アニメ「しかのこのこのここしたんたん」ただの“萌えマンガ”じゃない、本気でギャグをやり切る!おしおしおが担当編集と対談

おしおしおが手がける「しかのこのこのここしたんたん」は、頭にツノが生えている謎の少女、のこたんこと鹿乃子のこと、元ヤンであることを隠しながら高校生活を送る優等生、こしたんこと虎視虎子を軸にしたコメディ。7月よりTVアニメが放送中で、オープニングテーマ「シカ色デイズ」のイントロ耐久動画がSNSでバズるなど、口コミで話題を呼んでいる作品だ。コミックナタリーでは「しかのこ」のアニメ化を記念した特集を展開。原作者であるおしおしおと担当編集・五十嵐の対談を実施し、同作の魅力を掘り下げた。

文 / はるのおと

「しかのこ」で駄目ならギャグはもういいかな、くらいに考えていた

──アニメ化はいつ頃決まったんですか?

五十嵐 僕は1巻が出て割とすぐオファーがあったのを聞いていました。早すぎるタイミングだったので正直「嘘だろ?」と思いつつ、正式に決まるまでおしお先生には黙っていたんですけど。

おしおしお 私が五十嵐さんからアニメ化の話を電話で聞いたのが、2巻が発売されて1カ月後くらいでしたっけ。うれしくて電話を切った後に泣きました。「しかのこ」はめちゃくちゃアニメ化を狙っていたので。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻

「しかのこのこのここしたんたん」1巻

五十嵐 そんなに狙ってましたっけ? 「アニメになったらいいね」みたいな話はずっとしてましたけど。

おしお アニメ化のためにこうした、みたいなことはないですが……以前、別の出版社で連載をしていた頃からアニメ化したい気持ちはあったものの、結局できなくて。個人的には「しかのこ」に賭けていた部分がありました。「これで跳ねなかったらギャグはもういいかな」くらいに考えていたので、アニメ化は本当にうれしかったです。

──そんなギャグ作品をWIT STUDIOが制作するというのも、アニメファンとしては驚きでした。

おしお 同じく、です。制作スタジオを聞いたときは「あの『進撃の巨人』の!? なんで?」って言ってしまいましたもん。

──そんな念願叶ってのアニメを観られての感想をお聞かせください。

おしお アフレコにほぼ毎回伺ったんですけど、1話の段階でほぼ完成しているのを見られて、我々は大興奮していました。

五十嵐 もう、テンション上がっちゃって。

おしお 監督や音響監督や関係者の皆さんがずらっと並んで、声優さんの演技を聞いてるときに「のこたん動いてる!」とか言ってキャッキャして。うるさかったと思います……すみません……。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」ティザービジュアル

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」ティザービジュアル

──アニメ化の喜びがそこで爆発したと。アニメは原作からアレンジされている部分もありますが、原作サイドからはどんなリクエストを出されましたか?

おしお 最初に大まかな方針として「これは萌えマンガではないので、ギャグをやり切ってほしいです」「思いついたことは全然入れていただいて大丈夫です」とお願いしました。

五十嵐 「マイルドにはしないでほしい」「どうせやるならひどくしてほしい」みたいなことも言っていましたよね。

おしお そうした話をアニメ側も好意的に受け止めてくださっていました。シリーズ構成のあおしま(たかし)さんが特に。最初にプロットをいただいたときに、添えられたメッセージが熱すぎて、私はまた泣きました。

五十嵐 皆さんそんなふうでしたよね。僕は脚本会議に参加していましたが、太田(雅彦)監督をはじめ、みんなでキャッキャとネタ出ししていて楽しそうでした。監督は毎回ネタを言うたびに「世代がおじさんかな」と不安がって。

おしお かわいいですよね、監督。

五十嵐 監督は最初から「鹿はCGでリアルにいきたいんですよ」「日野を鹿だらけにするんです」とすごく真面目な顔でおっしゃっていて。「この人は本気だな」と思いました。

おしお あのCGにしようと思ったあたり、監督もすごいギャグセンスですよね。

馬車芽そのままな和泉風花さん

──キャストの印象をお聞かせください。

おしお お世辞とかではなく、本当に皆さんすさまじかったです。

五十嵐 アフレコを見ながらずっと2人で「はあ~」と感嘆してましたもんね。

おしお のこたん役の潘(めぐみ)さん、こしたん役の藤田(咲)さんもしっかりとキャリアがある方じゃないですか。そんな人たちがこんなよくわからない作品のオーディションを受けてくれたこと自体が驚きだし、アフレコでも皆さん素晴らしい演技を聞かせてくれて。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」より、のこたんこと鹿乃子のこ。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」より、のこたんこと鹿乃子のこ。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」より、こしたんこと虎視虎子。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」より、こしたんこと虎視虎子。

五十嵐 藤田さんはずっとツッコミ続け、長尺で叫び続けていたので申し訳なかったですね。

おしお でも最終話付近はあまりセリフがなかったから「物足りなかった」と言ってましたよね。あと馬車芽めめ役の和泉(風花)さんが収録現場でおにぎりを食べてたのも面白かった。

五十嵐 「馬車芽がおにぎり食べてる!」って。

おしお しかも何回も。和泉さんって本当に馬車芽なんですよ。いい意味でマイペースというか。アフレコ後に毎回キャストの皆さんがご飯に行かれていて、私も何度かお邪魔したんです。それで中華料理屋さんで和泉さんがチャーハンを頼んでたんですけど、えげつない量が来て。「多いですねー」みたいなことを言いながら黙々と食べている姿が本当に馬車芽すぎて、「え、かわいい」と。そんな感じで本当に皆さん仲良く、楽しそうな現場でした。

──今回のインタビューは2話の放送に合わせて公開されます。この先のアニメの見どころをお願いします。

おしお ここからどんどん面白くなります。これは言っていいのかわからないですけど……絶対に最終話まで観てほしいです、本当にすごいので。おかげで「アニメには負けないぞ」という気持ちも芽生えました。

五十嵐 原作もそうですが、あとで序盤を振り返ると「あれでもまだ一応ブレーキを踏んでたんだな」と感じてもらえると思います。ありがたいことに放送前からSNSなどで「しかのこ」が変なものとしてバズっていますが、本編が始まり、話が進むともっとおかしいことになっていくので。監督もいい意味でブレーキがぶっ壊れていることがわかるかと。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」より。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」より。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」より。

アニメ「しかのこのこのここしたんたん」より。

──SNSの話が出たので伺いたいのですが、オープニングテーマのイントロ耐久動画が放送前から500万近く再生されました。どう感じました?

五十嵐 そういう動画を出すという話を聞いたときは我々もただ「面白いことをしてくださるな」とキャッキャしていただけだったので、ここまでバズるとは。

おしお 作品が広がるスピード感がすごかったです。「(宣伝担当の)岡野さん、ヤバ」と驚きました。

岡野 宣伝チームで、3秒くらいで考えたアイデアだったんですけどね。毎回大喜利大会みたいな感じで、楽しく宣伝をやらせてもらっています。

おしお ありがたいです。私は仕事でも「楽しければいいじゃん」みたいに思っているところがあるので、岡野さんたちが楽しくやってくださるのがうれしいです。太田監督らとの打ち合わせでも「面白くなるならなんでもやっていいです」と伝えたり、アシスタントさんにも「挑戦したいことがあればどんどんやってほしい」という話はしてて。それは私が「しかのこ」の連載中にメンタルが終わっていたときに、五十嵐さんに「商業誌では本来いけないことかもしれないけど、練習の場だと思ってチャレンジしていいよ」みたいなことを言われて救われたからなんです。だから、みんなも仕事で楽しくそういったチャレンジができたらいいなと思って。

五十嵐 そんな話、しましたっけ?

おしお アニメ化が決まる前にしてくれましたよ。2巻が発売された直後くらいで、「『しかのこ』も売れないし、やっぱりギャグは駄目なんだ」と萎えていて。きっと五十嵐さんはその頃にはアニメ化の話を知っていて、どうにかして私の気分を盛り上げようとしてくださったんでしょうけど。

五十嵐 思い出せない。おしお先生は落ちてるときが多いから。

おしお 確かにそうですけど(笑)。

元ヤンではなくヤンキーだったこしたん

──ここからは原作の話を伺います。まず鹿をテーマにしたギャグという企画はどうやって生まれたのでしょうか?

おしお 鹿というか角が生えた女の子が、ドアに引っかかったりTシャツが脱げなかったりというのはネタとして面白いなと感じていて。それを日常ものとして広げられるかな、と思ってペライチの企画書に起こしたのが最初です。それと同じように4、5枚の企画書を作って、前の連載が終わったタイミングで「うちで描きませんか?」とお声がけいただいたいくつかの編集部に持ち込みました。

五十嵐 その企画書にはタイトルとキャラクター、こういうことをしたいということが描かれていて。それを読んで笑ってしまったので、すぐに「やりましょう」となりました。

おしお 5、6人の編集さんとお会いした中で、五十嵐さんとは最後にお会いしたんですが、顔合わせの場なのにネタの打ち合わせみたいにめちゃくちゃ盛り上がったんです。前に一緒に仕事させてもらった編集者さんは、基本的にあまり干渉せずに私のやりたいようにやらせてくれる方だったので、次は「バクマン。」みたいな感じで一緒に作れる編集さんとやってみたかったんです。なので、この人と一緒に作ろうと思いました。

五十嵐 僕が服部哲です(笑)。

──ちなみにほかの企画書はどんなものだったんでしょう?

おしお どんなだったかな……全部ゴリゴリのギャグだったことは覚えていますけど。

五十嵐 なんか、先生のやつありませんでしたっけ?

おしお 「爆発先生」! 異性に触れると爆発するという。

五十嵐 タイトルだけですごそうでしょ?(笑) でも「爆発先生」というタイトルはさすがに古いかなあ……と、「しかのこ」で連載化を進めることになりました。

おしお 竹書房で会ってくださった編集さんは、「爆発先生」を気に入ってくださったんですけどねえ。

──「しかのこ」を企画書から連載にするにあたってどんな点が変わりましたか?

おしお 一番変わったのはこしたんの設定です。ヤンキーではあったけど、隠しているという設定がありませんでした。もとはクラスメイトから少し怖がられていて、でもたまに捨て猫を拾うようないい奴というキャラでした。

五十嵐 でも、それだとうまくツッコミ役になれなかったんです。「しかのこ」では様子がおかしいのこたんを正すようにツッコまなきゃいけないけど、ヤンキーだと常識的なことを言い続けるのは変だし、キャラ的にも殴ったり蹴ったりするほうにいくんじゃないかと。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻より、こしたんの登場シーン。
「しかのこのこのここしたんたん」1巻より、こしたんの登場シーン。

「しかのこのこのここしたんたん」1巻より、こしたんの登場シーン。

おしお あと、のこたんに振り回されている感を出したかったんですよね。それで元ヤンという設定にし、それを知られて弱みを握られているから一緒にいなければいけないことにして。結局こしたんは世話焼きで、一緒にいるのがまんざらでもない感じになりました。