夢があるなあと思います
──撮影の中で、何か印象に残っているエピソードはありますか?
作品の中で島耕作がいろんな登場人物と絡むので、キャストの皆さんはそれぞれ少ない日数で現場にいらっしゃって、入れ替わり立ち替わりですぐにいなくなってしまうような感じだったんですね。その中で、例外的にいっけいさん(渡辺いっけい/中沢喜一役)とは一緒のシーンが多くて、最後のほうまで撮影をご一緒できて。もともとすごく尊敬している役者さんですし、また共演できたことがすごくうれしかったです。
──渡辺さんとのお芝居でどんなことを感じましたか?
なんて言うんだろうな……安心感というか、甘えられる感じを自然と出せるんですよね。さっきも言いましたけど尺が短いんで、映画やTVドラマみたいに時間をかけて少しずつ関係性が深まっていく過程をじっくりと描写することはできないわけです。その中で、2人のシーンになった瞬間にお互いが信頼し合っている空気感がパッとできあがるというか。中沢部長といるときの島耕作は普段以上にチャーミングであってもいいのかなとは思っていたので、そこをいっけいさんに最大限引き出してもらえた感覚が強いです。本当に感謝しかないですね。
──そこはやはり、中尾さんと渡辺さんの関係性があってこそのもの?
関係性といっても、ちゃんと共演するのはこれが2回目なんですけどね。ただ、それよりもっと大昔……もう20年以上前の話ですけど、いっけいさんが出られていた「ズッコケ三人組」というNHKのドラマに、実は僕も出てたんですよ。たくさんいる子供たちの中の1人みたいな感じで。なので、僕が人生で初めて見たプロの役者さんがいっけいさんだったと言ってもいいくらいですし、そのときに「お芝居の世界ってこういうものなんだ」と知ったわけです。そのことを今回、いっけいさんにようやくお伝えできました。前回、フジテレビの「27時間テレビ」内の歴史ドラマで共演したときは、数日間ずっと一緒だったのに言い出せなかったので。
──そのときはなぜ言い出せなかったんですか?
いや、覚えてるわけないと思ったし、「それで?」っていう空気になっても嫌だなと思って(笑)。今回「えー! そうなんだ!」と言ってもらえたんで、すごくうれしかったです。そういう巡り合わせがあるから、この世界は面白いなと思うんですよね。「島耕作」とは関係ない話になっちゃいますけど、水野美紀さんの出られていた映画に子役エキストラとして参加したこともあって、子供ながらに「すげえ!」と思った記憶が強烈に残ってるんですよ。そのことを最近になって水野さんと共演した際に「実は」みたいにお話しできたりもしたんで……なんか、楽しい世界ですよね。なかなかほかではないような話だと思うんで。
──確かにそうかもしれません。子供の頃にプロの世界に触れる、という経験がそもそも一般的にはそんなにないことですから。
夢があるなあと思います。
──中尾さんくらいのキャリアになってくると、逆の立場のご経験もあるんじゃないですか? 下の世代の方が「実は子役時代に中尾さんとご一緒してたんです」みたいな。
ああ、そうですねえ……(しばし記憶をたどって)この間バラエティ番組で芦田愛菜ちゃんと一緒になったんですけど、「まーちゃんさ、俺お父さん役やったことあんだよ」って言ったら「え、そうでしたっけ?」って。
──ぶわはははは! そうか、そのパターンもあるんですね(笑)。
そうなんですよ、覚えられてなかったっていう(笑)。「のぼうの城」っていう映画で子役時代の愛菜ちゃんと共演してて、撮影現場では一緒にお団子作って遊んであげたりもしてたんですよ。まあ当時の愛菜ちゃんは5歳とかだったんで、そこまで小さいとさすがに覚えてないんだなあって。ちょっとだけ落ち込みました(笑)。
ニューヨークと言われればニューヨークに見える
──「課長 島耕作のつぶやき」の完成映像をご覧になったときは、どんなことを感じましたか?
通常のドラマに比べたら少ない人数で撮ってるんですけど、そうとは思えないくらいの映像クオリティで、プロの仕事が光ってるなあと感じましたね。照明さんのライティングワークやカメラマンさんのカメラワークなど、その道のプロたちの技術が結集して、すごくカッコいい画面ができあがっています。
──少数精鋭ということですね。
そうやっていろんな人がいろいろやってくれるから、役者はあんまり何もしないほうがいいなと改めて思いました。映像の場合は特に、「役者は現場に行ってセリフ言って帰るだけ」くらいのスタンスでいいのかなって。
──仲間を信頼して自分の仕事に徹しようと。
あと縦型の画角はすごいなと思ったのが、ニューヨークのシーン。島耕作がニューヨーク支社のオフィスで電話をするシーンがあるんですけど、あれを撮ったの、東京の浜松町ですからね。画角的に背景の見える範囲が極端に狭いから、ニューヨークだと言われればニューヨークに見えるっていう。なんか新たな世界を感じました。
──あのシーンは画角の狭さをうまく逆手に取っていて、すごくいい見せ方だなと個人的にも感じました。
どっかからニューヨーク市街の映像素材を借りてきて前後に挟めば、もうニューヨークのシーンになっちゃうんで。僕、最初に台本を読んだとき「ニューヨーク行けるんだ!」とか「フィリピンのシーンもある! フィリピンロケあるんだ!」ってすごくワクワクしてたんですよ。そしたらロケ現場がまさかの浜松町と、足立区の陽気なお母さんが営むフィリピン料理屋さんっていう。
──全部都内で済んでしまった(笑)。
この縦型の画角にはいろんな可能性があるなと思いましたね。それは「手を抜ける」って意味じゃなくて、知恵と工夫次第でいろんなことを実現できる余地がたくさんあるっていう。
──視聴者の方には、特にどういうところを楽しんでもらいたいですか?
島耕作という男が一生懸命サラリーマンの世界を生きているところを見て、何かを感じてもらえたらうれしいです。上司がいて部下がいて、出世というシステムがあって……まあ芸能界もそうなんですけど、どの世界も厳しい世界だと思うんですよ。その中で、島耕作は一生懸命に自分の信念を貫こうとしている。もちろん貫き通せない悔しさを味わうこともあるんだけど、それは皆さんも同じだと思うんですよね。ここ最近はなかなか自分の信念というものが、いろんな意味で表現できにくいじゃないですか。
──ちょっと言い方を間違えると簡単に炎上する世の中ですしね。
だからこそ島耕作の生き方を見て……たとえば通勤通学の途中とかに観てもらって、なんとなく「今日もがんばるか」とか「少し笑顔多めで過ごしてみるか」とか、そんなふうに思ってもらえたら一番ありがたいなと思います。
──たしかに、尺が短いぶん通勤通学のお供にはぴったりですよね。
本当にひと駅くらいでちょうど観られるサイズだと思うんで、気軽に楽しんでもらえたらと思います。それで何か、ちょっとだけ心に残るものがあればうれしいですね。
プロフィール
中尾明慶(ナカオアキヨシ)
1988年6月30日生まれ、東京都出身。2001年、ドラマ「3年B組金八先生(第6シリーズ)」に出演。以後、「GOOD LUCK!!」、映画「時をかける少女」、ドラマ・映画「ROOKIES」シリーズなど数多くの作品に参加する。近年の出演作に連続テレビ小説「まんぷく」、ドラマ「監察医 朝顔」「ボクの殺意が恋をした」「初情事まであと1時間」、映画「今夜、ロマンス劇場で」「劇場版 ひみつ×戦士 ファントミラージュ! ~映画になってちょーだいします~」「キャラクター」「仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ」などがある。
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