コミックナタリー PowerPush - 感傷ベクトル「シアロア」

音楽とマンガを同時生産する新世代ユニット 全曲全話解説&妄想キャスティングを語る

「シアロア」ピクチャードラマ解説

今回の単行本「シアロア」の刊行、アルバム「シアロア」のリリースに合わせて、感傷ベクトルはもうひとつのメディアミックス企画を展開。それが豪華声優陣が「シアロア」の物語を演じるピクチャードラマ企画だ。

このピクチャードラマ誕生のきっかけは「田口の妄想」(春川)。マンガ執筆の打ち合わせ中、突如「ボイスドラマとかドラマCDっていいよね」と言い出し「シアロア」各話の登場人物に声を当てるなら誰がいいか、妄想キャスティングを始めたという。「で、そのキャスト表をオトナの人に渡したら企画が通っちゃったんですよね(笑)」(田口)。そして春川が脚本を、BGMを田口が制作、そのキャラクターを宮野真守、佐藤利奈らが演じるピクチャードラマが完成した。

現在、YouTubeとニコニコ動画で公開されている3つのピクチャードラマについて、田口と春川は「演技の世界のプロの方々と共演することで『シアロア』の世界観にまた新しい意味や広がりが生まれた」と口を揃える。

そこでここでは「ストロボライツ」「シルク」「ラストシーン」というピクチャードラマ3作の実際の映像をご紹介するとともに、両名に妄想キャスティングにまつわるエピソードをうかがってみた。

なお、ピクチャードラマ収録の模様は既報のとおり。あわせてチェックしてみてほしい。

1.ストロボライツ

  • 東幸久(CV:木村良平)声が似ているから、と渡瀬にシアロアのコピーバンドに誘われる仮面優等生
  • 渡瀬速水(CV:細谷佳正)ほぼ付き合いのない同級生・東を執拗にバンドに勧誘するクラスの問題児

田口 木村さんはアニメ「東のエデン」の主人公・滝沢朗を演じていたころから大好きで。東のような、物静かなんだけど、いろいろ思うところがあったり、実は驚くような行動力があったりするキャラが似合う方だなって思ってたんです。しかも、僕らがスピンオフ作品「僕は友達が少ない+」を描いた「僕は友達が少ない」(はがない)のアニメ版の羽瀬川小鷹役でもある。「はがない」の現場でお会いして、こっそり同人CDの「one」をお渡ししたりと接点もあったのでお願いさせてもらいました。あと、今回妄想キャスティングするにあたって、声優プロダクションのボイスサンプルを片っ端から聴いてみたんですけど……。

春川 もはや「妄想」じゃなくて「仕事」だよ、それ(笑)。

田口 まあね(笑)。で、その時聴いた細谷さんの声がまさに渡瀬だったんですよ。木村さんとはアニメ「坂道のアポロン」で共演しているからコンビ感もあるし、ここは細谷さんだろう、と。

春川 実際ものすごい演技を見せてくださって。

田口 妄想キャスト表を見た音響監督さんからは「オファーを断られたときのために別の候補も」って言われたんだけど、渡瀬役は細谷さん一択でした。

2.シルク

  • 小西泰樹(CV:宮野真守)森澤に恋心を抱くも、なかなか告白できずにいる天文部男子
  • 森澤佳織(CV:佐藤利奈)シアロアの曲に背中を押され海外留学を決めた女子高生

田口 僕、もともと宮野さんの大ファンなんですよ。なんというか、二枚目キャラと三枚目キャラの行き来の仕方が大好きで(笑)。で、今回も、結構男前なのにどうしても森澤さんに告白できない小西にピッタリだなって。

春川 ホント、「シルク」の小西ってずーっとモノローグでぶつぶつとヘタレたことを言い続けてる。脚本を書いた僕の言うことじゃないのかもしれないんですけど(笑)。

田口 そのモノローグ感って意識して書いたんだよね?

春川 うん。いわゆるドラマCDとは違った雰囲気にしたかったから。僕らの作風から考えて一般的なドラマCDみたいなテンション上げめの演技よりも、もっと抑えめの、ちょっとシリアスな演技の方が似合うだろうなって。だから「シルク」に限らず、基本的に誰かのモノローグを中心に話を展開させるようにしたんです。そうすると視点が1人に固定されるから、マンガとはまた違うテイストになるとも思ったし。

田口 そして小西が1人シリアスにヘタレてる横で森澤さんはメチャメチャカワイイという(笑)。佐藤さんの演じる森澤さんは感傷ベクトルスタッフの中でも「いい女」だと大評判なんですよ(笑)。

7.ラストシーン(cut:B)

  • 小西泰樹(CV:宮野真守)森澤留学後も開店休業状態の天文部に在籍し、篠原と出会う
  • 篠原由紀(CV:高橋美佳子)憧れの先輩である小西を追って、天文部に入部する
  • 岩崎千波(CV:生田善子)「深海と空の駅」のヒロイン。同作では由紀の恋の相談相手

田口 このキャスティングはかなり面白くて。まず宮野さんの「シルク」との演じ分け。森澤さんの前ではヘタれてまくってたくせに、後輩の由紀ちゃんには先輩風を吹かせまくり(笑)。

春川 この小西、ちょっとムカつきますからね(笑)。

田口 あの調子に乗ってる感じが最高! そして由紀ちゃん役の高橋さんはアニメ版「ハチクロ」の山田さん役(笑)。

春川 山田さんのリベンジの意味も込めて由紀ちゃんを生み出した僕的には「よくやった、田口!」と。

田口 当然「ハチクロ」で、恋する女の子の演技が上手なことを知ってたからキャスティングしたんだけど、確かにこの人への配慮という側面もありました(笑)。で、生田さん演じる千波はもともと「深海と空の駅」のヒロインで「ラストシーン」には少ししか出てこないんですけど、生田さんのサンプルボイスを聴いたら、あまりにも千波のイメージどおりだったんで、春川にセリフを増やしてもらった、と。

春川 それでも宮野さん、高橋さんよりはるかにセリフが少ないのに「ラストシーン」と「深海と空の駅」の原作を読み込んできてくださって。すごくありがたかったですね。

田口 生田さんってオレらと同い年なんだって。

春川 それで、あの演技!? すごいね。

感傷ベクトル ニューアルバム「シアロア」 / 2012年8月3日発売 / SPEEDSTAR RECORDS

感傷ベクトル(かんしょうべくとる)

感傷ベクトル

ボーカル、ギター、ピアノ、作詞、作曲、作画を担当する田口囁一と、ベースと脚本を担当する春川三咲によるユニット。ネットや同人シーンを中心に活躍し、音楽とマンガの両方の分野で作品を発表している。2012年8月にネット上で発表していたメディアミックス作品「シアロア」を、アルバムとコミックで同時リリース。また2人はジャンプSQ.19(集英社)で連載されていたマンガ「僕は友達が少ない+」の作画および脚本を担当した。