「ノー・ガンズ・ライフ」小島秀夫インタビュー|「ノー・ガンズ・ライフ」に込められた“ハードボイルドの哲学”を紐解く

絶滅状態にあるハードボイルド作品の窓口に

──マンガをアニメーション化する際には、声や音が入るという大きな違いが出てきますが、「ノー・ガンズ・ライフ」において、その辺りで期待するところはありますか。

十三が暮らす街の風景。

佇まいが大事な作品だと思うので、声の演技以前にキャスティングに注目したいですね。作品を作るうえでキャスティングそのものは大事な要素ですし、僕の作品でも重視する部分です。

──声以外の部分で言うと、今回音楽は川井憲次さんが担当されるそうです。

海外でも通用する大御所ですね。この作品、ヨーロッパでも人気が出そうな気がしますよ。バンド・デシネ文化がありますから、フランスなんかではファンが付きそうです。あと僕としてはCGの作画がどのぐらい入るかというのも気になります。

──要所要所にも入るはずですが、本作ではもともとはゲーム開発用に作られたアンリアルエンジンで制作した背景を使用するそうです。アニメーションではおそらく初めての試みと聞いています。

なるほど。ゲームで活用されていたものが、アニメの現場に入りこんでいるんですね。アンリアルエンジンはリアルタイムで完成に近い映像を描画できるので、制作時間も短縮できると思いますよ。ひと昔前はアンリアルエンジンを、映像を生成するレンダリング前の実験用に使っていたところが多かったです。

身体機能拡張技術を開発したベリューレン社は、戦争特需によって超巨大企業へと成長した。

──リアルタイムで描画できる特性を活かして、最終的に別エンジンで動かすにしても、仮映像として使っていたということですね。

ええ。例えば、ビルが崩壊するシミュレーションするのに使って、OKだったら本チャンでレンダリングするわけです。そういうことをしないと、ひとつ変えるにも半年くらいかかるんでね。確かに、アニメでも背景はCGでやっていい時代だと思います。

──キャラクターについてはいかがでしょうか。やはり、CGでの制作のほうがいいと考えられますか。

いや、確かに人間の動きをキャプチャして、トゥーンシェーダー(注:3DCGの技術を使いながら、アニメ絵に近い表現をする手法)を使ってアニメらしく見せるような作品も最近は増えていますけど、どうでしょうね……。選択肢としてはあり得るかもしれませんが、僕はゲームで散々見ているから(笑)。それに対して、「アニメらしい」演出ってあると思うんです。それこそ、川尻さんのようにスタイリッシュであることを全面に押し出した演出ですよね。ああいうものを、また見てみたいです。

──実はこの「ノー・ガンズ・ライフ」では、何本かの絵コンテを川尻さんが担当されているんです。

小島秀夫

あ! そうなんですか! それはがぜん楽しみになりましたね(笑)。「妖獣都市」の空港のシーンのようなものが観たいですよ。「おおっ!」って思えるような。あそこは、むっちゃカッコいいですよね。画の奥と手前で、動いているもののスピードが違っていて、その見せ方が絶妙なんですよ。目がハートになってしまいます。繰り返しになりますけど、やっぱりこの作品においては、アニメーションならではの表現で十三をじっくりと魅力的に描いてほしいと思いますね。そうすれば、自然とSFハードボイルドの魅力が味わえるものになるんじゃないかな。ぜひ絶滅状態にあるハードボイルド作品の窓口として楽しんでもらいたいなと思います。