「ウィーアーリトルゾンビーズ」原田ちあき×長久允|超絶望的でも、世界は灰色じゃないですから!!!!

No.5210番目ぐらいの感情を探してあげたいし残してあげたい(長久)

──ここでおふたりに、作家同士としてのお話もお伺いできればと思います。

長久 原田さんは、どういう気持ちでアウトプットをされてるんですか?

原田 私、褒められるのが好きなんです(笑)。あまり褒められて生きてこなかったので。あと小さい頃は死ぬのがめちゃくちゃ怖くって、死ぬまでに何かをしなきゃいけないと思ってたんです。だから自分が死んでもずっと残る本とかが出せたらいいなって、そのためにがんばってたところがあります。

原田ちあきのイラスト。

長久 イラストに入れているフキダシのセリフとかはどう思いついてるんですか?

原田 初期の初期は、本当に腹が立ったことを全部描いていました。でも描き続けてたらだんだん、怒ることができなくなってしまって。怒りを出しすぎたんです(笑)。

長久 怒りの貯金がなくなったんだ(笑)。

原田 もう怒るというより、人間ってかわいい!みたいな感情になってきちゃって。だから今度は自分以外の怒っている人を見て、「よしよし、そんなこともあるよね」って慰めるような感じで描き出したりしています。

長久 基本的に怒りなんだね。怒り、それに嘆きの混ぜ合わせのような。

──長久監督は喜怒哀楽だと、どの感情から作品を作られるんですか?

長久 そういう意味で言うと、僕は喜怒哀楽にハマらないゾーンの感覚を得た瞬間にピンときた言葉をメモったりします。この映画にも使いましたけど、「タコの知能は3歳児」みたいなのとか。何か意味が掴めそうだけど、明瞭じゃない言葉群が好きなんです。世の中には喜怒哀楽に分類されないゾーンがまだ1万個ぐらいあるけど、その存在が認められなさすぎてると思っていて。だから作り手の使命感として、No.5210番目ぐらいの感情を探してあげたいし残してあげたいなと。

──人間の上のほうにある感情が喜びや悲しみだとしたら、名前もつけづらいような複雑な感情ということですね。

長久 今回の映画も子供たちは悲しんでないけど、何かほかの感情を持ってるんじゃないかという話がしたくて作りました。

「空がピンク色でも地面が緑色でもいい」って飛呂彦が言うなら!(原田)

──長久監督が、この映画をポップな色遣いで作った理由はなんですか?

映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」より。子供たちがコンビニで万引きをするシーン。

長久 うーん、なんでしょう。やっぱり両親の死ってテーマとしては悲しいですけど、子供たちは落ち込むわけじゃない。4人にとって世界は灰色じゃなく、色鮮やかに見えていることを表現したかったんです。劇中でヒカリの「現実のことを見下している」というセリフがありましたけど、あれはポジティブな意味として使っていて。現実世界をそのまま描くより、想像の中のフィルターを通したほうがキラキラしてたりぐちゃぐちゃしてたりで逆に面白い。それをメッセージとしたわけではないですけど、前提として思っていたのでこういう色遣いになったんだと思います。

原田 カッコいい。

長久 原田さんはどうしてあの配色でイラストを描いてるんですか?

原田 Twitterにイラストを投稿してたら、4コママンガを連載してくださいというお仕事をいただいたんです。そこで初めてマンガを描くことになったんですけど、実は私、カラーがすごく苦手で。どうにかして白黒で描かせてもらえませんかって何回か交渉したんですけど、やっぱWebはカラフルなほうが見てもらえるよって言われたんです。じゃあ全部のコマごとに顔とか髪の毛の色を変えたら、出版社の人も嫌がってやめていいよって言ってくれないかなって思って(笑)。

長久 逆にね!(笑)

原田 でも白黒でいいよとは言われなかった。

映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」より。

長久 配色がいきすぎているというか、見る人にちょっとグロさを与えるじゃないですか。それについてはどう思われてるんですか?

原田 私、「ジョジョ(の奇妙な冒険)」の荒木飛呂彦さんが大好きで。前に荒木さんがなんかのインタビューで、「空がピンク色でも地面が緑色でもいいんじゃない」みたいなことを言っていたんです。それ見て、飛呂彦が言うなら!と思って(笑)。

長久 確かにね。俺も今すげえその言葉に影響された(笑)。

僕の幼い頃みたいに、クラスで浮いているような子を救えれば(長久)

原田 劇中でヒカリの母の出産シーンがあったじゃないですか。あれは長久監督の第2子さんですか?

長久 そうです。映画に使うつもりじゃなく、普通に記録としてカメラを回していたもので。声だけ蔵之介さんにお願いして、立ち会ってるふうにやってくださいって言いました。

原田 なるほど、新生児が産まれるシーンを撮る機会がそんなにないだろうなって。

長久 シナリオ描いてから、もっとベストアングルで撮れないかなって思っていろんな人に声かけたんですけど、やっぱり撮らせてもらえなくって(笑)。でも結局、僕が作った話だから、自分のものを使うリアリティも必要性も感じて、まあいいかなと思ってるんですけどね。

原田 アングルが定まってなくって、パパみを感じました。

長久 (笑)。

──最後に、原田さんがこの映画から受け取ったものを教えてください。

原田 本当に、子供って大人が思うよりも、ずっと大人だったなってことを思い出せました。年を重ねるにつれて子供という武器が使えなくなるだけで、子供も大人もそんなに変わらない気がします。

映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」より。

長久 そうそう、中身は同じような気がしますね。僕も13歳の頃と、思考回路はそれほど変わってないと思う。ちょっと視野が広くなって、他人が何を考えてるのか想像することができるようになった感じ。

原田 経験値が重なるだけで、ある日いきなりコロッと大人になるとかでは決してないですもんね。

──長久監督はこの映画をどんな人に観てもらいたいですか?

長久 一番観てもらいたいのは、LITTLE ZOMBIESのみんなと同じ年代の子たちです。この映画は上手に生きている子供たちのお話ではないので、僕も幼い頃そうだったように、クラスで1人だけ浮いちゃっているような子とかを救えないかなと思っています。おこがましいかもしれませんが(笑)。大人でも忘れていたことを思い出せたりするはずなので、幅広い方々に観ていただけたらうれしいです。

原田ちあきと長久允。

原田ちあきが「ウィーアーリトルゾンビーズ」のイラストを描き下ろし!

原田ちあきの描き下ろしイラスト。