10月より放送されるTVアニメ「ノー・ガンズ・ライフ」は、カラスマタスクがウルトラジャンプ(集英社)にて連載中の同名マンガを原作とするSFハードボイルド。身体の一部、もしくは全部を機械化された拡張者(エクステンド)が存在する世界で、拡張者と生身の人間のいざこざを解決する「処理屋」を生業とする乾十三と、彼が保護することになった少年・鉄朗を軸に物語が展開される。
主人公の頭部が銃という設定や、SFハードボイルドとしての完成度の高さで話題の「ノー・ガンズ・ライフ」。ゲーム「メタルギア」シリーズの監督として世界的に有名な小島秀夫も本作のファンであり、カラスマ自身も小島から多大な影響を受けているという。そこでコミックナタリーは「ノー・ガンズ・ライフ」の放送開始に合わせた特集の第1弾として、小島監督にインタビューを実施。ハードボイルドものの要素が詰まっているという「ノー・ガンズ・ライフ」の見どころや、「最後の昭和的ヒーロー」と称賛する主人公・十三の魅力などについてあますところなく語ってもらった。なお特集の後半にはインタビューの英訳も掲載している。
取材・文 / 武井風太 写真 / 石橋雅人
十三は最後の昭和的ヒーロー
──原作者のカラスマタスクさんは小島監督作品のファンとのことなのですが、小島監督も原作「ノー・ガンズ・ライフ」をお読みになっていると伺っています。
そうなんですけど……。これはよくアニメ化の企画が通りましたよね。
──ええっ?(笑)
「頭が銃になっている人のハードボイルドもの」っていう部分だけを偉い人が企画書で見たら、「アホか」って言いますよ(笑)。
──確かに「頭が銃」とだけ言われると、「視聴者にキャラの表情も見せづらいし、感情移入もさせづらいのでは?」と考えてしまうかもしれませんね。
きっと目利きがいらっしゃったんでしょうね。僕も今日は「こういういい作品がありますよ」って、お話していければと思います。
──ありがとうございます。それでは、小島さんが「ノー・ガンズ・ライフ」を読まれたきっかけから教えていただけますか?
僕は本屋に行くのが日課なんですよ。だから、マンガコーナーも見るのですが、「ノー・ガンズ・ライフ」を見つけたときはもう一目惚れで。確か2巻目くらいだったと思いますけど、つい立ち止まってしまったんです。
──まず、ビジュアルに惚れてしまったんですね。
ええ。最初に目を引いたのは、表紙に描かれた主人公でした。顔が 「NO MORE 映画泥棒」のカメラ男みたいじゃないですか。びっくりしましたよ(笑)。絵の雰囲気的にも、キャラが突飛なだけの単なる子供だましの作品じゃないだろうと思って一か八かで買ったんです。それでページを開いてみたらちょっと腰を抜かしました。
──それぐらい良かったんですね。
とにかく絵がメチャクチャうまい。僕は、世代もあって大友(克洋)さん、士郎(正宗)さん、板橋(しゅうほう)さんなんかが好きなんですけど、その系譜を継いでいるなと思います。このぐらいの画力でレイアウトもうまい人って、なかなかいないんですよ。あと、士郎さんや板橋さんは関西出身ですけど、そういう部分の影響も感じます。
──カラスマさんは京都出身ですが、関西らしさというとどういうところですか?
ハードボイルドでカッコいいのに、あえて「落とす」ところですね。例えば大きな汗が記号的に出てくるような。そういうことをするとハードボイルドではなくなるんですけど、ギリギリのところで成立させている。十三がきれいなお姉ちゃんに触れられると、顔がデフォルメ調になるのは、士郎さんもやっていますよね。そういうところです。いい効果が出ていると思いますよ。
──内容面ではいかがでしたか?
それもとても好みでした。ハードボイルドマンガって、今は少ないじゃないですか。そんな中で、「ノー・ガンズ・ライフ」は、主人公を含めてキャラクターに信念があって、そこを通して世界観を築いていくという作品なんですよね。
──それぞれに揺るがない信念があるという部分では、「メタルギア」シリーズのスネークを少し思い浮かべました。
確かに近いところがありますね。でも最近そういう主人公って珍しいなとも思っていて、十三には「最後の昭和的ヒーロー」というイメージを抱きました。カラスマさんは、先代から受け継がれてきたハードボイルドという世界のバトンを、今の時代に一身に担っている人と言ってもいいんじゃないかな。僕はハードボイルドばかり読んでいたので、とても馴染むんですよね。
──特にアニメーションにおいて、ハードボイルドはあまり見なくなった気がします。
「(新世紀)エヴァンゲリオン」以降は、周囲に流されてしまう主人公が多くなった印象はありますよね。でも、僕の世代にとっての主人公はそれとはちょっと違うんです。キャラクターたちがどういう信念をもってどのような行動をするかを作品から読み取って、そこから得たものが読者である自分の生活にもフィードバックされていく。そういう体験をさせてくれるヒーローが多かったんです。
「ノー・ガンズ・ライフ」が取り入れた70年代80年代のドラマ作りの手法
──ちなみに、小島監督の作品である「スナッチャー」や「ポリスノーツ」も、ハードボイルドの味わいがある作品だったと思いますが、当時はハードボイルド的な要素を意識的に入れて作品を作っていたんですか?
あれは、結果的にそうなっただけなんです。というのも、取材をする時間をもらえなくて、図書館へ行くだけで怒られた。当時はまだファミコンの時代でしたから、ゲームで時間をかけてしっかりしたお話を作るということ自体に理解がなかったんです。だから、自分が持っている今まで吸収したもので勝負するしかなかった。逆に言うと、それだけハードボイルド的な世界が、自分の身に染み付いていたということですよね。
──だからこそ、ハードボイルドな要素を持ち合わせた十三は、小島監督にとって馴染み深いヒーロー像だったんですね。
ええ。一方で僕は探偵ものも好きだったんですよね。「ポリスノーツ」なんかはそれの走りですけど、てっきり「ノー・ガンズ・ライフ」は十三のもとにいろいろな事件が舞い込んできてそれを解決するような、1話完結ものになっていくと想像していたんです。でも、そうではなかった。これは意外でした。
──「ノー・ガンズ・ライフ」ではべリューレン社という巨大な組織と十三の対峙を大きな軸として物語が進んでいきますね。
十三のように「黙して語らず」という姿勢を取るキャラクターを主人公に据えると、大きな軸を据えてひと繋ぎの物語を描くのが難しい場合があるんですよ。自分の内面を吐露することもないし、何を考えてそういうふうに動いているのかっていうのもわかりづらかったりするので。1話完結であれば、舞い込んできた事件を主軸に物語が展開できるので、主人公が何かを吐露するという部分をそこまで見せる必要がなかったりもするんですけど。ただ「ノー・ガンズ・ライフ」では十三の内面を鉄朗が、「十三はこんなことを考えていたんだ」と客観的に明らかにしていくという手法を取り入れたりしているんです。この鉄朗という少年の配置が本当にうまいと思いますね。これは70年代・80年代のドラマ作りの手法ですけど、それを今やっているのがいいところだなと思います。あと十三には大きな秘密があって、だんだんと明らかにされていくというのも面白い部分ですよね。
次のページ »
ハードボイルド=お酒・タバコ・リボルバー