上手なものより、キーがずれてるぐらいのほうがドキドキする(長久)
──原田さんはミュージシャンのCDジャケットやグッズを手がけるなど、音楽と結びつきが強いイメージです。本作には90曲ものトラックが使用されているそうですが、お気に入りを挙げるとすると?
原田 やっぱりこれですよ、テーマ曲の「WE ARE LITTLE ZOMBIES」。耳に残りますよね、風呂で歌っちゃいました。
長久 ぜひ風呂で響かせてください。宣伝活動をお願いします(笑)。
原田 この曲はカッコいいです。映画のサンプルDVDもお借りしてるんですけど、YouTubeに公式MVとして上がっている映像も見ちゃいました。似たような美術背景になってるからか、関連動画にサカナクションの「新宝島」が出てきてちょっと笑っちゃいましたけど。
長久 気に入ってもらえてよかった。このシーン撮るのすごく楽しかったですね。4人も本当にバンドの練習をして、イシを演じた(水野)哲志くんとかは一度もドラム叩いたことないぐらいのところからめっちゃ上手くなったんで。
原田 本当に演奏してらっしゃるんですね。
長久 そうなんです。音源としては使える音しか拾ってないですけど、現場ではちゃんと演奏してもらいました。毎日超練習してましたもん。実際にソニーミュージックさんからメジャーデビューさせていただいて、楽曲はサブスクで聴けるようになってるんです。音楽番組とかも全然出られるから、オファー欲しいんですけどね(笑)。
原田 お歌もわざと、平坦に歌ってるってパンフレットで読みました。
長久 上手なものより、キーがずれてるぐらいのほうがドキドキするんじゃないかなと思って。しかもある意味、それってこの子が下手でも歌いたいということの証明でもあるので。でも(二宮)慶多くんは本来上手い子だから、きっとヤキモキしてると思います。「僕、こんな下手じゃない」って(笑)。
──この3分間の映像は劇中でマネージャーの望月が収めたものとして、iPhoneを使って撮られているんですよね。その後、LITTLE ZOMBIESがメジャーデビューし、きらびやかな衣装を着用し「WE ARE LITTLE ZOMBIES」をライブで歌います。
長久 あの衣装は、実際のゴミで作ってるんです。ヒカリの衣装はブルーシートとか、ゲームの基盤を拾って頭の上につけたり。イシくんは両親が火事で亡くなってるのに、ガス栓が腰元に巻きついてたり。衣装を担当してくれたwrittenafterwardsの山縣(良和)さんと、ゴミを加工していかにキラキラ見せられるかってことを考えてキャッキャキャッキャ作りました。
原田 楽しそう。
長久 あと映画には全然使ってないんですけど、エンディングの「ZOMBIES BUT ALIVE」もシンガポールにまで行ってPV撮ってるんです。予算わずかで、ハンディカムだけ持って。すげえかわいいんで、ぜひ見てほしい。
原田 えー、見たい!
──では、みんなで視聴してみましょうか。
原田 (視聴後)なんてかわいい! ヤバ合成とか、チープな感じがいいですね(笑)。
長久 ヤバ合成(笑)。
──テーマ曲もiPhoneでの撮影でしたけど、これも撮影用の機材ではないんですね。
長久 そう、家庭用で1万円ぐらいの。僕、ハンディカムのデジタルズームがすごい好きなんです。ピントが合うまで遅い、ださズーム(笑)。
原田 (笑)。
長久 みんな、やらされてる感もかわいいでしょ。ちょっと嫌々やってる(笑)。
──本作で子供たちはバンドを通じて感情を取り戻すまでの冒険をしますが、長久監督がスポーツなどではなく、音楽をテーマに選ばれたのはどうしてですか?
長久 ひとつ簡単な理由は、僕がバンドをやっていたから。ヒカリには僕の幼少期が反映されているんです。タワーマンションの上のほうに住んでいて、親が共働きで、ゲームとかも超やってて、境遇が近いってことで自然と選びました。でもやっぱり音楽って、スポーツとかよりも発散したいという気持ちがないとできないというのが大きいと思っています。観る人に気付いてもらえなくてもいいんですけど、そもそも子供たちには感情があったということを表現したかったんです。
──なるほど。しかも音楽が流れた瞬間に、観るほうも心をガッと掴まれますもんね。
長久 そうですね。下手とか不器用でも、こっちにちゃんと伝わるものがある。スポーツとかってやっぱり勝たなきゃいけなかったりするけど、音楽って単なる上手い下手で勝ち負けが決まるものではないじゃないですか。もう、何かを表明している時点で価値がある。
原田 そっか。前に立って表現してるし、わかりやすいですしね。
ボーダーの服を着た哲志くんには誰もおよばない(長久)
──俳優さんではない方々が多く出演されているのも本作の魅力ですが、原田さんが一番テンション上がった方はどなたですか?
原田 個人的にクリトリック・リスのスギムさんです。大阪のライブハウスでよく一緒にイベントをやってるんですけど、スギムさんが画面の中にいると笑っちゃいました。
長久 スギムさん、いいっすよね。前作の短編(「そうして私たちはプールに金魚を、」)でもオイシイ役で出てもらって。ライブでの佇まいがめっちゃ好きでオファーしました。
──かっぴーさんや五月女ケイ子さんといった、画業で活躍されてる方たちもいらっしゃいましたよね。お芝居が本業ではない方々にオファーしたのには何か理由があるんですか?
長久 なんというか、僕は演技らしい演技が好きってわけでもなくって。日常って感情の振り幅はそれほどないじゃないですか。役者さんはもちろん必要なんですが、役者さんじゃなくても大丈夫だと思っている役がけっこうあるんです。ミュージシャンやアーティストの方ってそのままで魅力があるから、セリフをしゃべってもらうだけで充分に伝わるだろうなと。かっぴーさんなんかはすごく仲良くて、よくご飯行くんですけど、ずっとスマホ見てるんです。だから今回は、スマホ中毒っていう設定の音楽会社社員役に(笑)。ほぼ当て書きというか、この人がこう言ったらいいなというのをイメージしながら全部書きました。
──子供たちのセリフ回しが朴訥としていたのも、演技重視ではないところからでしょうか。
長久 そうですね。テキストを伝えたいときに、演技として感情の波が大きいとそっちのほうに先に目がいってしまうと思うんです。だから、演技を抑えてセリフを言ってもらったほうがいいなと。でも子役の方々って演技の幅が豊かなので、それが逆にできなかったりするんです。フラットで朴訥な言い方ができて、画になる子を探すのは苦労しました。
原田 へええ。
長久 タケムラ役の(奥村)門土くんとイクコ役の(中島)セナちゃんは、これまで演技経験がゼロ。門土くんは似顔絵描きとして活動していた子だけど、台本を読んでもらったらめちゃくちゃ魅力的で。超ピュアに読んでくれるんです。ヒカリ役の慶多くんなんかは役者としての技術が高いから、器用にそういうこともできる。イシ役の哲志くんはもう、ビジュアルが一発で100点だから(笑)。
原田 あはは(笑)。
長久 この子には誰もおよばない。だって、オーディションでボーダーの服着てくるんですよ(笑)。
原田 より体格を強調させてる(笑)。
長久 わかってんなー!みたいな(笑)。速攻で決まりました。
蔵之介さんと野いちご摘みに行きたいな(原田)
長久 原田さん、さっき取材前に(佐々木)蔵之介さんが性的に好きって言ってましたよね。
原田 ちょっとー!!
長久 言っちゃダメか(笑)。
──佐々木蔵之介さんはヒカリのパパとして出演されていましたね。妻とバスで野いちご狩りツアーに行って、交通事故で死んでしまうという。
原田 蔵之介さん、皮膚が薄そうなところがいいんですよ。
長久 ほんと骨がエロくてねー、素敵でした。パンフのキャラ紹介でもいい顔してますよね。こっちを見透かしてるような。
原田 やましいこととかも考えられない。
長久 全部ね、蔵之介さんにはバレてると思う。でも、バレた上で優しい。「いいよいいよ」って言ってくれるタイプだと思います。知らないけど(笑)。
原田 いつか願いが叶うのならばデートしたいですね。一緒に野いちご摘みに行きたいな。
──原田さんの好み的に、LITTLE ZOMBIESのマネージャー役だった池松壮亮さんはどうですか?
原田 若すぎる……!
長久 池松さんで若いの? まあ、確かにあの役は24歳ぐらいの雰囲気でしたしね。
原田 「何様だ」以外の言葉がないのですがお付き合いするには若すぎる……! 個人的に渋みのある人がタイプなんです。
長久 渋みかー。それで言うと、佐野史郎さん超渋かったっすよ。
原田 はっ、確かに渋い!
長久 やっぱり演技めっちゃ上手いんですよ。結局使わなかったんですけど、1つのセリフを別のアングルから10テイクぐらい撮ったんです。それがもう、スピードもイントネーションも全部同じ。ロボットかっていうぐらい精密な演技をされるんです。プロってこういうことかって思いました。
原田 すごい。見かけもロボっぽいですもんね。
長久 (笑)。あれは感動したなあ。