「オーバーロードIII」「幼女戦記」特集|丸山くがね×カルロ・ゼン対談 / 「オーバーロード」丸山くがね 幼女が主人公っておかしくないですか? / 「幼女戦記」カルロ・ゼン 骸骨が主人公っておかしくないですか? / 異世界転生のバトン繋ぐ、鬼才対談

TVアニメ「オーバーロードIII」が、来る10月2日放送の第13話にて最終話を迎え、「幼女戦記」は完全新作劇場版の制作が発表されている。この2作品はともに原作小説がKADOKAWAから刊行されており、異世界転生ジャンルのトップを走る人気タイトルだ。

そこでコミックナタリーでは「オーバーロード」原作者・丸山くがね、「幼女戦記」原作者・カルロ・ゼンの対談をセッティング。リレーにて次の走者が前の走者からバトンをスムーズに受け取るときのように、お互いの存在を確かめ合いながら走り続ける2人の関係を聞いた。この対談が、2作品の間を繋ぐバトンとなれば幸いだ。

取材・文 / はるのおと

Web連載時からお互いを意識

──おふたりは長い付き合いのようですが、いつ頃から互いの存在を知っていましたか?

カルロ・ゼン 僕が最初に意識したのは丸山先生ではなくてむちむちぷりりんさん(丸山くがねの旧ペンネーム)で、それ以上に「オーバーロード」という作品を意識していました。Arcadia(※2人が作品を発表していた小説投稿サイト)は作者より作品が注目されやすい形式だったので。

「オーバーロード」原作小説1巻

丸山くがね 「幼女戦記」は当然Arcadiaでやっていた頃から意識していたけど、完結させた、ということが強く印象に残っていて。Web小説の投稿なんて趣味でやっていることだから、作品を終わらせる義務もないし責任もない。だから尻切れトンボで消えちゃう人も多い中で、最後まで書くというのは強い意志があってこそだと思いました。

カルロ やっぱり難しいですよね。趣味だからと好きなことを書いてもそれをお客さんが喜んでくれるかという問題はあるし。僕なんかは「俺の作ったものが食えないなら出ていけ」という頑固なラーメン屋みたいなもので、無理やり読者の口の中にラーメンを突っ込んで感想が聞ければいいってタイプなんですが。

丸山 それぐらいの気持ちでいないと書いてられない場所だったんですよ。

カルロ 今流行りの「小説家になろう」って好きなものを応援するというスタンスじゃないですか。でもArcadiaは作品を好きな人と嫌いな人の罵声が飛び交ってボコボコに殴り合ってる感じでしたよね。

丸山 Arcadiaは地獄でしたね。地獄の一丁目(笑)。

──初めて直接お会いしたのは?

カルロ 「幼女戦記」が出版されたあとだから……2013年の年末ですね。丸山先生が誘ってくれて鍋をつついた記憶があります。

丸山 「幼女戦記」が出たときは覚えてる。「分厚いなあ」「こういう表紙になったんだあ」とか思って。でも初めて会って以降も時折顔を合わせているから、特に何をしたとかあまり覚えてないかな。

カルロ 割と頻繁に何人かで集まって飯を食べていますよね。

──それは作家仲間で、ということですか?

「幼女戦記」原作小説1巻

カルロ そうです。僕はArcadiaブームの中では遅れて出てきた人間で、あまり同期と言えるような方がいません。小説のレーベルが同じエンターブレイン(現KADOKAWA)で担当編集も同じだったから、割と気安く丸山先生にはお会いさせてもらっていますけど。いつだったか、叙々苑に行きましたよね?

丸山 あったあった、ソラマチの叙々苑。叙々苑に行ったことがなかったのでスカイツリー店で下を見ながら食べてみようって俺が言いました(笑)。

カルロ 僕、そこでパワハラされましたけどね(笑)。

丸山 え? 嘘? 覚えてないから大したことじゃないよ(笑)。

カルロ 丸山先生とアニメ化が控えていた僕とあと2人の先生の4人で。すでにアニメを成功させていた3人に「カルロくん、わかってるよね? アニメ化が失敗したらみんなが困るんだよ」と肩に手を置かれて。

丸山 本当に? 「アニメ化に関わるのは大変だよ」「これからが地獄だね」くらいの話じゃなかったっけ?

カルロ あのとき、めちゃくちゃキツかったですよ。しかもみんな好き勝手に言っていて、ある先生は「現場に行かないほうがいい」とかおっしゃいますし、逆にもうひとりの先生は「ちゃんと行け」とかおっしゃいますし。

丸山 あの先生は現場に行くね。

カルロ それで丸山先生は「人それぞれ好きにしたらいいよ、はっはっは」って……結局どれを参考にすればいいんだよ!って(笑)。

丸山 いいじゃないの、今の成功につながってるんだから。

カルロ 先輩として、せめて励ますとかしてほしかったですよ。

丸山 でも誰かと会ったときに励ましたりしないでしょ?

カルロ しますよ!(笑)

骸骨が主人公っておかしくないですか?(カルロ)

──おふたりの仲のよさが伝わりました。話を戻しまして「オーバーロード」は2010年、「幼女戦記」は2011年と、2人とも近い時期に異世界転生から始まる重めのファンタジー作品を書き始めています。これは当時のArcadiaにそういう風潮があったためでしょうか?

丸山 Arcadiaでオリジナルはあまり読んでいなかったから、記憶がないですね。二次創作のほうが数が多かったから。

カルロ 二次創作だと異世界転生というか、作品世界に新たな主人公を入れるために転生させるという潮流はあったかと思いますね。

──そんな中、おふたりがオリジナルで書かれた理由は?

丸山 自分の理想とする作品がなかったから書いた、ということです。

カルロ 僕も好きなものを書いた、です(笑)。

丸山 自分で読みたいから書いただけだよね。その点、賞を獲ってデビューされているラノベ作家さんは題材をすごく研究してると思う。話を聞いていて、なんでそんなに考えているんだろうって思うもん。あれが本当に正しい作家なんですよね、まさに職業作家。

カルロ 向こうがプロ野球選手だったら、僕たちはアマチュア選手みたいなもの。河原で好きにボールを投げていて、おっちゃんから「来い」と言われて行ってみたら「これ試合だ」って気付いた感じですよ。

「オーバーロードIII」第8話より。ナザリック地下大墳墓に侵入してきた人間たちを相手にするアインズ。こうして人間と並ぶと、アンデッドであるアインズが主役という異常さが際立つ。
「オーバーロードIII」第8話より。侵入者を相手にするアインズをアップで映したシーン。「骸骨が主人公っておかしくないですか?」というカルロの言葉も頷ける。

──お互いの作品の印象はいかがですか?

カルロ 僕は「オーバーロード」を読んだときに「王道を狙っていないんだ」と驚いたのを覚えています。骸骨が主人公っておかしくないですか? 丸山先生は人ならざるものが好きなんですよね。

丸山 幼女が主人公っておかしくないですか?

カルロ 幼女が主人公は王道ですよ。

丸山 言われてみるとそうか、悔しいな。

カルロ 異世界で幼女が戦うってよくあるじゃないですか。それはともかく、「オーバーロード」は小説になったときにWeb版には存在しなかったアルベドが追加されたのが一番びっくりしました。あれは物語の潤滑油的な存在が欲しかったからですか?

「オーバーロード」において、アインズに従う配下たちの頂点として登場するアルベド。Web連載版では存在しなかったキャラクターだ。

丸山 そんな感じ。元のままだと主人公が動かない。しょうがないな……みたいな流れで入れたんです。

──丸山先生の「幼女戦記」の印象は?

丸山 メアリー・スーなんて名前のキャラクターを出すか?っていう(笑)。

──「メアリー・スー」は、二次創作の小説などに登場するオリジナルキャラクターを指すスラングですよね。作者の理想から生まれた、作品世界にそぐわない人物というような意味で使われることが多いようですが……。

カルロ 僕はメタ的なネタが好きなので、結構意図的にやっていますよ。

「幼女戦記」において、ターニャの敵役であるアンソン・スーの娘として登場するメアリー・スー。

丸山 普通、Webで書いていると、話が進むにつれて最初に比べて話が長くなる。登場キャラクターが増えてってとかの理由も一因ですけど、でも「幼女戦記」はそういうことをせず、サクサクって物語を進めて終わらせたよね。

カルロ ちゃんと終わらせなきゃいけないなと思ったし、長引かせてもしょうがないんですよ。後ろのほうのゴタゴタなんて細かく書こうと思ったら延々と書ける。例えば大日本帝国の1945年8月なんて、たった15日の物語で何百冊も本が存在するじゃないですか。「その日、陸軍将校は何をした」「その日、誰々は何をした」とかたくさんあるけど、それは物語じゃない。資料としての価値はあるし、個人のドラマにはできるけど。

──おふたりとも、互いの作品をかなり読まれているんですね。では、それぞれお互いの作品のスピンオフを書くならどんな物語を書いてみたいですか?

丸山 僕はカルロさんみたいに頭のいい人間じゃないので「幼女戦記」は書けません(笑)。

カルロ 僕が丸山先生のスピンオフを書くならアインズたちに蹂躙される側の悲惨なやつを書きますね。

丸山 そうなの?

カルロ 一生懸命にがんばって集めた軍隊を一瞬で蹂躙されました、みたいな話になります。ただ「オーバーロード」のスピンオフは、すでに二次創作でたくさん読めますよね。

丸山 二次創作が増えるのはうれしいね。でも「幼女戦記」は頭が必要だから、二次創作はあまり増えない傾向にあるんじゃないかな。ミリタリーとか歴史とかその辺の知識がないと難しい。

カルロ 割と脳みそ空っぽにして書いているんですけど、確かに戦記ものは若干ハードル高いかもしれません。でも最近の「オーバーロード」もだんだんとそっちに寄っていませんか? 政治の話とか。

丸山 あれ、脳みそ空っぽな人間が書いてる、ザルだよ?

──確かに戦争をモチーフにしている「幼女戦記」は、表現に対してセンシティブになる必要もあるし、知識は求められそうですね。

カルロ 僕が書いているのは基本的に綱渡りで、ギリギリの危ないとこに一歩を踏み込むくらいなので。

──踏み込むんですね(笑)。

カルロ 踏み込めないとなったら「人が死ぬのはよくない。みんなで仲よくお茶を飲みました。終わり」くらいしか書けませんよ。「暴力はよくないのでお茶にしよう。でもお茶は環境破壊だから水にしよう。みんなで水を飲みました。幸せ」。誰が読むんですか、そんなの(笑)。

TVアニメ「オーバーロードIII」

Blu-ray / DVDを全3巻にて発売。Vol.1は、2018年10月24日にリリース。キャラクター原案・so-binが描く美麗なイラストをあしらった全巻収納BOXと三方背ケースに、ドラマCD、サウンドトラックCD、作中の設定を網羅した設定資料集などを各巻に封入した豪華初回特典仕様になっている。毎回特典にはスタッフやキャストたちのオーディオコメンタリー、ちびキャラアニメ「ぷれぷれぷれあです3」などを収録。各巻に原作者・丸山くがねの新規書き下ろし小説が丸々1冊もらえる全巻購入特典応募券が封入される。

Blu-ray / DVD「オーバーロードIII①」
2018年10月24日発売 / KADOKAWA
「オーバーロードIII」

Blu-ray
14040円 / ZMXZ-12441

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DVD
11880円 / ZMBZ-12451

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「幼女戦記」劇場版

「幼女戦記」劇場版新作アニメが制作決定!
親愛なる同志諸君、再び戦争の時間だ──。

Blu-ray / DVD「幼女戦記①」
発売中 / KADOKAWA
「幼女戦記」

Blu-ray
14040円 / ZMXZ-10981

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DVD
11880円 / ZMBZ-10991

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丸山くがね(マルヤマクガネ)
丸山くがね
2010年に「オーバーロード」を小説投稿サイトに投稿。書籍1巻が2012年にエンターブレイン(現KADOKAWA)より刊行。同作は2015年7月にアニメ第1期の放送が始まり、現在第3期が放送中。
カルロ・ゼン
カルロ・ゼン
2011年に「幼女戦記」を小説投稿サイトに投稿。 書籍第1巻が2013年にエンターブレイン(現KADOKAWA)より刊行。同作のアニメが2016年1月から3月にかけてテレビ放送され、2019年には完全新作の劇場版アニメが公開予定。

©丸山くがね・KADOKAWA刊/オーバーロード3製作委員会
©カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/劇場版幼女戦記製作委員会