「アクダマドライブ」のスタッフを聞いて「引き受けるしかない」って
──続いては大柿さんが連載準備を進めている「アクダマドライブ」のお話を聞かせてください。コミカライズの依頼があったときの心境は?
当時は自分でオリジナルのマンガを描きたい欲が強かったので、実はお受けしようか迷ったんです。でも、企画内容を見せていただいたところ、僕が前にコミカライズを担当した「THE UNLIMITED 兵部京介」のアニメに参加したスタッフさんが多数関わっていることを知って。
──主要なところでは監督の田口智久さんや、キャラクターデザインのCindy H. Yamauchiさんですね。
おふたりとはTwitter上で関係が続いていたので、名前を見た時はビックリしましたね。しかもストーリー原案は「ダンガンロンパ」の小高和剛さん。ゲームクリエイターがアニメの原案をやる、というチャレンジングな企画に面白いと思いましたし、サイバーパンク風の近未来で悪人たちが活躍するという内容も、実は僕が「THE UNLIMITED 兵部京介」が終わったあとに描きたいと思っていた作品とよく似ていて。
──奇妙な縁を感じますね。
まあ、僕はいろいろあって何故か「シノビノ」という時代劇をやることになったのですが(笑)。でも、ずっとそういう物語を描いてみたい思いは抱いていて。そんな企画を小高さんと「兵部京介」のスタッフの方たちがやると聞いたら、絶対に面白くなるに違いないし、もう引き受けるしかないと思ったんです。
──田口監督を含めたアニメスタッフの方々が、大柿さんにお願いしたくてお話を持ってきたわけではないんですよね。
僕は100万円欲しさにRentaコミックスさんに行っただけです(笑)。アニメサイドからRentaコミックスさんにお話があって、じゃあ大柿ロクロウというコミカライズ経験者に任せてみては、という流れになったんだと思います。本当に偶然が重なったお仕事なので、もし断っていたら後悔したと思います。……ただ、「面白そう」と思ったのと同時に、「なんて大変そうだろう」と尻込みはしました(笑)。
──それはどうしてですか?
「アクダマドライブ」は7人の「アクダマ」と呼ばれる犯罪者たちの群像劇なので、同時に動かさなくちゃいけないキャラクターが多いんですよ。マンガを連載するとき、主要キャラクターがあんまり多いと収拾がつかなくなるので、最初は少人数でスタートし、少しずつ増やしながら回していくのが一般的なセオリーなんです。だから、自分では7人の群像劇という企画は絶対に立ち上げない。1話目でいきなり7人が出てくるネームを描いたら、きっと編集さんにボツにされると思います(笑)。
──なるほど、ゴチャゴチャしすぎると。
そうなんです。誰に感情移入していいかわからないし、ドラマのフォーカスを当てるキャラクターを7人に分散させちゃうと、読者もどう読んでいいのか迷っちゃいますから。でも、「アクダマドライブ」はそこが大きな魅力でもあって。これは大変な仕事だと気が引き締まりました。
似顔絵みたいに原作に絵柄を寄せなくてもいいんじゃないか
──アニメでは黒沢ともよさんが演じる「一般人」が最初にクレジットされていますが、主人公というわけではないんですか?
確かに「一般人」は7人の中では異質の存在で、1人だけアクダマ(犯罪者)ではない設定です。基本的には彼女が狂言回しになってストーリーが進行します。でも、僕が今のところ知っている範囲では、彼女が主人公というよりは、7人それぞれが主人公になりえる描き方になっていると感じましたね。
──大柿さんがご覧になっているのは、台本や絵コンテなどの資料ですか?
はい、絵コンテとシナリオ、あとはティザームービーなどを拝見させていただきました。
──先ほど話にも挙がりましたが、「アクダマドライブ」は、ゲームクリエイターの小高さんがアニメの原案を務めるというのがユニークな試みですね。大柿さんの中で小高さんのイメージといえば?
まっさきに浮かぶのはやっぱり「ダンガンロンパ」ですよね。エグみのあるぶっ飛んだストーリーを、ポップなエンターテインメントに昇華している。しかもキャラクターがとにかく際立っていて、キャラたちの会話だけでも物語が成立しています。キャラクターを魅せるのがとてもうまい作家さんだな、という印象を持っていました。だから「アクダマドライブ」の企画を拝見したときも、小高さんだったらこの7人のキャラクターの群像劇を展開できる、と。そこが引き受けるポイントでもありました。
──面白くなる確信を得たんですね。
それにキャラクター原案は小松崎類さん。小高さんとのゴールデンコンビは「ダンガンロンパ」などこれまでの作品を見れば言うまでもないですし、実際に拝見させていただいたティザーイラストも、ものすごく力強いビジュアルなんですよ。
──大柿さんはこれまでに「兵部京介」や「映画刀剣乱舞」のコミカライズを手掛けていらっしゃいますが、小松崎さんのような特徴的なイラストをマンガ化するのは難しくないですか?
もちろん小松崎さんのキャラクターデザインを意識しながら、その魅力を僕なりに表現できればと思っていますが、完全に再現しようとは思っていなくて。僕が描くことで、コミカライズならではの魅力も出ればいいなと考えています。
──コミカライズならでは、というと?
これはコミカライズをやるときに気を付けていることなんですけど、オリジナルのイラストに似顔絵みたいに寄せていくと、マンガの中でのバランスが取りにくくなるんです。寄せることに捉われすぎると感情表現がおろそかになっちゃう。だから、基本的には自分の表現がしやすいデザインに落とし込むのが結果的にいいんじゃないかなって。
──なるほど、すごく腑に落ちました。
「THE UNLIMITED 兵部京介」も椎名高志先生の「絶対可憐チルドレン」のスピンオフですが、アニメでは全然違うキャラクターデザインになっている。さらにそれをコミカライズするという流れだったので、椎名先生に寄せるべきかアニメに寄せるべきか、どうしたらいいんだろう?って悩んだんです。それに、「映画 刀剣乱舞」も刀剣男士ごとにイラストレーターさんがいらっしゃるし、映画は役者さんが演じますから、どっちに寄せてもおかしくなる。だったら自分の絵柄でやるしかないんじゃないか、と。コミカライズはコミカライズとして、新たに統一したデザインを描いたほうがいいというのが、僕の中での結論ですね。
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コミカライズにはアニメで描き切れない要素も