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「いま読みたい作家」の全部入り! 秋田書店発、「よくばり系」季刊誌誕生

マンガでしか描きえない恐ろしい体験はないものか

カラスヤ 僕は前ホラーだったから今度も、って割と流れでホラーを描いたけど、石黒さんはなんで再びホラーになったんですか。けっこうフリーダムな執筆依頼だったと思うんですけど(笑)。

石黒正数「パンホラー」より。

石黒 前にそのホラー短編を描いたとき、ネタをたくさん思いつき過ぎまして。ストックがあるので、これは使い切るまで描かせてもらおうと。

金城 石黒さんと打ち合わせしてるとすごいんですよ。どんどん思い付いて、バーってその場であらすじを言ってくださるので。“アイデアマシーン”みたいな感じ。

石黒 ホラーマンガってある程度描き方がパターン化されていて、僕はあんまり怖いと思える作品に出会えてなかったんですよ。それで研究するためにホラーマンガに挑戦したんです、マンガでしか描きえない恐ろしい体験はないものかと思って。

金城 でも阿部共実さんの「空が灰色だから」の1エピソードを読んで、初めてすごい怖くなったっておっしゃってましたよね。自意識過剰な女の子が壊れていく話。

石黒 うん、あれはマンガでしかできない新しいホラー表現だと思った。あれが出ちゃったから、もう僕が研究しなくてもいいか、とも思いました(笑)。

金城 石黒さんは短編とも長編とも決めずにホラーを描き始めるので、読む側としては何ページ続くか、いつ終わるのか予想できないまま読み進めることになるんです。

水沢 それは怖いですね。ページ数が一定だと、読者に「そろそろまとめに入ってるな」とかってバレますからね。

ものすごい陰気な画なんですよ。自画像さえ入らなければ

石黒正数「パンホラー」より。石黒の長いキャリアの中で、もっともお気に入りだという1コマ。

石黒 あの、こんなときにどうでもいいことを思い出してしまったんですけど、もっと!に載せてもらったマンガで顔を正面から描いたこのコマ、僕が10年マンガ描いてきた中で、1番のお気に入りのコマなんです。

一同 へー!

カラスヤ たまたまそういうふうにできあがったって感じなの?

石黒 たまたま。うまく説明できないんですけど、ペン入れして消しゴムかけてみたら、「あ、僕が描きたかったのはこの顔なんだ!」って思いました。正面の顔ってそれ自体難しいし、2度とあの絵は描けないだろうな。

カラスヤ すげえ、マンガ家さんだ、マンガ家さんがおる……。

金城 カラスヤさんもマンガ家さんじゃないですか(笑)。

カラスヤ 僕、毎回同じ自分の顔の絵を描いてきたけど、会心とかそういうこと考えたことないですよ(笑)。

石黒 カラスヤさんのホラーって真摯に作られていますよね。普段の作風からは考えられないような……。

水沢 実はホラー向きの絵ですよね。

カラスヤサトシ「おとろし」の一編「マムシデ」より。

カラスヤ そうなんですよ。ものすごい陰気な画なんですよ。自画像さえ入らなければ(笑)。

石黒 なるほど、そこにいつものカラスヤさんが入ると……もうどうなるか読めますよ(笑)。たとえばホラーでおどろおどろしい殺人現場を描いたとしても、それを横目に見てるカラスヤさんの自画像が、焦りながら「な……何やっとるんだあのオヤジ」って言ってる。「止めたほうがいいんちゃうやろか?」とか。

カラスヤ すべてを持っていってしまうんですね。実はもっと!で描いている「おとろし」に一度入れてみたんですけど、すごい邪魔でやめたんです。

もっと!という雑誌名は、「もっと〇〇したい」欲望の象徴

石黒 ところでこの本、なんで「もっと!」って名前なんですか?

金城 えーと、もっと!という名前には意外と色々な思いがこもっていまして。「ズボラ飯」の花が代表格ですけど、ズボラだけどもっとおいしいごはん食べたい、とか、もっと可愛い服がほしいとか、もっと面白いマンガ読みたいとか、そういう欲望を象徴する言葉であるというのがまずひとつ。あとは「もっと私たち頑張ろう」みたいな発奮とか、作家さんにはもっといい作品を描いてほしい、みたいな願望の意味も入っています。

カラスヤ そうだったんですか、初めて知りましたよ。このタイトルは金城さんが考えたんですか?

金城 そうです。「もっと!」と「もしもし」のふたつを編集会議に出して。

一同 ……もしもし?

金城 可愛くないですか? 私はどっちかというと「もしもし」推しだったんですけど……。SFっぽくていいなって思ったんです。「HELLO」的な、交信のイメージなんですけど。

石黒 僕なら「ふさふさ」にするな。

金城 ふさふさ? それもいいですね! みんな、1回ぎょっとして手に取りそう。FUSAFUSA。

カラスヤ もう何雑誌なのかわからんけどね。

水沢 初めて電話で「もっと!」ってタイトル聞いたとき、 「いやー、でもなんかこれ……考えた人には悪いけどエロ雑誌のタイトルみたいですよね!」とか言っちゃいまして、金城さんがすごい申し訳なさそうに「それ私の案なんですけど」と言ってたの覚えてます。

金城 なんか皆さんも、もっと!にちなんで「もっとこうして」みたいな欲望や要望はないですか?私にもっとこうしろとか、何でも言っていただいて構いませんよ!

タワーレコード限定シングル「もはや平和ではない EP」 / 2012年12月12日発売 / 525円 / DECKREC/UK PROJECT / DCRC-0078
ラインナップ

久住昌之/水沢悦子「花のズボラ飯」、水沢悦子「ヤコとポコ」、磯谷友紀「恋と病熱」、伊東七つ生「エラー305/ワンダー115」、渡辺ペコ「さよならサンガツ」、石黒正数「パンホラー」、天堂きりん「ゆびさきエレジー」、幹本ヤエ「十十虫は夢を見る」、雁須磨子「こくごの時間」、青木俊直「海風レイル」、きづきあきら+サトウナンキ「暁の明星」、サメマチオ「サンタが来なくなった日」、宇野ジニア「空の海 砂の島」、カラスヤサトシ「おとろし」「カラスヤポータルZ」、花津ハナヨ「てっぺんまででいいですか?」、広田奈都美「もっと! 魔法のおかわりレシピ」、オカヤイヅミ「Blood Orange Juice」、いぬゐのこ「ひみつのハナコさん」、三島衛里子「私立ブルジョワ学院 女子高等部・外部生物語」、今日マチ子+藤田貴大「mina-mo-no-gram」、衿沢世衣子「新月を左に旋回」、おかざき真里×三島衛里子 対談「原点・ルーツ/創作の礎となるもの」

水沢悦子(みずさわえつこ)
水沢悦子

「花のズボラ飯」の作画担当。オリジナル新作「ヤコとポコ」はエレガンスイブの増刊誌、もっと!(秋田書店)で連載中。詳しいプロフィールは非公開。

石黒正数(いしぐろまさかず)
石黒正数

1977年福井県生まれ。2000年、アフタヌーン秋の四季大賞にて「ヒーロー」が四季賞を受賞し、同作がアフタヌーンシーズン増刊(講談社)に掲載されデビュー。何気ない日常の風景からドラマを紡ぐ、ストーリーテリングの手腕で好評を得ている。代表作に「それでも町は廻っている」「木曜日のフルット」「ネムルバカ」「外天楼」など。

カラスヤサトシ
カラスヤサトシ

1973年大阪生まれ。1995年、本名の片岡聰(かたおかさとし)で投稿した「海辺の人々」が第6回COMICアレ!マンガ賞優秀賞を受賞、COMICアレ!(マガジンハウス)に掲載されデビューを果たす。1997年、短編集「石喰う男」の刊行をきっかけに会社を辞めマンガ家に専念するが、活動の中心となっていた同誌が休刊となり、発表の場を失った。2003年、ペンネームをカラスヤサトシに改め月刊アフタヌーン(講談社)の読者ページにて連載を始めた「愛読者ボイス選手権 特別版」でコアな人気を獲得。誌上で行われた単行本化署名運動の成果が実を結び、2006年「カラスヤサトシ」の刊行に至った。2008年よりまんがライフオリジナル(竹書房)にて「野生のじかん」を開始。以降、多数のマンガ誌で連載を抱える。代表作に、自身の結婚の過程を描いた「結婚しないと思ってた オタクがDQNな恋をした!」など。エレガンスイブ(秋田書店)にて「エレガンスパパ」を連載中。