コミックナタリー PowerPush - もっと!
「いま読みたい作家」の全部入り! 秋田書店発、「よくばり系」季刊誌誕生
ずいぶん扱いが違うじゃないですか。僕のことは悪口ばっかり
水沢 もっとですか……じゃあ、もっと押しを弱く、ね、してほしいですよね。なんていうか、断りにくくなる環境の作り方が天才的だと思うんですよね。この座談会の前に録った日めくり紹介動画もね、本当に嫌だったんです。コミックナタリーさんを前にして言うのもアレなんですけどほんとーーーーーに嫌だったんです。必死でゴネたし。
金城 水沢先生、今回とても頑張ってくださって……。ほんとうにいい人で。
水沢 それ! 金城さんよく悦子のこと「いい人だいい人だ」って言うのがさー。悦子をいい人だと言い続けることによって、悦子がいい人でいなきゃいけないように調教してるのかなとも思ったりもして。
カラスヤ ちょっと待てー。金城さん僕には悪口ばかり言ってるのに、ずいぶん扱いが違うじゃないですか!(笑)
金城 悪口じゃないです、事実です!
カラスヤ じゃあ石黒さんに対してはどうですか?
金城 石黒さんは仕事が完璧ですし、すごく優しい方なので、私からは要望みたいのは何もありません。
カラスヤ えー……。
金城 石黒さんは本当にいい人なんです。以前、他社の編集の方も、編集者やってていちばん感動した出来事は石黒さんからいただいたメールだっておっしゃってて。その人がまだ入社1年目くらいのときに、石黒さんにメールで仕事の依頼をしたら、そんなペーペーな自分に対して、すごく丁寧なお断りのメールをいただいたそうなんです。
水沢 結局断られてるんじゃん!(笑)
カラスヤ 石黒さんだって、相手が1年目とか知らずに普通に返事してるだけですよね。
お寿司を描いたら「シャリの量を4/5に減らしてください」
金城 あれ、そっか。でもとにかく石黒さんは誰に対しても真摯な印象です。締め切りも守ってくださるし。そこいくとカラスヤさんは、いつも直されること前提で気の抜いたネームを出してくるじゃないですか。多分私が担当した作家さんの中で、カラスヤさんがいちばんネームの修正多いです。
カラスヤ そ、そうでしたか。まあね、僕もうね、ほっとくと全然おもしろくないマンガ描こうとするんです。ま、でもそれ自分で言うと平気なのに、他人に言われると若干ショックですけど。
一同 (笑)。
カラスヤ 時間的に追い込まれると、おもしろくないネームをとりあえず平気で提出するんです。で、指摘されたら直す。
水沢 指摘の内容についてはどうなんですか?
カラスヤ まあ、だいたい的を射てます。
水沢 じゃあ、直すしかないですね……。悦子も結構細かいダメ出しを受けていて、「ズボラ飯」の最初の頃は、料理を描き直しさせられました。
金城 よくケンカみたいになってましたよね……。
水沢 「みたい」じゃないじゃん。完全にケンカだったじゃん。「ああ、今、自分の人生でいちばん怒ってるな」って実感してたし。
カラスヤ 完成原稿を修正させられるんですか?
水沢 料理の絵ってネームや下描きでは伝わりにくいから、完成してからチェックしてもらうことにしてるんですよ。よく覚えてるのは、お寿司を描いたら「シャリの量を4/5に減らしてください」って言われたりしてね。4/5って何なの?と。それってもう好みの問題じゃん!
石黒 随分細密な数字ですね。
水沢 でしょ。2/3ならまだわかりますけど、4/5なんてもうそのままでもいいじゃんって。
金城 しかも空想のお寿司でしたよね。でも花がゴロさんと食べるのを楽しみにしてる場面だったから、ネタが大きい高級なお寿司を描いて欲しくて……。あとは久住先生にベストな原稿を見せたいという思いは常にありまして。「どうだ今回の水沢は!」みたいな。
水沢 おかげで久住先生からのダメ出しは特になかったです。料理の絵もやってるうちにコツがわかってきて、褒めてもらえるようになったりして。
金城 久住先生、最近は料理の絵を毎回褒めてくださってます。
水沢 なんかこんなにダメだし喰らってるの自分だけなんじゃないかとか思ってたんですけど、今日カラスヤさんとお会いして、そんなことないってわかって良かったです。いやー。カラスヤさんがダメだしてんこ盛りの作家さんで本当によかったですよ!
カラスヤ そ、それはよかった。
……わかった! サブカル臭がするぞ、この雑誌!
石黒 しかし改めてラインナップを見返すと、作品のジャンルや作家のカラーのごった煮感は興味深いですね。まあ金城さんが好きな作家を集めたんだな、ってことだけはひと目でわかるけど。
金城 確かにもっと!の良さは、その魅力をひと言で表せない雑多なところだと思います。でも広報活動を考えると、いいキャッチコピーがあれば助かるんですよね(笑)。
カラスヤ ただ無茶苦茶にバラバラというわけではないよね。自分のことはさておき、作家さんのラインナップを見ると、ごった煮とはいえ何かしら共通するものはある気がするけど。
金城 このラインナップは編集部の好みによる部分も多くて、皆さんに分析していただければ後学になります。
石黒 ……わかった! サブカル臭がするぞ、この雑誌!
カラスヤ それ言っちゃいますか(笑)。なんだろう、それをうまくひと言で表すとすれば……ネオサブカル? 「21世紀サブカル」、これどうですか?
一同 ……。
カラスヤ 僕、今、余計なこと言いましたね?
金城 サブカルって「そもそもなんなのか問題」もありますから。
水沢 サブの部分を変えたらいいんじゃないですか? サブって補欠っぽい感じがするじゃないですか。
金城 でもカルチャーもダメだと思うんですよ。気取ってる感じしません?
カラスヤ 総替えや。サブもカルも。
金城 何か他の言葉で言い表す雑誌じゃなくて、ゆくゆくは「もっと!系」なんて呼ばれることを目指したい!
カラスヤ 「もっと!系」、いいねそれ。「もっと!系」雑誌も後追いで誕生するかも知れない。
金城 そうしたら皆さんは「もっと!系」作家の第一人者みたいなことになりますけど、大丈夫ですか?
水沢 大丈夫ですよ! 「みなさんはもっと!系作家の第一人者ですよ!イヤッホーやったね!!」くらい言っちゃってください!(笑)
金城 今日は取り留めのない話ばかりしてしまってすみません! 最後に作家チームから「こんな雑誌にしてみては?」とアドバイスをいただけませんでしょうか?
水沢 えっ、それ難しいですね。自分の作品をどうするかでいっぱいいっぱいですから。
石黒 3年後に気付いたらホラー専門誌になってたら面白いんじゃないですか。
水沢 もっと!のロゴも血が垂れてる感じになってて。
カラスヤ 表紙もどんどん変わっていって。
石黒 「みんな忘れてるかもしれないけど、もっと!って創刊時はこんなだったんだよ」って言われてる。
金城 次号は伊藤潤二先生が執筆してくださるんで、そんな日も近い……? いやいや!
石黒 あ、あと鶴田謙二さんに連載してもらいましょう。僕は「もっと」鶴田さんが読みたい。
金城 おおーわかりました! 編集部の会議にかけてみます! そ、そこまでは自由ですもんね? 今後のもっと!で発表できる日がくるかもしれません。今日は本当に、ありがとうございました。
- タワーレコード限定シングル「もはや平和ではない EP」 / 2012年12月12日発売 / 525円 / DECKREC/UK PROJECT / DCRC-0078
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ラインナップ
久住昌之/水沢悦子「花のズボラ飯」、水沢悦子「ヤコとポコ」、磯谷友紀「恋と病熱」、伊東七つ生「エラー305/ワンダー115」、渡辺ペコ「さよならサンガツ」、石黒正数「パンホラー」、天堂きりん「ゆびさきエレジー」、幹本ヤエ「十十虫は夢を見る」、雁須磨子「こくごの時間」、青木俊直「海風レイル」、きづきあきら+サトウナンキ「暁の明星」、サメマチオ「サンタが来なくなった日」、宇野ジニア「空の海 砂の島」、カラスヤサトシ「おとろし」「カラスヤポータルZ」、花津ハナヨ「てっぺんまででいいですか?」、広田奈都美「もっと! 魔法のおかわりレシピ」、オカヤイヅミ「Blood Orange Juice」、いぬゐのこ「ひみつのハナコさん」、三島衛里子「私立ブルジョワ学院 女子高等部・外部生物語」、今日マチ子+藤田貴大「mina-mo-no-gram」、衿沢世衣子「新月を左に旋回」、おかざき真里×三島衛里子 対談「原点・ルーツ/創作の礎となるもの」
水沢悦子(みずさわえつこ)
「花のズボラ飯」の作画担当。オリジナル新作「ヤコとポコ」はエレガンスイブの増刊誌、もっと!(秋田書店)で連載中。詳しいプロフィールは非公開。
石黒正数(いしぐろまさかず)
1977年福井県生まれ。2000年、アフタヌーン秋の四季大賞にて「ヒーロー」が四季賞を受賞し、同作がアフタヌーンシーズン増刊(講談社)に掲載されデビュー。何気ない日常の風景からドラマを紡ぐ、ストーリーテリングの手腕で好評を得ている。代表作に「それでも町は廻っている」「木曜日のフルット」「ネムルバカ」「外天楼」など。
カラスヤサトシ
1973年大阪生まれ。1995年、本名の片岡聰(かたおかさとし)で投稿した「海辺の人々」が第6回COMICアレ!マンガ賞優秀賞を受賞、COMICアレ!(マガジンハウス)に掲載されデビューを果たす。1997年、短編集「石喰う男」の刊行をきっかけに会社を辞めマンガ家に専念するが、活動の中心となっていた同誌が休刊となり、発表の場を失った。2003年、ペンネームをカラスヤサトシに改め月刊アフタヌーン(講談社)の読者ページにて連載を始めた「愛読者ボイス選手権 特別版」でコアな人気を獲得。誌上で行われた単行本化署名運動の成果が実を結び、2006年「カラスヤサトシ」の刊行に至った。2008年よりまんがライフオリジナル(竹書房)にて「野生のじかん」を開始。以降、多数のマンガ誌で連載を抱える。代表作に、自身の結婚の過程を描いた「結婚しないと思ってた オタクがDQNな恋をした!」など。エレガンスイブ(秋田書店)にて「エレガンスパパ」を連載中。