コミックナタリー Power Push - さいとうちほ×幾原邦彦対談
さいとうちほの絵が醸し出す“官能”と“陶酔感”
ウテナが男装の女の子になったのは、時代的なもの(幾原)
──さいとう先生にかぎらず、「ウテナ」で百合に目覚めた人というのは少なくないと思います。幾原監督は、百合がお好きなんですか?
幾原 うーん、そのときはたまたまそういう題材かなと思っただけです。作家さんにインスパイアされて、そのビジュアルをお借りして起きた化学反応の結果としてそうなるというだけ。どうしてもそれがやりたいというわけではないですよ。
さいとう でも、結果的にそうなっているでしょ。現実化しやすいってことは、監督自身が嗜好しているのでは?
幾原 なんかこう、恋愛を描くための恋愛ドラマというのはあまりやりたい気がしなくて、あくまで恋愛というのはなんらかのメタファーになっているのが面白いのかなと考えたときに、そうなるんですよね。男女の話にすると、感覚として、2人が両思いになったら「めでたしめでたし」で終わってしまう気がして、自分はそれだけではやれないなあと思うから。
──「ウテナ」が女性同士の関係性を中心に置いた作品になったのは、メタファーを取り入れたかったからだと。
幾原 そうですね。そのうえで、ウテナが男装の女の子になったのは、時代的なものもあったなと思うんですよね。主人公っていうのは読者が感情移入するための装置なので、少女マンガでは女の子をあまり華やかにしすぎず、男性のほうを華やかにする、という流れがあったんですけど、一方で「リボンの騎士」や「ベルサイユのばら」のような、主人公が着飾っている一種のコスチュームものも、根強い人気を持っていた。僕はコスチュームを着ることによって主人公にある種の「見られている」意識が生まれているのが面白いなと思っていたんだけど、「リボンの騎士」も「ベルサイユのばら」も、けっこう重いじゃないですか。男性のコスチュームを着ることで男性のステータスを手に入れるということなんだけど、そこでは「家」をどうこうするとか「国」をどうこうするとか、そういう話が展開するわけで。
さいとう まさにヨーロッパの貴族的な考え方ですよね。
幾原 それだって、女の幸せは結婚だと思われていた時代ではロマンだったんだけど、僕は90年代にそれをやるのは重いし、楽しくないなと感じた。もっと軽さを表現したいと考えたり「美少女戦士セーラームーン」のアニメをやったりした結果、「ウテナ」に繋がったわけですよね。だって、ウテナは、あくまでも最初に好きになった男性の真似をして男装をしているだけだから。そういう、軽い、てらいのなさを出したかったんです。
違う分野の仕事がきたら躊躇せずに引き受ける(さいとう)
──そういえば、「伯爵と果敢な乙女」のヒロイン・ミネルヴァも男装をして城に忍び込む勇敢さを持つ女性ですね。さて、今回はさいとう先生の仕事観についてもお伺いできればと思います。いろいろなお仕事をされる中で、一番大切にしていることはなんでしょうか?
さいとう うーん、そうですねえ、やっぱり締切を守ることですね。
──大切ですね!(笑)
さいとう あとは、読んだ人をびっくりさせたいとか喜ばせたいというのがこの仕事をしている一番強い動機なので、そこを忘れないということですかね。なので、編集者さんの意見は「最初の読者」の感想として大切にするし、描いている自分自身を飽きさせないのも大切。私もかれこれ34年くらいマンガを描いているんですけど、長く描いていると、自分の作風に飽きてくることがあるんですね。「こういうの前もやったなあ」っていう。だけどそのまま飽きちゃいけなくて、そこで進化をするためにどうしようか考える。
──具体的にはどういうことをするんですか?
さいとう 違う分野の仕事がきたら躊躇せずに引き受けるのは大事ですね。そうやって挑戦してみると、それまでにずっとやっていて飽き飽きしていたことも、まったく新しく見えてきて、「やっぱり私には必要なことだったかも」と思えるんですよ。
──確かに、ここ2年はBL雑誌のBE・BOY GOLD(リブレ)で連載をされていますね。
幾原 えっ、先生、BL描いてるの?
さいとう そうなの。長いストーリーマンガではなくて、カラーピンナップとその絵に至るまでのシチュエーションを描いた1ページマンガですけどね。もうね、一緒に掲載されている皆さん、本当に絵が上手くてエロスもすごいので、「もう私参りました勘弁してください」って感じで、毎回つらくてしょうがないんですよー!
一同 (笑)
さいとう そもそもBLの萌えどころをそこまで細かくわかっていないから、編集さんにいつも教えてもらってます。「こういう場合は受けはこっちで攻めはこっちのほうがいいですよ」とか。
幾原 すごい、ついにそこまでいったんですね。二次創作とかやったらどうですか?
さいとう 描けるようになったらいいなとは思いますけど、そんなに妄想力がないんですよねえ。
今までに築いてきたものをどんどん崩していきたい(さいとう)
──これからさらに挑戦されたいジャンルはあるんでしょうか?
さいとう そうですね……今、「とりかえ・ばや」を連載していて、昔の日本の絵などをよく見るようになったからかもしれませんが、もっとシンプルな線で絵を描いてみたいなあとは思います。自分の絵の固まったテイストを崩してみたいなあと。最近は二枚目のイケメンよりも、「とりかえ・ばや」の主人公たちのお父さんのような、ちょっと三枚目的な顔を描くのが楽しいんですよ。まあそもそも、現実ではそんなにイケメンを好きにならないんですけどね。
幾原 先生の好きな俳優って、ジョン・マルコヴィッチとかだっけ。
さいとう そうそう、「マルコヴィッチの穴」のマルコヴィッチ。
──さいとうさんのタッチで描かれたマルコヴィッチも見てみたいですね。
さいとう そうですねえ。今までに築いてきたものをどんどん崩していきたいとは思いますが、もちろん今までの作品を忘れないでいてくださる方にも感謝しています。
幾原 僕も今後の先生の作品を、楽しみにしています。
──本日はありがとうございました!
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さいとうちほ
1982年にコロネット(小学館)でデビュー。テレビアニメ「少女革命ウテナ」のキャラクターデザインを担当し、同作のマンガ版も手がける。現在「とりかえ・ばや」「VSルパン」など連載中。別冊ハーモニィRomance(宙出版)の表紙イラストや、海外ロマンス作品のコミカライズも務める。
幾原邦彦(イクハラクニヒコ)
12月21日生まれ。徳島県小松島市出身。テレビアニメ「少女革命ウテナ」「輪るピングドラム」「ユリ熊嵐」などの監督を務める。