「ノー・ガンズ・ライフ」小島秀夫インタビュー|「ノー・ガンズ・ライフ」に込められた“ハードボイルドの哲学”を紐解く

ハードボイルド=お酒・タバコ・リボルバー

──具体的に十三のどんなところに魅力を感じますか。

十三は頭の銃の引き金に触れられることを極端に嫌っている。

見た目のインパクトという意味で言えば、やっぱり顔がリボルバーというところですよね。こんな主人公は初めて見ましたから。僕だったら思いついても絶対やらないです。やっぱりどうしても作品を手にとった人のウケみたいなものは考えてしまいますからね(笑)。その思い切りの良さには脱帽しますよ。体を機械化する拡張者という表現そのものは、新しいように見えて、実際はサイボーグの言い換えなんですよね。最近の映画だと「アリータ(:バトル・エンジェル)」でも同じことをやっているわけで。ただ、そこであえて十三に最新の銃ではなくてアナログなリボルバーをくっつけたところが、面白いところなんですよ。

──たしかに「ノー・ガンズ・ライフ」はいわゆるSF作品ではあるけれど、アナログらしさは損なっていませんよね。

SFという入れ物を借りて、ハードボイルドをやっているんですよね。SFは振り切ってしまうと空を飛んで「カキンカキン、ドカーン!」って戦って終わりになりがちですから(笑)。それじゃあハードボイルドではないですよね。だからSFかどうかというより、先ほどもお話した、このご時世にあえてアナログであるということが惹かれる理由なんです。僕の中では結局ハードボイルド=お酒・タバコ・リボルバーなんですよ。

小島秀夫十三は種子島と呼ばれるタバコを愛飲している。

──それがハードボイルドに必須な要素だと。

そう。十三はポリシーもあって酒を飲まないですけど。あと事務所があるのも「らしい」ところですね。これで車があれば完璧なんですが……とはいえ、そこの図式はちゃんと守っているわけです。加えて、「俺の名は乾十三」という一人称のモノローグをたまに取り入れているところもハードボイルドを意識していますよね。

──「俺の名は〇〇」というモノローグで物語が始まるのは、ハードボイルドものの定番ですからね(笑)。

ただ、正直アニメになるにあたって、今お話していたようないくつかのハードボイルド要素が、しっかり再現されるのかは気になりますね。マンガならではの設定かもしれないので……。でも制作はマッドハウスさんですよね。好きな制作会社なので、そのあたりの再現には期待しています。

「動かない」という表現法

──監督のお好きなアニメーションというのは、例えばどういうものですか?

子供のときに観たものですね。「(宇宙戦艦)ヤマト」とか、「銀河鉄道999」なんかの世代です。「タイガーマスク」や「(忍風)カムイ外伝」もそう。出崎統監督の作品なんかも好きでしたよ。

小島秀夫

──出崎監督は、それこそマッドハウス創設者の1人でもありますよね。

そうですね。今お話した作品は、みんな映画っぽいでしょう。映画に憧れながらアニメを作っていたような世代の方々の作品なんです。僕も同じなんですよ。映画を撮りたかった人がゲームを作っているわけです。ゲームで育った人がゲームを作ったり、マンガを描きたかった人がマンガを描くと、普通のものにしかならないんですよ。例えば手塚治虫さんも映画から学んだカメラワークをマンガに取り入れたわけですよね。

──ある分野のプロになりたいからといって、その分野のことだけに精通していても仕方がないと。

そうなんです。余談ですが、最近はゲームで育って映画を撮っている人や、マンガを描いている人も多いんですよ。特にハリウッドに、そういう方がたくさんいます。「『メタルギア』シリーズをプレイして、この世界に入りました。ゲームはどう作ればいいのかわからないので、映画を撮っているんです」って(笑)。

レフティが手のみの拡張者として登場する。©︎カラスマタスク/集英社

──昔と今とで、動機の逆転が起きているんですね。実際、「ノー・ガンズ・ライフ」も小島監督作品の影響下にあるように思えます。

自分でもそれは思いますよ。セリフも含めて、あらゆるものが入っているなって。レフティ(注:作中に登場する左手のみの拡張者)なんか気になる存在ですね(笑)。

──メタルギアMk-Ⅱ(注:ここでは「メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」に登場する遠隔機動端末のこと)にも、ちょっと見えますよね(笑)。先ほどマッドハウスがお好きだとおっしゃっていましたが、どういった作品をご覧になっていたのですか。

なんといっても、川尻(善昭)さんがスタッフとして関わっている作品です。「妖獣都市」も絵コンテ付きのBlu-ray BOXを買いましたよ。うちのスタッフに見せましたし、海外の人間にも「これが『マトリックス』のエージェント・スミスの元や!」と言って紹介したりね。実写や小説では出せない、アニメならではのハードボイルドってあるじゃないですか。それを体現できる方ですよ。

──アニメならではのハードボイルドといいますと?

戦争終結後、街には拡張者があふれるようになった。

大事なのはレイアウトと引き画なんです。それで世界観や空気感を作っていく。やたらめったら動く作品が素晴らしいアニメだと思われがちですけど、「ノー・ガンズ・ライフ」みたいなタイトルの場合は、動かないほうがいいと思うんですよね。CGでぐるぐる回ったり、ガッと引いたりしなくてもいい。キャラクターがメカっぽいので、立体物として回したくなると思うんですけど、それをやったら失敗するんじゃないかな。そうではなくて、十三が止まっていてタバコを吸っていたり、電飾がチカチカして蝶が飛んでいたりという、ゆったりした世界の中で作品の空気を表現してもらう。でも、動く時はカカッと動く。そういう作り方なら、省力化もできますし、TVシリーズ向けでもありますよね。

──確かにそういうゆったりした空気が映える作品かもしれませんね。