雑誌を見ると自信がなくなっちゃうんで、読まない時代がすごく長くて
──絵に関してはカラー原稿で日本画の道具や技法を導入しているとか。
「花花」11巻のカバーからそうですね。絹の色紙やパネル貼りした絹に描いてます。完全に自己満足なんですけど、日本画の色はやっぱり日本のお話にぴったりだと思う。過去作みたいにアメリカを描こうってなったら日本画の色は合わないと思うんですけど。もう絶対に印刷では出ないとわかっていながら、金箔を貼ったりしています。
──モノクロを描く場合も、過去作とは何か変化がありましたか?
前のほうがきちーっと描いてた。今はむしろざっくりラフに描いてますよね。そのほうが着物の形や皺とかの質感がうまく表現できる感じがするんです。
──なるほど。そう言えば、デジタルに移行するマンガ家さんが増えてますが、成田先生は現在もすべてアナログなんですね。
いまだにこうしてアナログでやってると、あっちこっちから「使わないんだけど使う?」ってスクリーントーンが集まってきちゃって。丸ペンなんかも引き取らせていただいて、まだしばらくはアナログで行こうと。去年、LaLaの40周年で原画を展示したときに、「成田さんくらいがたぶん原画展ってのをちゃんとできる最後の世代ですよ」って言われました。余談ですが先日家の母が「リアカーが欲しい。折り畳みできるいいやつがあるのよ」と言ってまして。「何に使うの」と訊ねたら、「火事になったときに原稿を全部持って出なきゃ」って(笑)。
──素晴らしいお母さまですね! 子供の頃はどんなマンガ家の絵がお好きだったんですか?
最初はディズニーから入って、手塚(治虫)先生がいて、石ノ森章太郎先生がいて。で、萩尾(望都)・竹宮(惠子)の24年組の先生方は当然入りますよね。中学から高校くらいのときには、作風がまったく違う作家さんのマンガを1ページ選んで、1ページまるまる模写したりしてました。一条ゆかり先生のページとか模写したかな。ページの隅にある花とゆめとかりぼんのロゴまでそのまま描きましたし、写植もできるだけそのまま描くんですよ。そうすると文字の勉強にもなるんです。
──それは上達しますね。
でもそれ以降は、人の絵を見てもうまくはならないと思っていたので、人間を描くなら人間を見て描こうと決めたんですよ。それもあって長いことほかの人のマンガは見てないんです。今でもあんまり見ません。
──掲載誌が送られて来ても?
すみません、そのまんま母に送ってました(汗)。
──以前白泉社の方に、「LaLaの作家さんはなんで皆さん絵がうまいんでしょうか?」と訊ねたら、「それはやはり成田先生のおかげではないでしょうか」とおっしゃっていました。成田先生に惹かれて才能が集まってきたのだと。
いえ、当時LaLaは作家さんみんなお上手だったんですよ。だから私、雑誌を見ると自信がなくなっちゃうんで、読まない時代がすごく長くて。たぶん「ALEXANDRITE」の頃までまともに見てないです。見るにしてもドキドキして怖いから雑誌を逆さにして見てました。「ALEXANDRITE」はコメディなので、肩の力が抜けたと言うか、わりと見られるようになって。
──マンガではなく、能を観たり、ゴミを見たりと現実のものを見ることが成田先生の作品を形作っているのかもしれませんね。
そうかもしれません。アシスタントさんにもよく言うんですよ。作中に前に出てきた家を描くときも、「すでに描かれた絵を見ずに、資料になった元の写真を見なさい」って。やっぱり誰かが描いたものは、その誰かのフィルターがかかっちゃってるんです。
──とは言え写実的に描くわけではい、と。
ええ、現物を見て私なりの絵を描く。だから現物ととんでもなく違うものを描いてることもあるかもしれない。アタリをとるために写真のトレースはよくしますが、トレースしながらも自分で描いてますね。そこは自分じゃないと描けない絵になってるだろうなって自覚はあります。
40年間を全部詰め込んだ「成田美名子アートワークス」
──今後、「花花」はどういう展開になっていく予定ですか?
憲人が「道成寺」を披いて終わるっていうのははっきりしてるんですよ。あとちゃんとシテ(主役)でやるのは「安達原」と「道成寺」の2つだけなんで、もうそろそろほんとに(16巻で描かれた)ゴミの片付けはやめて(笑)、ちゃんと舞台に向かわないとね、というところです。
──憲人の恋愛の行方も気になります。
あのままするーっとは行かないでしょうね。「道成寺」のときって、ご家族がいる能楽師の方は集中するために家族を実家に帰したりするらしいんですよ。そのエピソードはなんか使えそうだなと思っています。
──「花よりも花の如く」最新17巻は9月5日に発売されますが、同時に画業40周年を記念した「成田美名子アートワークス」も刊行されます。こちらはどんな内容なんでしょうか?
イラストもあるし、データもあるし、インタビューもあるし、40年間を全部詰め込んだ本です。原画集ではないんですよ。自分でデザインした「キャラストップ」(当時白泉社が展開していたキャラクターグッズ)のコーナーもあります。編集さんともども、そりゃ忙しくて。
──「アートワークス」でご自分の作品を見返してみていかがですか。
やっぱり「エイリアン通り」の頃は時間がなかったからずいぶん描き流してるなーと思いました。あまり世に出したくないものもいっぱいあったんだけど、もうしようがないですよ。担当の編集さんが「描いたカラーは全部入れる」とがんばってましたので。ちょっと大変だったのは、すべてのカラー原稿の画材を明記してるんです。原画を持ってきてもらって、「何で描いたんだっけ……」ってウンウン言いながら、これを描くなら何を使うかな、と想像しながら答えました。アナログで手描きしようとしている人にはちょっと助けになるかもしれません。B5判で押し花ができそうな分厚い本なので、売れるかどうか心配ですが。
──気が早いかもしれませんが、最後に次回作の構想を教えていただけますでしょうか。
とりあえず猫マンガを描こうと思って。私、4コマ好きなんですよ。実は以前にも少し描いてたんです。メロディがまだ月刊誌だったときは、猫マンガと「花花」を毎月交互で描く計画だったのに、隔月刊になっちゃって(笑)。猫マンガの続きを描きたいです。
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成田美名子クロニクル
- 成田美名子「花よりも花の如く⑰」
- 発売中 / 白泉社
-
コミック 463円
青年能楽師・憲人の、恋と日常のストーリー。子供能「土蜘蛛」の稽古に大忙しの憲人、恋人の葉月とケンカになる。そんな中、子供能で後見を務める渚ちゃんのお母さんが、本番を見に来れなくなり…!? 巻末には能ガイドの番外編&描き下ろしの「玉よりも玉の如く」も収録。
- 成田美名子「成田美名子アートワークス」
- 発売中 / 白泉社
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単行本 3996円
成田美名子のデビュー時から現在までのさまざまな仕事を網羅。精緻で美しいカラーイラストが、未発表イラストを含め多数収録されるほか、全作品のカラー扉、「エイリアン通り」「CIPHER」「ALEXANDRITE」「NATURAL」のモノクロ扉ページ、雑誌表紙コレクションをコンプリート。さらに全サ、ふろく、懸賞、白泉社キャラグッズの全リストが掲載される。語り下ろしインタビュー、成田自身が語る作品とカラーイラスト解説に加え、カラーイラストが出来るまでも公開! 見応え、読み応えたっぷりの1冊。
- 成田美名子(ナリタミナコ)
- 1960年青森県生まれ。1977年に花とゆめ(白泉社)に掲載された「一星へどうぞ」でデビュー。繊細なタッチの画風に定評があり、イラスト集を数度にわたって発表している。現在メロディ(白泉社)で「花よりも花の如く」を連載中。代表作は「エイリアン通り」「CIPHER」など。