コミックナタリー PowerPush - 感傷ベクトル

音楽とマンガを同時生産する新世代ユニット 全曲全話解説&妄想キャスティングを語る

「シアロア」全曲 & 全話解説

1.ストロボライツ

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田口囁一 「ストロボライツ」はまず先に曲ができたんですよ。オープニングらしいポップでガツンとくる曲を、「初期衝動で作りました」みたいなときめき感や鮮やかさのある曲を、ってコンセプトでデモを作って、それを踏まえつつマンガを描いたんだよね。

春川三咲 うん。ただ最初から、最初は「鬱屈した優等生・東が、シアロアのファンで問題児・渡瀬に『バンドやろうぜ』って誘われる話」っていう方向性だけは決まってた気がする。

田口 「シアロア」の物語の一番最初の話だし、読む人にワクワクしてもらいたかったんですよ。で、人が最もワクワクすることは何か、と言えば、 バンドを組むことだろう、と。「バンドやろうぜ」って言われてワクワクしない人なんていないんじゃないかって(笑)。

春川 だからマンガの終盤でモロに「ドキドキすんだろ 他に何か理由いるか?」って言っちゃった(笑)。

田口 でも最初のエピソードで作業に慣れてないこともあって、作ってる最中は「難産だ、難産だ」と思ってたんですよ。

春川 なのに、あらためて振り返ってみると、これよりすんなりできたマンガと曲って数えるほどしかない。相対的に見ると安産な作品でした(笑)。

2.シルク

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田口 同人時代に作った曲ベースの話ですね。よしづきくみちさんっていうマンガ家さんの作品に曲をつけるという企画のために発表した曲の歌詞のモチーフが星だったから、天文部を舞台にしてみました。その詞は知り合いの小川ハリくん……今は赤坂アカって名前でも活動しているマンガ家さんにつけてもらったものなんだけど、すごくいい詞だったので。

春川 配信が去年の7月だったので、七夕っぽい作品を描きたいなっていうのもあって選んだ部分もありますね。でもなんでこんな話にまとめたんだっけ?

田口 完全に歌詞に引っ張られてた。「誰かの無数の願いが」っていう詞がもとになった話なんですよ。天文部の森澤さんのことが好きな小西が、森澤さんの留学前最後の部活の日に告白しようとしたけど、できなかった話、無数の願いのひとつが届かなかった話になったんです。

春川 赤坂くんの詞を読んで、どこにでも「誰かの無数の願いが」転がってるんだけど、それはどれも自分には遠くて、でも触れてみたくて、っていうイメージが膨らんで。これはコミュニケーションの歌、それもコミュニケーションをしたかったんだけど、する勇気のなかった人の歌だな、って。

3.深海と空の駅

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田口 同人時代、サクマアイコさんっていうアーティストさんに作詞していただいた曲を自分なりに解釈して。歌詞にちりばめられたキーワードを拾いつつ。これもテーマはコミュニケーション。自分より幸せに見える人が自分より世を儚なんでるかもしれない。絶望を測る尺度はないし、他人様の苦しみを理解することもできなければ、救ってあげることなんてなおさらできないんだけど。でもそうやって孤独に生きてるという点でみんな同じ、似たもの同士なので、影響だけしあいながら最終的に前を向くって自分自身で決めていかねば、というような話です。

春川 あと、意図的にオカルティックにしてみたり。

田口 もともと日本のホラー映画のエンディングみたいな……不気味で悲しい曲が作りたくて。モノレールが海の底から出てくるという歌詞をもらった時点で、実は話の方向性も固まっていたのかもしれない。物静かな千波が趣味のカメラをきっかけに、明るい学級委員の奈緒と仲良くなるんだけど、奈緒は深夜発の不思議なモノレールで……。

春川 第1話公開時に「渡瀬と東のその後を読みたい」って反応を結構もらったので、まず失恋の話「シルク」で一回裏切って、さらにこの作品でもう一回驚かしたかったっていうのもあったよね。

田口 バンド・シアロアを通した群像劇なので、ジャンルや登場人物を偏らせたくなかったんです。

4.退屈の群像

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春川 ここでいきなり、シアロアが若い子にウケてる現象を追うライター・岩崎の話に。

田口 ここで一度シアロアに誰かと会話させてみたかったんですよ。ここまでシアロア現象が盛り上がっている事実を描いてきたんだけど、それが子どもだけのムーブメントに収まっちゃうと寒く見えるから。一度、岩崎っていう大人の目線を通して現象を客観視したかった。そして岩崎が現象に巻き込まれたなら、説得力が生まれるかな、って。

春川 でもここでは岩崎の取材相手がシアロア本人だとは明かさない。明らかにそうなんだけど。

田口 そのチラ見せ感もポイントですね(笑)。

感傷ベクトル ニューアルバム「シアロア」 / 2012年8月3日発売 / SPEEDSTAR RECORDS

感傷ベクトル(かんしょうべくとる)

感傷ベクトル

ボーカル、ギター、ピアノ、作詞、作曲、作画を担当する田口囁一と、ベースと脚本を担当する春川三咲によるユニット。ネットや同人シーンを中心に活躍し、音楽とマンガの両方の分野で作品を発表している。2012年8月にネット上で発表していたメディアミックス作品「シアロア」を、アルバムとコミックで同時リリース。また2人はジャンプSQ.19(集英社)で連載されていたマンガ「僕は友達が少ない+」の作画および脚本を担当した。