アニメ「波よ聞いてくれ」特集 沙村広明インタビュー|ラジオアニメは地味だと誰が言った?

成功するも失敗するも主演の杉山さん次第だけど、心配はない

「波よ聞いてくれ」1巻より。圧倒的なセリフの多さがこの作品の特徴の1つだ。 ©沙村広明/講談社

──原作を読むと、情報量がとにかく多いじゃないですか。まずセリフが多いし、その中に細かいボケがいくつもあって、フキダシ外の書き文字で小さくツッコんでて。マンガだと自分のペースで読めるんですけど、アニメであの量のセリフを聞くとどう感じるんだろうというのは気になります。

アニメでも当然セリフは多いんですけど、テンポがうまくハマってるし、ミナレ役の杉山さんの力量もあって、すごくいいものに仕上がっていると思います。

──楽しみです。「波よ聞いてくれ」という作品の魅力は、主人公のミナレというキャラクターが担う部分が大きいですよね。

マンガだけ見ると「このマンガ、フキダシ多いな」って思うだけかもしれないけど、声がつくと「しゃべってるのはこの女だけだな」っていうのが浮き彫りになってますよ(笑)。こんなに主人公がしゃべるアニメがあったかなっていうぐらい。でもそこに関しては心配ないですね。

アニメ「波よ聞いてくれ」より。

──杉山さんがしゃべりっぱなしの「第2弾PV~ミナレコメンタリー版~」という動画もアップされてましたけど、すごくよかったですね。

そうですよね。俺が見る限りも概ね好評だったので、よかったなと思ってます。成功するも失敗するもミナレ次第というか、杉山さんにかかってるから(笑)。

──「新千歳空港国際アニメーション映画祭」でアニメのイベントがあった際、瑞穂役の石見舞菜香さんは「台本がミナレのセリフで埋め尽くされていた」「これを乗り越える方はどなたなんだろうと、杉山さんについて調べちゃいました」と言っていました(参照:「波よ聞いてくれ」石見舞菜香がミナレのセリフ量に驚愕、沙村広明が語るその原因は)。

いや、ホントにね、第1話の収録で杉山さんの喉が潰れるんじゃないかと思いましたよ。それでもちゃんとこなしてくれて、しかも収録後に打ち上げみたいなことをやったんですけど、杉山さんは酒をガンガン飲んで、朝までカラオケやってました。

──すごい。

声優さんって、さぞかし日頃から商売道具である喉のケアをしてるんだろうと思ったら、単純に喉がめちゃくちゃ強い人たちなんだなって(笑)。

──ケアもしてると思いますけどね(笑)。作中でミナレの声は、いわゆるFMラジオのDJらしい声とは逆で、「音域が高く、人を安心させず、アジテーターじみた傲慢な響きがある」「不思議なのはそれが不快ではない」と評されています。ミナレを演じる杉山さんの声はイメージ通りでしたか?

マンガでそう描きつつ、そこまで細かくビジョンがあったわけでもないんですけど、イメージ通りでした。オーディションにも参加させてもらったんですが、3人ぐらいに絞ったときに、ほかの2人はベテランだったんです。でも杉山さんはその2人に遜色ないぐらいの力があるなと。そして最終的には杉山さんが札幌出身というのもあって、彼女に決定しました。

──最初から北海道出身者に絞ったオーディションなのかと思っていたんですが、結果的に札幌出身の人になっただけなんですね。

そうですね。アニメのセリフで札幌の人らしいイントネーションがスッと出てきてもいいなと思ったんですけど、あとから聞いたらそういう部分は監督に全部矯正されたって(笑)。

──マンガと同じく基本は標準語なんですね。

でも杉山さんが、アニメに先がけて(AIR-G'エフエム北海道で)やってくださってる「波よ聞いてくれ」のラジオは、北海道弁をバンバン出しているみたいですよ。

アニメスタッフへの注文は1カ所だけ

──アニメ化が決定した際、沙村さんは「原作者以上に取材をしてくださっていて頭が下がる」とコメントされていましたが、具体的にはどういった部分に対してそう感じましたか?

まず前提として、アニメ業界の人はマンガ家よりラジオ、放送業界に詳しいんですよね。それに俺がラジオ局に取材に行ったときは入らなかった、例えば非常用バッテリーが置いてある部屋とかも、アニメのスタッフさんは写真を撮ってくれていて、すごいなと。ほかにもアニメではオリジナルのシーンがあるんですけど、そこを描くにあたっての、各所への質問メールが細かかったんですよ。俺が取材するときは「こういう状況は起こりますか」ぐらいの感じなんですけど、アニメ会社の人はもっと詳しく質問してて、そのやり取りを見た俺が「そうか、確かにそこはどうなってるんだろう」って気付かされるという。あとから俺が似たようなシーンを描くときに助かりました(笑)。

──なるほど。ちなみに沙村さんは、脚本の監修などでアニメに参加はされたんですか?

「波よ聞いてくれ」1巻より。ミナレの同居人である瑞穂の家には、3匹の亀が飼われている。名前はそれぞれ、ふらかん、ほどこん、おきゅうほん。 ©沙村広明/講談社

脚本のチェックはしました。でも俺は「原作通りにしてくれ」とか言わないほうなので。細かい部分に違いはあるけど、アニメのスタッフさんがどう料理してくれるのを楽しみにしてます。……あ、1カ所だけやめてくれって言ったことがありますね。

──なんでしょう?

瑞穂というキャラが飼ってる3匹の亀がいるんですけど、原作より出番が多いんですよ。要はラジオ業界の専門用語が出たときに、亀たちがマスコット的に登場して解説する仕様になってるんです。でも亀がギャグゼリフの中の用語を解説するシーンがあったので、そこだけは「ギャグの途中で解説を入れるほど無粋なものはないのでやめてくれ」と、そこだけは言わせてもらいました(笑)。