日本のヒット傾向はアメリカでも通用する
──冒頭でも触れた通り、現在「鬼の花嫁」と「悪役令嬢の矜持」の2作がMangaPlaza上で大ヒット中です。この要因についてはどのように分析されていますか?
香月 やはり“日本のヒット傾向はアメリカでも通用する”という法則に尽きます。日本では4、5年ほど前から令嬢ものが一大ジャンルとして確立しましたが、実は海外ではまだそれほど多くの作品が展開されていませんでした。そこへ、コミックシーモアでヒット実績のあるこの2作品を効果的な広告とともに投下したところ、同じようにヒットしてくれたという流れです。この成功によって「令嬢ものはいけるぞ」という確信を得ることができました。
スターツ出版I 「鬼の花嫁」がアメリカでも受け入れられたことは、まずは本当にうれしかったですね。この作品は、ヒーローとヒロイン、そして敵対する存在という構図が非常にわかりやすく描かれています。アメリカのエンタメ作、例えばアメコミなどにもその傾向はありますよね。そうした明確な“正義と悪”構造の物語は、文化を越えて共感を得やすいのかもしれない、と改めて感じました。
スクウェア・エニックスO やはり“王道”の強さを感じます。悪人が成敗されていく勧善懲悪的要素と、カッコよさで他の追随を許さない最強イケメンヒーローとのキュンキュンする甘いシーンの組み合わせが、自分も含めて女性読者をがっちり掴んでいらっしゃると思いました。加えてイラストが本当にキレイですよね。
スターツ出版I ありがとうございます! おっしゃるとおり、ひと言で言えば王道のシンデレラストーリーで、“絶対的なヒーローが不遇なヒロインを救い出す”という明快な爽快感が得られる作品となっております。それに加えて和風ファンタジーという独特の世界観や、そこに生きる魅力的なキャラクターたちも、ぜひ読者の皆様には注目していただきたいポイントです。
スクウェア・エニックスO 弊社の「悪役令嬢の矜持」は、主人公が悪役令嬢として“あえて”振る舞い活躍するという、いわゆるステレオタイプな悪役令嬢ものから一歩踏み込んだ、どんでん返しのある物語です。海外の読者コメントを見ると、「こんな悪役令嬢ものもアリなんだ?」という新しい発見として楽しんでいただけているようです。少し前までは、こうした複雑な設定は海外では伝わりづらいと考えられていましたが、今や悪役令嬢ものというジャンルが海外でもある程度認知されてきたのだと考えられます。本作のようなカウンター的な作品が受け入れられたこと自体が、その土壌が整ってきた証拠ではないかと。
スターツ出版I 定石とは逆を行く作品って、当てるのが本当に難しいんです。よほどうまくやらなければ平均以下のものになりがちなのですが、スクエニさんの「悪役令嬢の矜持」は思いっきりバットを振って見事にホームランを打っている。それが本当にすごいなと。実際に読ませていただくと、セリフの1つひとつが心をえぐるような鋭さで、読者に「こいつ、ムカつくわー!」と思わせる描写が実に巧みなんですよね。見せゴマの作り方なども含め、タイトルどおり“矜持”が感じられる素晴らしい作品だと思います。
スクウェア・エニックスO 恐縮です……! 既存の悪役令嬢ものとは少し違う、新しいタイプの物語を読みたい方には特に響く作品であろうと応援しております。さらに、主人公が非常に強い意志を持って自ら道を切り拓いていくタイプですので、そうした“強い女性像”が北米の読者にも支持されているポイントなのではないでしょうか。新しい時代のヒロイン像に、コミックナタリー読者様もぜひ注目していただきたいです!
日本のマンガを“一過性のブーム”ではなく“文化”に
──「鬼の花嫁」「悪役令嬢の矜持」以外に、「これもMangaPlazaで読んでほしい」というイチオシの作品がありましたら教えてください。
スターツ出版I 現在配信中の「双子王子の継母になりまして~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~」のような、いわゆる“継母系”の作品が今電子コミックで当たり始めています。また、「鬼の花嫁」に続く和風ファンタジーの作品も複数準備しています。1つのヒットを“ブーム”で終わらせるのではなく、ジャンルとして根づかせて“文化”にしていく。そのための作品をこれからも届けていきたいですし、MangaPlazaさんにも、そうしたジャンルが海外で広がっていくお手伝いをしていただけたらと願っています。
スクウェア・エニックスO 弊社も、現在「後宮医妃伝」という作品をMangaPlazaさんにて先行配信させていただいています。現代の看護師が中華の後宮へ妃として転生し、皇子の寵愛を受けるという異世界転生×中華ファンタジーなのですが、こうした新しいジャンルでも読者を掴み、ジャンル全体を広げていく取り組みを続けていきたいです。
香月 まだまだ英語圏で展開されている日本のマンガは少ないのが現状です。我々としては、MangaPlazaを起点にデジタル発のヒット作品をどんどん生み出していくことで、日本の出版社さんがもっと気軽に海外へ進出できるような土壌を作っていきたい。そして日本のマンガを“一過性のブーム”ではなく、しっかり“文化”として根づかせていくお手伝いができればと考えています。
スターツ出版I そうなってくれたらいいな、と心から願っています。昨年、ロサンゼルスで開催された「Anime Expo」に参加したのですが、日本のマンガやアニメを愛してくれるファンの熱量を肌で感じました。日本のマンガは、マンガ家さんと編集者が二人三脚で作り上げる、世界でも類を見ないクオリティの高い文化です。それを世界に届けることが出版業界全体の使命の1つであり、我々スターツ出版もその中でほんの一部分の小さなところを担えたら、という思いでおります。
スクウェア・エニックスO 日本のような、多種多様なマンガにいつでも触れられる恵まれた環境、当たり前のようにさまざまなマンガ体験ができる喜びを、海外の方にもぜひ享受していただきたいです。誰にでも個人的に特別なマンガ、“人生を変えるような1冊”というものがあると思うのですが、マンガにはそれだけの力があります。私自身としても、個々の読者の心に深く訴えかけるような作品を、これからも世界中の“個人”の皆様に届けていきたいですね。
香月 その積み重ねが“文化”になっていくわけですからね。MangaPlazaを始める前は、多くの出版社さんから「北米の電子コミック市場は難しいぞ」と言われてきました。しかし、日本で培ったノウハウを生かしながら3年間やってきた今、まだまだ市場が伸びる余地は大きいぞとひしひしと感じています。先ほど「Anime Expo」のお話なども出ましたが、日本マンガの人気が加速していることを実感できる機会はどんどん増えてきていますね。
スターツ出版I 電子コミックの黎明期を思い出しますね。当時は「電子書籍なんて売れない」とさんざん言われていましたが、10年後には全員言っていることが逆になっていた(笑)。大谷翔平だって、最初は「二刀流なんてできるわけないよ」と言われていたじゃないですか。今はまさに、海外市場におけるその1歩目を踏み出したところです。だからこそ“我慢してやり続ける”ことが必要だと思っています。最初からうまくいくサービスなんて絶対にないので、「いつか結果を出せばいいよ」というふうに出版社も書店も長い目を持つことが大事なのではないかと。何かのきっかけがあれば、市場は爆発的に伸びていくんじゃないかと。
スクウェア・エニックスO まさに今、各社がさまざまなチャンネルを使って、読者に届けるためのベースを作っている段階なのだと思います。スターツ出版さんがおっしゃるように忍耐は必要ですが、こうして複数の会社が同じ方向を向いて努力していることで、「アメリカに日本マンガの文化を」というゴールは着実に近づいている。決して夢物語ではなく、十分に狙える場所にいると感じています。
──出版社の目線でMangaPlazaさんにこれからこういうことを期待したいと思うのはどういう部分ですか?
スターツ出版I これまでもそうですが、アメリカのユーザーが電子コミックに触れるきっかけをこれからも作り続けていっていただきたいです。電子コミックがエンタメを楽しむうえでの“当たり前の選択肢”になるように、市場を牽引していってくださることを期待しています。
スクウェア・エニックスO 海外ではゲームなど、ほかにも強力なエンタメがたくさんあります。その中で、ユーザーの可処分時間をいかにマンガに割いてもらうか。MangaPlazaさんの巧みなSNS戦略や露出のさせ方で、1人でも多くの人に、1作でも多くの作品を届けていっていただきたいです。引き続きよろしくお願いします。
香月 出版社様、編集者様、そして作家様の思いをしっかり背負って海外の読者に届けていく、という気持ちを忘れずに、MangaPlazaはこれからも書店としてできることを1つひとつ着実にやっていきます。日本の素晴らしいマンガを1人でも多くの海外の方に楽しんでいただき、その結果として作家さんや出版社さんにしっかりお戻しができるよう、全力で努めてまいります。
関連特集
- コミックシーモア ニュース・特集まとめ
「noicomi鬼の花嫁」©富樫じゅん・クレハ/スターツ出版
悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~(コミック)」©Mary=Doe/SQUARE ENIX ©Kuga Huna/SQUARE ENIX ©Stellagi Suzuka/SQUARE ENIX