「殺し愛」は女賞金稼ぎ・シャトーと、賞金首でありながら彼女に近づく殺し屋の男・リャンハの関係を描いたサスペンス。月刊コミックジーン(KADOKAWA)にて2015年より連載され、2021年12月現在で単行本が11巻まで刊行されている人気作が、2022年1月よりTVアニメとして放送される。
コミックナタリーではアニメでシャトー役を演じる大西沙織と、リャンハ役を演じる下野紘にインタビューを実施。これまで揃ってメインキャラクターを演じることはなかったという2人だが、取材中は終始アットホームな雰囲気で、アニメや原作マンガの魅力を語ってくれた。普段から互いをよく知る大西と下野は、シャトーとリャンハというキャスティングを意外にも感じたという。素の自分とギャップのあるキャラクターを、2人はどう演じたのか。特番で披露されたサバゲー対決の意気込みなども聞いているので、最後までお見逃しなく。
取材・文 / 鈴木俊介撮影 / ヨシダヤスシ
STORY
とある「仕事場」で対峙する2人の殺し屋。クールな賞金稼ぎの女・シャトーと謎多き最強の男・リャンハ。
シャトーはこの交戦をきっかけにリャンハと敵対──するはずが、なぜか彼に気に入られ、つきまとわれることに。彼女はなし崩し的にリャンハと協力関係を結んでしまうが、彼を狙う組織との抗争に巻き込まれていく。さらにその戦いは、彼女の過去とも関係しているのだった。
リャンハはなぜシャトーに接近するのか。シャトーに秘められた過去とは。相性最悪の2人が織りなす、「殺し屋×殺し屋」の歪なサスペンス。奇妙な運命の歯車がいま動き出す。
「下野さんがリャンハ?」って意外に感じました(大西)
──今日は先に写真撮影からさせていただきましたが、撮影の間もおふたりの和気あいあいとした雰囲気が印象的でした。下野さんと大西さんの組み合わせって新鮮にも感じるのですが、改めてお互いの印象をお聞かせいただけますか?
下野紘 確かにレギュラーが一緒になることはこれまでなかったですね。もちろん事務所で会ったり、共演したことは何回かありましたが。でも、会うとけっこういろいろ話すんですよ。だからきっと、話すのが嫌いな子ではないんだろうなって。
大西沙織 嫌いじゃないですね(笑)。
下野 そうだよね(笑)。アフレコ現場でも今回、2人で録ることがけっこう多くて。シャトーもリャンハもアフレコ中はすごい静かなんですけど、「今のテイク確認しますね」って中断が入った瞬間に、2人ともしゃべりはじめる。
──(笑)。それは1回目の収録から?
下野 1回目からそうでしたね。
大西 うるさかったですね。
下野 俺らが言うことじゃないけど(笑)。うるさかったですね。
大西 (笑)。私は、声優になる前から下野さんの存在は知っていましたし、好きな作品にも参加されていた方だったので、偉大な先輩みたいな……。
下野 ははは(笑)。
大西 イメージがあったんですけど、事務所で会うたびに「あれ?」って(笑)。偉大な先輩像が、いい意味で崩れていったというか。ド新人だった私に対しても、すごくフランクにお話してくださったので、「この方はたくさんお話ししていいんだな」と。それこそ、先ほど下野さんが私のことを「話すのが嫌いな子じゃないだろう」とおっしゃっていたみたいに、相手がどんな人なのかなというのは考えるんですよね。下野さんは、私の中で「たくさんお話してくださる先輩」っていうカテゴリに入っています。なんか、根っからひょうきんというか……。
下野 (笑)。ひょうきんっていう表現を久しぶりに聞いたよ。
大西 はしゃいでも大丈夫な先輩って感じがして。
下野 ああ、まあそうね。
大西 そのイメージが強かったので、今回「殺し愛」でリャンハとシャトーになると聞いたときに、「え? リャンハ? 下野さんが?」って意外に感じました。
──リャンハは、おちゃめな面もありますが、基本的にはクールなキャラですもんね。
大西 そうですよね。私も私で、「大西がシャトー?えーっ! 意外!」ってなる方もいると思うのですが。
下野 そう考えると、お互いが相手に持っている印象とキャラクターとの差はすごく大きいかもしれないね。「シャトーってこんな感じなんだ」「リャンハってこう来るんだ」って、お互い感じていたと思う。
大西 なので、1話のアフレコが始まるまでは妙にドキドキしていました。下野さんがどういうリャンハで来るのかわからないし、私のシャトーも下野さんは知らないだろうし。
下野 今こうして話してる大西から、シャトーは想像できないですからね。アフレコの間もずっと世間話をしていて。
大西 もちろん作品のことも話したりしているのですが、世間話と半々くらいでしたね。
下野 最初の頃は「ほかのキャラクターは誰がやるんだろうね」とか、原作が長いので「アニメはどこまでやるんだろう」みたいな話とか。
大西 作品的に、たまにコミカルなシーンはありつつも、全体的には張り詰めた空気感が続いていくので、合間で緊張を一旦ほどいて、楽しくおしゃべりをして。またキャラクターを演じるときにはピッと張り詰めた空気で。
下野 お互いにそうだったと思うけど、普段の自分よりも制限がかかったようなしゃべり方をしていたので。解き放たれるんでしょうね。
なりふり構わず信念を貫く、その気持ちは多少なりとも理解できます(下野)
──ご自身が演じるキャラクターに対しては、どういう印象を持たれましたか。
下野 リャンハは本心が見えないキャラクターですよね。ヘラヘラしていたかと思いきや、急にピリッとしたりもするっていう。掴みどころのないキャラクターだなというのは、原作を読みながらも感じていたのですが、アニメの収録が始まってからよりわからなくなってしまって。「このセリフは本心なのか? いや、でも……」みたいに悩むことが多くて、「あっ、少なくともここだけはブレてないかも」と掴むまでにちょっと時間がかかりましたね。
──その掴めた部分というのは、具体的にはどんなところ?
下野 話が進んでいくと、シャトーに対してもいろんな接し方をするのですが、それが本当に「好き」という気持ちからなのか、それとも何か目的があってのことなのかわからない。けれど“シャトーを大事に思っている”、“彼女を必ず守る”ということだけはブレないんだなと思ったんです。そこには何か思惑があるとかではない。だからそこだけは大事にやっていこうと思いましたね。
大西 私は下野さんと逆で、初めはシャトーのことを意外とすんなり掴めたんです。クールで、感情を表に出すことはないけれど、気持ちはちゃんとあるし、ロボットって感じではない女の子なんだなって。「よし掴めた!」って思っていたのですが、収録が進むうちにだんだんシャトーがわからなくなっていったというか……。中盤から後半にかけて、シャトーの意外な面だとかが色濃く出てくるようになると、最初に掴んだシャトーだと「あれ? なんか違うな」と感じてしまう。「こんなに人間味を出してたっけ?」と思って、初心に立ち返って確かめたりしました。
──まだ2巻が発売されたくらいの頃、コミックナタリーで著者のFeさんに取材させていただいたことがあるんですけど、そのときFeさんが「主人公の2人に読者の方はあまり感情移入できないと思います」とおっしゃっていて。おふたりはその部分、どうでしたか?
下野 そういう意味では、僕は最初難しかったです。でも話を読み進めるにつれて、不思議な関係性ではあるけど、“シャトーを守る”というのがリャンハにとっての信念というか、本当に大事なことだってわかって。そのためなら自分自身もなりふり構わないみたいな、そういう気持ちは多少なりとも理解できるなと思います。
大西 私は演じていく過程で、シャトーがわからなくなるところはあったんですけど、それと同時に、人間味がたくさん出てきたことでようやく私の今まで生きてきた引き出しから演技を構築できるようになったというか……。私はキャラクターを演じるときに、そのキャラクターのことを考えながら、どこかに自分の経験や、吸収してきたものをちょっと添えるんです。だけど最初の頃のシャトーは、それこそ感情移入するのは難しくて。自分の引き出しから何かを出すというより、シャトーってどんな子なんだろうと考えに考えて、その考えだけで演技をしていた感じでした。後半になるにつれて、シャトーも人間なんだなと共感できる部分が増えてくると、自分の引き出しからも演技ができるようになって。不安になるのと反比例でしたね。
リャンハとシャトーの関係性が、刺さりすぎる(大西)
──「殺し愛」はサスペンスあり、アクションもあり、そして恋愛もありと、いろんな魅力があると思うんですけど、おふたりはどこに強く惹かれましたか。
下野 やっぱり展開ですかね。そんなに慌ただしく時間が過ぎていくわけではないのに、息をつかせてくれないというか。一段落するかなと思いきや全然しない。僕はそれで、どんどん読み進めてしまいました。
大西 もうすでにいろいろなところで言っているのですが。リャンハとシャトーの関係性が、刺さりすぎてやばいんです。お話もすごく面白いのですが、この2人の関係性にすごく惹かれました。なんか「いいな」って。私にもリャンハみたいな人が現れないかなって(笑)。こんな人が現れてくれたら最高じゃないですか?
下野 この話が出るたびにいつも思うんだけど、やばいよ(笑)。ときどき力でなんとかしようとする奴ですよ。
大西 別にいいんです。「私のために!」って思う(笑)。でも、リャンハは対シャトーだから固執してるだけで、私みたいな人は、たぶん相手にしてくれないと思います。リャンハがもし私のもとに現れても、たぶんこんな大事にしてくれない。「うるさいからどっか行け」って捨てられちゃうと思う。
下野 そこまで考えてるの? もう少し夢見てもいいじゃん。
大西 いやいや、現実的に考えましょう。
──(笑)。Feさんはインタビューで「刑事もののテレビドラマみたいな雰囲気が出ればいいなと思いながら描いている」ともおっしゃっていたのですが、そういう感じは受けましたか?
下野 確かに、最初のほうは特にそんな雰囲気もありますね。いわゆる刑事ドラマの、ベテランと新人がバディを組んで、言い合いをしながら事件を解決していくみたいなものとは全然違うんですけど、どことなく……。アニメも原作に忠実に作られているので、そういうイメージはどこかにあるかもしれない。
大西 私、刑事ドラマは「はぐれ刑事純情派」くらいしか知らないんですけど……。
下野 いつの話よ!
大西 小さい頃、おじいちゃんと一緒に観てたんです(笑)。でも印象として、リャンハとシャトーは刑事ドラマにするにしては感情が希薄というか。下野さんがおっしゃった、ベテラン刑事と新人刑事のバディとかならバランスがとれてるのかなって思うんですけど。なので私は刑事ものというより、やっぱり殺し屋ものとして見てました。
下野 基本淡々としてるもんね。シャトーなんか特に淡々としてる。
次のページ »
リャンハは叫んだりしない。それがつらくてつらくて(下野)
2022年3月26日更新