殺し屋×殺し屋のラブサスペンスはクライマックスへ──!「殺し愛」TVアニメ放送&原作完結間近記念、著者・Feインタビュー

賞金稼ぎの女・シャトーと、賞金首でありながら彼女に近づく謎の男・リャンハ。「殺し愛」はそんな“殺し屋”と“殺し屋”である2人の歪な関係を描くラブサスペンスだ。2015年より月刊コミックジーン(KADOKAWA)で連載され、2022年1月にはTVアニメ化も果たした同作が今、物語のクライマックスを迎えている。

コミックナタリーでは最新12巻の発売に合わせて、著者のFeにインタビューを実施。最終回に向けて執筆を進めている現在の気持ちや、放送されたばかりのTVアニメの感想、裏話などを聞いた。なお最後には、原作ファンにはおなじみの企画「シャトーサンガ顔面蒼白ニナルアオリランキング」より、歴代1位からさらにベストオブベストを選んでもらう質問もあるのでお楽しみに。

取材・文 / 大湊京香

正直ずっと夢心地でした

──約6年半続いた連載も完結間近ということで、今の率直なお気持ちはいかがでしょうか。

これだけ長く連載できたのは読者の皆さんがいてくれたからです。正直ずっと夢心地のような感じでした。あんまりマンガ家らしくない環境というか、アシスタントさんをお願いしていなくて、1人でずっと作業しているので、本当にマンガ家として活動しているのかなみたいな不思議な感覚で続けていますね。

「殺し愛」1巻より。

──おひとりで作業されていると、資料集めなど大変ではないでしょうか。例えば1巻では、ホーがバイクに乗り後ろに銃を向けるシーンが、臨場感たっぷりで印象的でしたが……。

あそこは父親の知り合いにバイクが趣味の方がいて、お家にお邪魔して「バイクに乗ってモデルガンをこっちに向けてください!」と写真撮影にご協力いただきました。バイクなんてとてもそらでは描けないので、たまたまちゃんとした資料が身近で用意できて助かりました(笑)。1話あたりのページ数が少なめなのもあると思うんですが、1人でなんとかできる作業量なのと、アシスタントさんを雇うと気を使いそうという気持ちもあって、ずっとこの形でやっています。長い間続けさせてもらったので、きれいな着地を目指したいです。

──最終回の着地点は当初思い描いていたものになりそうですか?

連載当初は「いつ終わるかわからない」と思っていたので、最終回なんてほとんど想像していませんでした。「こういう終わり方ができればいいな」って見当がついたのは、たぶん8巻くらい。こんな場所で、このキャラとこのキャラのこんな掛け合いがあるだろうというのが、映像的に思い浮かんで。その頃に思い描いたイメージからは、大きく変わっていないですね。ただ、完結はアニメと同時終了がベストだと思っていたんですけど、結局話をまとめきれず、1巻分延びることになりました(笑)。

──そうなんですね。読者としては「まだ読める」とうれしさもひとしおだと思います。

そうだといいんですけど。アニメが控えてたから、ちょっと長くやってもいいかなって甘えが若干ありました(笑)。6巻、7巻のあたりもそうだったんですが、過去の話をし始めると、3話程度で収めようと思っていた話が倍々に延びていっちゃうという悪癖がありまして……。そのたび編集さんに「ちょっと延びちゃったけどいいですか?」って聞くんですが、ご迷惑をおかけしているんじゃないかなと思っています。

キャラクターがひどい目にあうシーンは筆がノる

──連載を振り返って、描いていて楽しかったシーンというとどこでしょう?

「殺し愛」7巻より。

6、7巻は筆の進みがすごくよかった気がします。林の中でリャンハが殴られまくっているシーンとか……キャラクターがひどい目にあってるときのほうがテンション上がるのかな(笑)。「なんだこのひどいマンガは!」と思いながらも、筆がノッていた気がしますね。

──反対に苦しかったシーンは?

セリフが多いところはいつも苦しいんですよ。私、普段から人に何かを説明するのがすごく下手で、簡潔に説明できなくて。具体的にどこかというとパッと出てこないんですが、よくあるなという感じですかね。下手なことをしゃべるくらいなら、しゃべらないほうがいいんじゃないかと。

──以前インタビューさせていただいた際も、「説明過多になってしまうくらいだったら、ちょっと伝わり切らなくても文字の説明は捨ててしまったほうがいい」とおっしゃっていましたね(参照:「殺し愛」Feインタビュー)。巻を追うごとにリャンハとシャトーの距離感も変わっていきますが、この2人に関して気を付けていたことなどありますか?

どれくらいのペースで距離感をここまで縮めようとかは具体的に考えていなかったですが、一貫してこの2人を中心とする話からは逸れないように描こうとしていました。あと気を付けていたことと言えば、シャトーは女性キャラではありますが、「カッコいい女の子なんだ」というのを念頭に置いていて。いつかリャンハと対等にやりあえるようになってほしいなと思っていました。シャトーには本来のリャンハを殺してしまったというトラウマがあったわけですが、最近ようやくそれを克服できて、これで2人のパワーバランスが整うぞと思ったら、「今度はリャンハ、お前が弱るんかい」みたいな(笑)。立場が逆転しちゃいましたね。

「殺し愛」11巻では、リャンハが囚われの身に。用意された“リャンハの遺体”が偽物であると見抜いたシャトーは、「事実を暴くため」と本物のリャンハの身柄確保に乗り出す。

──「殺し愛」を連載していく中で、コミカルとシリアスのバランスは意識されていましたか? というのも、単行本ではおまけページなどにコミカルな要素が多いように感じていまして。

描いている途中では、バランスはまったく意識していないですね。単行本作業のときにそのあたりの調整をしているかもしれません。単行本1冊全部がシリアスだと、やっぱり読んでいてつらくなるかなと思う節もあり、和んでほしいなという気持ちを込めておまけを描いています。

──既刊の中で物語の推進力になったシーンやシチュエーションはありますか?

第1話の、地下駐車場でリャンハがシャトーを押し倒して名前を聞く場面ですね。もともと「殺し愛」のマンガ自体趣味でアップロードしていたこともあり、当初は続きを描く気はまったくなくて(参照:「殺し愛カップル漫画が読みたいだけの小話」 - pixiv)。そのシーンはキャラクターに名前すらつけずに描いていたので、ここから2人の物語が始まったと思うと推進力になっていると感じます。物語の節目という意味では、7巻でのリャンハとシャトーが、リャンハの隠れ家で過去を思い出した場面です。大きなターニングポイント的な意味があったのと、絵面がいい感じに描けたのではないかという自負があります。