デモテープを聴いて、一番いいと思ったのが下野さんと大西さん
──では1月から放送されたアニメについてお話伺っていければと思います。ご覧になったご感想はいかがでしょうか。
今現在放送されている4話までの中だと(※取材は2月上旬に行われた)、養護施設にいるシャトーを養父が迎えに来るシーンがすごくよかったです。小さいシャトーもすごくかわいくて。あとは率直に、自分がマンガで描いていた絵が動くっていうのは感慨深いものがありました。実はアニメーターになりたいと思っていた時期があったのですが、それはある程度アニメの絵が描ける技術がないと難しいということで断念し、普通に就職したんですよね。卒業制作でアニメを作ったこともありまして、何千枚レベルで描かないとちゃんとしたアニメにはならないということも経験していたので、なおさらでした。
──キャストの方々の声を聞いた印象はどうでしたか。以前リャンハ役の下野紘さんとシャトー役の大西沙織さんにお話を聞いた際、おふたりは「素の自分とはギャップがある」「意外なキャスティングだった」とおっしゃっていました(参照:「殺し愛」大西沙織×下野紘、自分とギャップのあるキャラを2人はどう演じた?)。
お恥ずかしながらここ10年くらいのアニメに疎く、おふたりにどういうイメージが定着しているのかを知りませんでした。でもデモテープを聴いたときに一番いいと思ったのが下野さんと大西さんでして。私の想像力をはるかに越えた、シャトーの心情の機微みたいなものを映像に落とし込んでいただいたんじゃないかなと思っています。あとジノン役は当初女性の方がいいと希望を出していたんですけど、「村瀬(歩)さんに決まりました」ということでお聞きしたら、成人男性とは思えない声のトーンで。ちょっとヤバそうな奴感も出ていて、すごくいい方をキャスティングしてくださったなと思いました。ドニー役の大塚(芳忠)さんもあんなにすごい人が来ると思っていなくて、「『亜人』の佐藤さんかー!」と、いい声だなと思いながら聞いていました。ニッカ役の森田(成一)さんも、「TIGER & BUNNY」のバーナビーのイメージを思い浮かべていたのですが、ヤンキーみたいな声を出されていたので驚きました。
──Feさんはアフタードラマの原作を担当されていらっしゃいますが、キャストも意識されたのでしょうか。またお話を作るうえで意識したこともお聞きしたいです。
すごい声優さんに集まっていただいたので、自分が用意したシナリオを読んでもらえるという職権乱用みたいなことを意識しました(笑)。社長(リッツラン)役の堀内(賢雄)さんに無茶な演技をさせてしまおうとか、大塚さんに過保護なオヤジのようなセリフを言わせてみようとか。#3.5では、私が「ウォーキング・デッド」の吹替版を観ていたこともあり、主役の声優を務めていたスンウ役の土田(大)さんにいっぱいしゃべってもらおうと、かなり私利私欲に走りました(笑)。あと本編はシリアスめかつみんながローテンションなシーンが多いので、おまけ部分にあたるアフタードラマはテンションアゲアゲな内容で、本編を壊さない程度のコメディになればいいかなと考えて作りました。
※アフタードラマはKADOKAWA animeチャンネルにて期間限定で公開中。公開終了後はパッケージ封入特典のドラマCDに収録される。
やっぱり音楽の力、映像の力ってすごい
──アニメ放送前のインタビューで「劇伴がすごくかっこいい」とおっしゃっているのを拝見しました。実際に放送が始まってどう感じましたか?
作中の曲を作ってくださった吉川慶さんは、TVドラマでも音楽を作っていらっしゃる方で、重厚な雰囲気がアニメの映像にハマっていると感じました。その空気感はマンガでは絶対にない表現なので、やっぱり音楽の力、映像の力ってすごいなあと思います。
──オープニング、エンディングについても大庭秀昭監督や制作サイドがこだわって作られたとお聞きしました。
オープニングもエンディングも本当にめちゃくちゃいい歌を作っていただいて……。正直なところ、ドンピシャで自分が好きなタイプの曲は来ないだろうと思ってあまり期待しすぎないようにしていたのですが、どちらも私がとても好きな感じの曲だったので今はただうれしいばかりです。あとオープニングで、ニャンニャト(※猫のシャトーとリャンハのこと。ニャンハとニャトーの略称)が目にも留まらぬ速さで走っていったのは、めちゃくちゃ笑ってしまいました(笑)。プラチナビジョンさんからニャンニャトをオープニングに入れたいという話を伺っていて、任せますとお伝えしていたのですが、結果的には遊び心があってよかったと思います。
──エンディングやアニメ製作ではどのような部分に携わったのでしょうか。と言いますのも、FeさんのTwitterで「エンディングに意見を取り入れていただいた」と拝見しまして。
当初は「エンディングの絵コンテを描きませんか」っていうご提案をいただいていて、私もめちゃくちゃ乗り気だったんですけど、スケジュール的な都合ですぐその作業に着手することができなくて。それでもちょっとは関わりたいということで、会議の場でラフスケッチを何枚か提出させてもらいました。そのラフが、エンディングでシャトーが図書室をウロウロしているものでした。そのほかは、アニメ全12話の制作方針を話し合うシナリオ会議に毎回参加させていただいたり、アニメ制作サイドの方から「このシーンで使っているこの車にモデルある?」みたいな質問があったときにお返事したりとか。
──音楽つながりの質問になるのですが、「殺し愛」という作品に対してイメージソングはお持ちですか?
吉井和哉さんがYOSHII LOVINSON名義で発表された「CALL ME」という曲を、リャンハのイメージソングだと考えていた時期がありました。シャトーには鬼束ちひろさんの曲を当てたい気持ちがあります。「月光」とか「眩暈」とか、初期のアルバム1枚目、2枚目あたりの曲がすごい好きなので、そのどれかでしょうか。最終的にはキャラ全員がnobodyknows+さんの「ココロオドル」を熱唱しながら幕を下ろすのが理想です(笑)。
──Feさんご自身が執筆の際によく聞かれる曲はありますか?
テレビを流したりYouTubeの実況動画を流したりすることが多いです。あと「NINKU -忍空-」の歌が本当にどれもめちゃくちゃよくて。オープニング曲の「輝きは君の中に」とか、聞いているだけで何回慰められたかってくらい。一番大好きなアニソンです。
アニメの先のてんやわんやをぜひ読んで
──今回アニメ化されたのは、原作で言うと7巻の内容までかと思います。アニメから入った人に向けて、8巻以降の見どころをお伺いできますか。
アニメでやったエピソードが終わってからがてんやわんやしているので、アニメで興味を持ってくださった方にはぜひその先も読んでいただきたいです。味方陣にも、ようやく新しいキャラが加わります。
──ずっと原作を追いかけているファンの方々にもひと言お願いいたします。
がんばって終わらせます! 13巻で完結予定ですが、もし終われなかったら続きはWebでお願いします(笑)。
──(笑)。気が早いかもしれませんが、次回作の構想などはあるのでしょうか?
なんとなくこんなキャラクターやこんな世界観で動かしてみたいな、というのはありますが、正直決まってないです。どういう形になるかはわからないですけど、今は発表の場がどこにでもあるというありがたい環境ではありますし、描くこと自体は好きなので何かしら続けていけたらと考えています。
──最後に、ちょっとしたお遊びの質問をさせてください。「殺し愛」の単行本のおまけページには、「シャトーサンガ顔面蒼白ニナルアオリランキング」という人気のコーナーがありますよね。11巻までに、第7回までランキングが発表されていますが、今回このランキングの歴代1位から、さらにベスト3を選んでいただけないでしょうか。
- 第1回(2巻掲載)
- 「この愛の終着駅が君の涙でできているのなら、僕らの進む道には死の花が咲き誇っているだろう。」(第1話・扉)
- 第2回(3巻掲載)
- 「心の奥は 震えているよね。」(第17話・扉)
- 第3回(4巻掲載)
- 「この雨で流すには 僕の心は熱すぎる。」(第19話・扉)
- 第4回(5巻掲載)
- 「死線を越えて再開したふたり──…。静かに手を結びあって。」(第30話・最終ページ)
- 第5回(6巻掲載)
- 「僕の愛ごと殺してくれる?」(第31話・扉)
- 第6回(8巻掲載)
- 「抱きしめたい。そして、心まで溶け合えたら。」(第42話・扉)
- 第7回(10巻掲載)
- 「悪夢(ナイトメア)より、運命の歯車に狂い咲こうか──。」(第53話・扉)
並ぶと壮観ですね(笑)。3位は「この愛の終着駅が君の涙でできているのなら、僕らの進む道には死の花が咲き誇っているだろう」です。アニメの第1話でも使ってくださっていたんですが、アニメしか知らない人に「この原作者、正気でやっているのか?」と思われてしまいそうなのがつらいところです(笑)。原作を読んでくださっている方々は、おそらくギャグで入れているとわかってくれると思うんですけど……。2位は端的で強引な感じがすごく好きなので、「心の奥は 震えているよね」です。
──では堂々の1位は?
「この雨で流すには 僕の心は熱すぎる」です。当時の担当さんはこれを、どんな場所でどんな顔をしながら考えていたんでしょうか(笑)。マンガも正気じゃ描けない側面はありますが、アオリも正気じゃ考えてられないよなという感じですごくいいですね。
- Fe(エフイー)
- 2012年よりpixivで「殺し愛小話」シリーズを発表。2015年、同作を商業作品として仕切り直す形で、月刊コミックジーン(KADOKAWA)で「殺し愛」の連載をスタートさせる。2022年1月には同作がTVアニメ化を果たした。