあとに明日もがんばろうと思えるようなものを作ってくれ、とか。

──じゃあそこから外れたものを作りたかったら、会社を移るしかない?

堀川 そうでしょうね。

大塚 TRIGGERにはそういう縛りは特にないんですが、単純に、中にいるスタッフができることしかできないので。だから作品を作るときも、核の部分はスタッフもあらかじめ想定してプランニングしないといけない。今後スタッフのメンツが変われば、作品も変わっていくかもしれません。

堀川 TRIGGERの作品ってスタイルから何から独特なので、フリーのスタッフに振るのが難しそうですよね。

大塚 通常のアニメより大変なことは間違いないですね。中のスタッフを増やしたい気持ちもあるんですが、じゃあどうやって教育するか?という。ただ人を増やすだけではフリーに頼むのとあまり変わらないことになるので、育成できるキャパを考えないと。

──やっぱり若手の育成は、どこの会社も課題なんですね。

大塚 TRIGGERは全体的に若いスタジオなので、まだ教えられる人が少ないし、バリバリ仕事をやっている人に1枚でも多くカットを描いてもらったほうがいいのか、育成に力を割いてもらったほうがいいのか、悩みどころなんですよね。

堀川 うちも養成所の講師をやってもらっているのは20代、30代のスタッフで、仕事もしながらなので、大変だと思います。監督や作監(※)を目指す人にとっては、教える側に立つことが、人を説得したり、物事を伝えたりするためのいい勉強になるとも思うんですが。

※作監…作画監督の略。複数のアニメーターから上がる原画の絵柄の統一、演技の修正などを手がけ、担当話数の作画のクオリティを統括するポジション。

大塚 僕は絵を描かないので、演出や、作画のうえでの演出的な処理の知識は教えられるけど、パースやデッサンを描いて教えることはできない。ほかのスタッフも、結局自分たちが教えてもらった経験がないので、教え方を知らないんですよ。だからと言って今の若い人たちに、昔のように「背中を見て盗め」って言っても、途方に暮れてしまう。若い人をどう引き上げてあげるかは、重要な課題だと思います。

高畑勲との出会いから、アニメの道へ

──では、ご自身が「この人の背中を見て学んだ」という人はどなたかいますか?

堀川 大塚さんはやっぱり、宮﨑駿監督ですか?

大塚 宮﨑さんの作品には直接関わっていないんですよ。僕はスタジオジブリで最初に付いたのが高畑勲さんなんですが、これがもし宮﨑さんに付いてたら、たぶんアニメをやっていないんじゃないかな。

堀川 へえ!

大塚雅彦

大塚 というのは、僕はもともと実写の仕事をやっていたので、アニメをやるつもりはなかったんです。ジブリの作品は好きだったので、「1本くらいはやってみようかな」という気持ちで呼ばれて参加したんですが、そこで高畑さんに出会って。スタジオジブリという作画の頂点みたいなスタジオで、絵を描かない高畑監督が、その人たちに対して演出をやっているわけです。それを見て、「こういうやり方があるんだ」って。僕は絵を描けない時点でアニメをやるって発想がなかったんですが、絵が描けなくても、絵がわかれば、指示を出せる。そこで「自分もやれるかもしれない」と思ったんです。逆に宮﨑さんは画力でねじ伏せるようなタイプの方なので、あのとき宮﨑さんに付いていたら、僕は今ここにいなかったと思います。

──そしたらTRIGGERも生まれなかったかもしれないと。すごい分かれ道ですね。

堀川 そこから今度は庵野(秀明)さんのところに行ったんですもんね。

大塚 そうですね。「エヴァ」では劇場版よりスケジュールがタイトなTVアニメの作り方であったり、オタク的な視点を学んだり。もちろん庵野さんにも、ガイナックスの先輩からもたくさん刺激を受けました。影響を受けた人は、1人には絞れないくらいたくさんいます。そういう意味ではラッキーでしたね。