コミックナタリー Power Push - 「マギ シンドバッドの冒険」
小野大輔×宮尾佳和監督対談&羽多野渉インタビュー
継承して、点と点をつないでいく
大高忍、大寺義史原作によるアニメ「マギ シンドバッドの冒険」のBlu-ray / DVD BOXが、8月24日にリリースされる。「マギ」の30年前の世界を舞台に、少年・シンドバッドが王に至るまでの道のりを描く「マギ シンドバッドの冒険」。テレビアニメでは単行本に同梱されたOADが再編集され、新規エピソードも追加し放送された。またテレビアニメ「マギ」にてシンドバッドを演じた小野大輔をはじめ、「マギ」に登場するキャラクターの若かりし頃を同キャストが務めている。
コミックナタリーでは発売を記念し、シンドバッド役の小野大輔、監督の宮尾佳和の対談をセッティング。それぞれ「マギ」「マギ シンドバッドの冒険」のシリーズを通し、作品に込めた思いを改めて聞いた。さらにミストラス、スパルトスという兄弟役を1人で演じた羽多野渉も登場し、役への印象やアフレコ中の裏話を明かした。
取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / 佐藤友昭(P4~6)
小野さんと杉田さんが突破口を開いた
──「マギ」より30年前の世界を舞台に始まる「マギ シンドバッドの冒険」には、「マギ」と同じキャストの方々が出演されています。小野さんや杉田さんは出演の際、オーディションがあったと別のインタビューで発言されていました。
宮尾佳和 若い頃のキャラクターが登場するにあたって、割りきって女性のキャストや子役の方に演じていただくというのも普通だったらあると思うんですよ。
小野大輔 そうですよね。そうなっていても、何もおかしくなかったと思います。
宮尾 自分は「マギ」シリーズで2話ほど絵コンテとして参加していたんですが、監督を務めるのは「シンドバッドの冒険」からなので、本編の空気感や流れを一度体験しているキャストの方々に続投してもらうことの意味は大きいと感じたんです。「マギ」本編への登場回数が少なかったとしても、すでにキャラクターは存在していて。そういった意味でも「マギ」に出演していたキャストさんは、それぞれのキャラクター像をすでに掴んでいる。シリーズ間での年齢の差云々みたいなハードルはあったんですけれども、これまで演じてきた声優さん方にやってもらいたいという気持ちがやっぱり強かったんです。
──確かに登場回数やセリフの少ないキャラであったとしても、「マギ」と同じキャストの方が出演されていますもんね。
宮尾 ええ。ただ、最初は「やってもらいたい気持ちが強いとはいえ……」と感じる部分もありました。なので同じキャストの方々で、と踏み切る前に、申し訳ないんだけれどもオーディションという形で小野さんと杉田さんのお芝居を聞かせてもらおうという流れになったんです。OADの1本目と2本目はシンドバッドとドラコーンを軸にした話だったので、その2人を演じる小野さんと杉田さんのお芝居を確認させていただいたんですが、聞いてみて「これはいけるぞ」と。そこで2人が突破口を開いたので、(ヒナホホ役の)藤原(啓治)さんとか(ジャーファル役の)櫻井(孝宏)さんも問題ないだろうと確信して。なので小野さん、杉田さん以降はオーディションを行っていないんです。
「マギ」から「シンドバッドの冒険」への継承
──小野さんとしては、オーディションの話を聞いたときに「ほかの人にシンドバッド役を譲りたくない」といった思いはありましたか?
小野 お話をいただいたときは「やりたい」という気持ちと、「継承したい」という気持ち、両方ありましたね。というのも、「マギ」から「シンドバッドの冒険」が制作されるにあたり、監督は舛成(孝二)さんから宮尾さんにバトンタッチされて。
宮尾 (制作)スタジオ自体が違うので、本当にガラッと変わったと言えます。
小野 原作マンガの「マギ シンドバッドの冒険」も大高(忍)さんから大寺(義史)さんへ、師弟関係である2人がバトンを繋いでいて。そうやって「マギ」から「シンドバッドの冒険」へ、信頼できるスタッフさんへと継承されていったのかなと思ったんです。だからキャストもそうなる可能性は十分あり得るなと感じていましたし、どちらになったとしても正解だと思っていました。そういった流れでキャストを僕らに決めていただいたので、僕や杉田くん、ひいてはキャスト陣が「マギ」の血を受け継いで、「シンドバッドの冒険」に注ぎ込まなきゃいけないという責任はすごく感じましたね。
宮尾 皆さんプロとして非常に責任感のあるキャストさんばかりだったので、まったく新しい配役で始める緊張とはまた別の緊張感がありましたよね。
小野 そうですね。物理的に若くならないという課題もありましたし。
宮尾 そこが苦闘の始まりだったわけです。
小野 ただ、僕としては杉田くんがいてくれたのはすごく頼りになりました。
宮尾 僕が監督として見ていて面白いなと思ったのは、若い頃のキャラクターを演じるにあたって、やっぱりお二方のアプローチの仕方に違いが出ているなと思ったんですよ。その違いを監督としては楽しんでいたりもして。
小野 なるほど。
宮尾 やっぱり小野さんは……。
小野 あ、ニヤニヤしてる(笑)。
宮尾 いや、ニヤニヤだけじゃないですよ(笑)。僕から見ると、小野さんは年齡に対して正面から挑んでくれていたという感じがしました。「マギ」本編で見ていた大人の姿に対し、彼らの出発点である子供時代というのは、まだ誰も見たことも聞いたこともないんですよね。1人のキャラクターとして繋がっているとはいえ、逆算や理論だけでは作れない部分があって。
小野 そうですね。
宮尾 杉田さんの場合は、キャラクターの背景や奥行きを自分なりに考察するところから始めて、そこからドラコーンの存在理由みたいな部分を追い込む中で、キャラクター像をひねり出していく。そういった気合いを感じました。
小野 僕も最初は、シンドバッドの声のチューニング、いわゆる技術的なアウトプットの仕方で結構悩んでいたんです。だけど絵と合わせて演じたときに、すごくすんなりと決められたんです。子供に見えるように演じるというよりかは、精神的に未熟な部分やブレている部分を出していくことで、実は大人になった彼らを演じるときのアウトプットの仕方と大幅に変える必要がないのかもしれないと。精神的な面では、同じ場所から始まって大人の彼らにたどり着くわけですから。だから変に小手先で声を変えるってことではないんだなと。
宮尾 ただ声を若くするってことじゃないんだよね。
小野 そうなんです。精神的な部分がちゃんとシンドバッドであること、ドラコーンであることがもしかしたら大事なのかもしれないと。まあ、本当に僕らも無我夢中でやっていただけなんですけどね。でも杉田くんもそうやって真摯に受け止めたうえで、すごい熱量でやってくれたので、僕としてもめちゃめちゃ楽しかったです。そういう意味では杉田くんと青春したなって思います。この歳になって青春を演じられたっていうのは、純粋にうれしかったです。
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- Contents Index
- 小野大輔×宮尾佳和監督対談
- 羽多野渉インタビュー
- 「マギ シンドバッドの冒険 COMPLETE BOX」 / 2016年8月24日発売 / アニプレックス
- Blu-ray BOX / 32400円 / ANZX-12361~5
- DVD BOX / 29160円 / ANZB-12361~5
ディスク5枚組
映像Disc1:1話~5話
映像Disc2:6話~10話
映像Disc3:11話~13話、特典映像(PV・CM・新規映像)
映像Disc4:OAD版1話~5話
音楽CD:サントラ+キャラクターソング
パッケージ特典
- スペシャルイベント「シンドバッドと行くサンセットクルーズ」参加応募券
- 原作者・大寺義史描き下ろしスペシャルBOX
- キャラクターデザイン・佐古宗一郎描き下ろしジャケット
- 特典CD:オリジナル・サウンドトラック、キャラクターソング「Life goes on」
キャスト
シンドバッド:小野大輔
ドラコーン:杉田智和
ジャーファル:櫻井孝宏
ヒナホホ:藤原啓治
ミストラス:羽多野渉
ユナン:石田彰
バドル:小西克幸
エスラ:日笠陽子
セレンディーネ:茅野愛衣
バルバロッサ:子安武人
バアル:東地宏樹
©大高忍・大寺義史/小学館・AOS PROJECT
小野大輔(オノダイスケ)
高知県出身、1978年5月4日生まれ。主な出演作は「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ(空条承太郎)、「黒執事」シリーズ(セバスチャン・ミカエリス)、「おそ松さん」(松野十四松)など。
宮尾佳和(ミヤオヨシカズ)
長野市出身。武蔵野美大学視覚伝達デザイン科卒業後、株式会社NHKアートデザイン部に入社。テレビグラフィックデザイナーを経て、アニメスタジオに入社し、1年半後フリーに。テレビアニメ「イナズマイレブン」などでアニメーション監督務めるほか、CMの演出、さまざまな企画の立案、デザインの提案、JリーグAC長野パルセイロのクリエーティブディレクターなど幅広い分野で活動している。