アニメ「しかのこのこのここしたんたん」ただの“萌えマンガ”じゃない、本気でギャグをやり切る!おしおしおが担当編集と対談 (2/2)

何もないけどいい塩梅の町・日野

──のこたんやこしたん以外にもいろんなキャラクターが登場しますが、新キャラクターはどんな流れで作られていますか?

五十嵐 基本は全部おしお先生におまかせです。自分からは「そろそろ新キャラが欲しいのでお願いします」と言うくらいで、デザインの修正もこれまで一度もないくらいです。ただ、連載の途中で「もう女の子だけにしましょう」っていう話はしました。

おしお こしたんの舎弟の男の子とかも考えていたんですけどね。IQ3の舎弟とか、めちゃくちゃ顔のいいナルシストの教師とか。でもそういう変なのを出すと、のこたんの“変さ”が霞むだろうし、男の子が出てくると恋愛の可能性が出てくるのもネックで。今回はラブコメではなくギャグマンガをやりたかったので女の子だけでいくことにしました。

五十嵐 キャラの設定だと、馬車芽の名字をどうするかだけ悩みましたね。馬が入っていて響きがいい名字を2人で探して馬車芽になりました。

「しかのこのこのここしたんたん」3巻より、馬車芽めめの登場シーン。

「しかのこのこのここしたんたん」3巻より、馬車芽めめの登場シーン。

「しかのこのこのここしたんたん」3巻より、馬車芽めめの登場シーン。

「しかのこのこのここしたんたん」3巻より、馬車芽めめの登場シーン。

おしお 結果的に名前はかわいいし、佇んでいるだけで愛されるようなキャラになって、馬車芽は私たちのお気に入りです。

──続いて、なぜ舞台を東京の日野市にしたのか教えてください。

おしお 東京近郊で少し外れたところにしたかったんです。最初は春日部にする案もありましたが、さすがに「クレヨンしんちゃん」には勝てないだろうから断念して。

五十嵐 舞台装置として、なんでもあるけどのんびりもしやすい場所というとそのへんになって。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻より。作中でたびたび言及される日野。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻より。作中でたびたび言及される日野。

おしお 町田も考えたものの、ちょっと町田自体がネタになり過ぎすぎちゃうから違うかなって。そうこう考えているうちに日野がちょうどいい塩梅の場所だと思い至り、しかも多摩動物公園もあるという。それで日野に決まったんですけど、多摩動物公園には鹿がいらっしゃらないと後で知りました。

──奈良を舞台にしようという案はなかった?

おしお 奈良には馴染みがなくてイメージが湧かないので、それはなかったです。その点、日野は私が通っていた大学がそっちのほうだったので、電車から降りたことはなかったけどなんとなくイメージはあったんです。いや、正確には1回寝過ごしたときに降りて「このへん、何もないな」と思ったことはありました。

──(笑)。あと原作を読んでいると、鹿せんべいの扱いがぞんざいに感じるのですが……。

おしお 怒られたら謝るしかないです。

五十嵐 だから言い訳できるように「シカせんべい」とカタカナにしているんですよ。おしお先生の描き文字は別ですけど、セリフでの表記はカタカナで統一しています。あとは、あくまでのこたんの好物として扱っているので、バカにはしてないしいいかなって。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻より、ぞんざいな扱いをされるシカせんべい。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻より、ぞんざいな扱いをされるシカせんべい。

おしお 「まずい」とは言ってませんからね。

──奈良や鹿に対してリスペクトはあると。その甲斐あってかアニメ化に際してせんとくんからコメントもありましたしね。

五十嵐 まさか鹿の大先輩からメッセージをいただけるとは思いませんでした。町の歴史で考えると1290歳ぐらい先輩……なんですかね?「しかのこ」の連載開始時にマジで「打倒せんとくん」と考えていたくらい偉大な先輩ですから。

おしお そうでした。あと「小学館にはドラえもんがいるし、集英社にもルフィがいる。講談社のそのポジションをのこたんで狙おう」みたいな話もしてました。

五十嵐 あったあった。アニメのXアカウントも最近は奈良に接近しているし、のこたんを1日店長的な感じで奈良の1日ゆるキャラとかにしてもらえないでしょうか?

「おしおのページだけコロコロコミックだ」と言われて

──これまでのおしお先生のマンガはすべて4コマでしたが、「しかのこ」で普通のコマ割りに挑戦しようと思った理由は?

おしお 4コマだとどうしても読者が限られるというか、敷居の高さを感じさせる部分があるんですよ。「しかのこ」に関しては、いわゆる萌え4コマと思われたくなかったというか……言い方が難しいですけど。

五十嵐 それよりギャグマンガでありたかった?

おしお そうそう。もともとまんがタイムきらら(芳文社)などで描いていた頃から「おしおのページだけコロコロコミックだ」みたいに言われていたし、私を熱く推してくれるファンが支持してくれるのはギャグのほうだったので、今回はそちらで勝負したかったんです。ただ1話は一旦4コマと普通のコマ割りの両方でネームを切りましたよね。

五十嵐 それで普通のほうが勢いがあったので、そっちでいくことにしました。

おしお 今となっては普通のコマ割りのほうがやりやすいのでよかったです。4コマって、1ページに必ず8コマ描かなきゃいけないので大変なんですよ(笑)。

五十嵐 ネームに関してだと「この顔はもう少し大きいとうれしい」みたいな話はしましたね。特に序盤は。ギャグマンガなのでどうしてもボケやツッコミのコマが大きくなるんですけど、せっかくのかわいいキャラが大きく描かれていないのがもったいなかったので。それと同じような話で、しっかり美少女を描く“逆作画崩壊”を1話に1回は入れるようお願いしていました。編集長から「これだけ絵がうまい人がギャグマンガを描いてるんだから、本気の絵があったほうが読者もハッとするし、名刺代わりにもなるから」と言われて。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻より、“逆作画崩壊”のシーン。
「しかのこのこのここしたんたん」1巻より、“逆作画崩壊”のシーン。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻より、“逆作画崩壊”のシーン。

おしお でも最近言われなくなりましたね。

五十嵐 今は言わなくても自然にやってくれてるし、序盤でお客さんを掴むためでもあったので。

──ちなみにおしお先生はもともと、美少女キャラクターを描くのがメインだったんですか?

おしお 男の子も普通に描いていましたよ。ただ仕事として美少女のほうを求められているので……今でも男性がメインになる作品を求められるなら全然やりたいです。「爆発先生」とか。

五十嵐 「爆発先生」縛りなんだ。

私のマンガってそんなにわかんないんですか?

──おしお先生が描く美少女のかわいらしさは大きな武器でしょうが、ルーツとなるような作品はありますか?

おしお ……別にないかも。

五十嵐 好きなヒロインとかいなかったんですか? 僕らより少し上の世代だと「セーラームーン」や「カードキャプターさくら」と言う方も多いですけど。

おしお それらも読んでいたけど、めちゃくちゃハマってたかと言われるとそうでもなく。好きなイラストレーターさんが美少女系を描く方が多かったのと、私はラノベの表紙がやりたくて、それなら女の子をかわいく描けないといけないから美少女を描くようになったのかもしれません、たぶん……あまり昔のことは思い出せないです。

──では最後に先の話をしましょう。「しかのこ」は今後どうしていくか展望のようなものはありますか?

おしお あまり先のことは考えていないですね。粛々とやるしかないです。たまに変な回とかやりたいですけど。

五十嵐 個人的には読者に「わかるようになったな」とは言われたくないです。毎回「何やってるんだ、わけわからん」と言われるような連載であってほしい。

おしお え、私のマンガってそんなにわかんないんですか? 読者の方からもそういった声がありますけど。

「しかのこのこのここしたんたん」6巻

「しかのこのこのここしたんたん」6巻

五十嵐 言い方が難しいですが、おしお先生のギャグは伝わらない「わからない」じゃなくて、「どういう思考回路でこうなったんだろう」という「わからない」なんですよ。

おしお そんなにですかねえ。私としては変なものを描いている感覚がなくて、「ONE PIECE」のようなストレートなものを描いているつもりなので。モブキャラにラブコメさせる回(単行本6巻収録の第32話)とか好評でしたけど、ああいうそれっぽいものもちゃんと描いていますし。

五十嵐 こんなにわけのわからないギャグなのに読者が楽しめるものを描けるので、そういう人がちゃんと筋がある話をやったら強いんですよ。変な例えですが、面白い芸人さんは泣かせる話もめちゃくちゃうまい、みたいなことがあるじゃないですか。

──「しかのこ」っていわゆる「サザエさん時空」ではないですよね。だから最終回でのこたんやこしたんの卒業はあるかなと思って。

おしお うーん、一応のこたんとこしたんが2年生で始まって、今3年生になって季節的に夏ですけど、意識的にはサザエさん時空みたいなもんですね。

五十嵐 2回目の3年生編スタートとか堂々とやっても全然許されるでしょうし、急に時系列を無視しても誰も怒らないと思いますけどね。ただ異世界に行く回以外は、超絶ゆっくりですけどちゃんと時間が進んでるから。

おしお では、最終回はやっぱり超感動系でいきますか?(笑)

プロフィール

おしおしお

2014年にまんがタイムきらら(芳文社)で連載された「神様とクインテット」と月刊コミックアライブ(KADOKAWA)内のコミックキューンに連載された「さくらマイマイ」でマンガ家デビュー。2019年に少年マガジンエッジ(講談社)で「しかのこのこのここしたんたん」をスタートさせた。同作は現在マガジンポケットにて連載中で、単行本は6巻まで刊行されている。イラストレーターとしても活動しており、Vtuber・ホロライブ所属の天音かなたや、にじさんじ所属の空星きらめのキャラクターデザインも担当。