コミックナタリー Power Push - 映画「聲の形」山田尚子監督インタビュー
“存在している”彼らを通して伝わるもの
早見さんはどんどん西宮硝子の匂いをつけてくださった
──今作において、やはり西宮硝子というキャラクターは演じるうえで難しい役どころだったと思います。山田監督は早見(沙織)さんの演技を聞かれてみていかがでしたか。
素晴らしいと思いました、本当に。早見さんとは、西宮硝子という人間についてお話をさせてもらえたので、発音が不得意だっていう表面的な部分だけではなく、“西宮硝子が発声するなら”というところまで落とし込んでやっていただけたと思います。なのですごく芯があるものにしていただけたなと。聴覚障害のある方を演じるにあたって、発声はどうするのかとか、どうしても表面ばかり追ってしまいそうになるんですけど、早見さんはどんどん西宮硝子の匂いをつけてくださいました。
──早見さんもそうですが、ほかのキャストの方々もいわゆるアニメっぽい演技をされる方というよりは、どちらかと言うと生っぽい演技を得意とされる方が多いなと感じました。
この作品では、そのあたりがとても魅力的だなと思った役者の方々にお願いすることができました。オーディションを行う前、音響監督の鶴岡(陽太)さんに「この作品をどういう毛色のものにしたいの?」って聞かれたんです。そこから鶴岡さんに生っぽい空気を出してくださる方を中心にお声がけしていただいて、その中でさらにオーディションをさせてもらうという形でした。
牛尾さんにライバル意識「負けてたまるか!」
──劇伴の牛尾さんの音楽も素敵でした。
でしょう! 本当に素晴らしい音楽を書いてくださるので、音楽に絵が負けてしまわないようにがんばらなければ!と思ってました(笑)。なんかね、(牛尾さんに)たぶんちょっとライバル意識があったんです。
──へえ!
私と牛尾さんとは、ものを作るときの紐解き方みたいなところがとても似ていて、話していてひらめいたり、気付きが訪れるタイミングが同じだったりすることが多くて。私自身、彼のものの見方とか考え方にとても共感を持っているんですね。なのでなんというか、作ることに関してこんなに共鳴できてしまうと、今度は何かじわじわとライバル意識が目覚めちゃったみたいで。もうそのへんはなんでかよくわかんないんですけど(笑)、お互いいろいろあれこれやってみて、その結果何か良いものが生まれてるとよいなあ、みたいなお話をしていました。
──冒頭、小学生時代の将也のシーンでThe Whoの楽曲が使われてましたけど、あれは牛尾さんのアイデアなんでしょうか?
あ、The Whoは私が……。子どもの頃の将也って、なんとなく無敵で、仲間がいて、万能感があって、でも底抜けに退屈で……。まさにThe Whoの「My Generation」がそれを表してるな、と思いまして。
──確かにあのシーンを観て、すぐに将也のキャラクター性が伝わってきました。
長々とセリフを重ねるよりも、ああすることで一発でわかってもらえるかなと。
──そういった音楽的な面も、山田監督の意見が細かく反映されている?
そうですね、今回はすごく音楽にこだわりたかったので。「聲の形」は本当に全部の要素が1つに固まらないとできあがらない作品だと思ったので、牛尾さんとも普段は絶対に言わないようなコンセプトの話まで、腹を割ってしゃべったりしたんです。共有するものをたくさん増やして、同じところに向かって走っていけるように。なのでだいぶ二人三脚でやらせていただけました。
──濃密な打ち合わせが行われていたんですね。
絵と音楽とのシンクロもかなり意識していたので、たくさん意見交換もしましたし、(楽曲制作の)スタジオにも入らせてもらって、密に作らせていただきました。なので「聲の形」のフィルムは音楽との親和性が高い気がします。
──aikoさんが歌う主題歌「恋をしたのは」も、鑑賞後の余韻に浸れるピッタリな楽曲でした。
とてもいい主題歌ですよね。
──後悔する出来事がきっかけだったにせよ、「聲の形」は将也と硝子の淡い恋心というか、2人の気持ちの通い合いを描いている作品でもあると思います。
aikoさん独特の、思春期の甘酸っぱさを表現した楽曲がその辺を代弁してくださっているように思いました。aikoさんの言葉選びって、絶妙なバランスでダイナミックな振り方をしているところがとても気持ちいいなと思っていて。その言葉1つひとつと、かわいらしいピアノの音色がマッチして、まさに小学校からの2人の物語に寄り添っているなと思いました。
ちょっとしたことの積み重ねで、石田将也という人を作り上げる
──キャラクター1人ひとりが個性的なところも「聲の形」の魅力の1つだと思います。個人的にはマリアが出てくるたびに癒やされてました。
かわいいですよね……。マリアはスタッフの寵愛をすごい受けていて。朝ごはんのシーンでみんなでトーストを食べてるんですけど、マリアだけトーストされていない生のパンなんですよ。それがすごくいいんです! ぜひ見つけてみてください。
──そのシーン、マリアが椅子から降りたいけど降りられない……と迷っていたところを、気付いた将也が何も言わずに降ろしてあげていましたよね。そういったキャラクターの細かい動作まで描かれている部分に、生っぽさ、人間味を感じます。
将也の根の優しい部分が出ているシーンですよね。そういう、ちょっとした要素をたくさん積み重ねていくことによって、石田将也という人を作り上げる感覚でした。
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ガキ大将だった小学6年生の石田将也は、転校生の少女、西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。「いい奴ぶってんじゃねーよ」。自分の想いを伝えられないふたりはすれ違い、 分かり合えないまま、ある日硝子は転校してしまう。やがて5年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。あの日以来、伝えたい想いを内に抱えていた将也は硝子のもとを訪れる。「俺と西宮、友達になれるかな?」再会したふたりは、今まで距離を置いていた同級生たちに会いに行く。止まっていた時間が少しずつ動きだし、ふたりの世界は変わっていったように見えたが──。
スタッフ
- 原作:「聲の形」大今良時(講談社コミックス刊)
- 監督:山田尚子
- 脚本:吉田玲子
- キャラクターデザイン:西屋太志
- 美術監督:篠原睦雄
- 色彩設計:石田奈央美
- 設定:秋竹斉一
- 撮影監督:高尾一也
- 音響監督:鶴岡陽太
- 音楽:牛尾憲輔
- 音楽制作:ポニーキャニオン
- アニメーション制作:京都アニメーション
キャスト
- 石田将也:入野自由
- 西宮硝子:早見沙織
- 西宮結絃:悠木碧
- 永束友宏:小野賢章
- 植野直花:金子有希
- 佐原みよこ:石川由依
- 川井みき:潘めぐみ
- 真柴智:豊永利行
- 石田将也(小学生):松岡茉優
©大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
「映画『聲の形』公開記念特番 ~映画『聲の形』ができるまで~」
アニメ制作の裏側を中心に、キャストによるトークなど秘蔵映像が満載。映画がさらに楽しめる特別番組がオンエアされる。
- 番組情報
- テレビ静岡:2016年9月15日(木)26:15~26:45
- TOKYO MX1:2016年9月16日(金)20:29~20:55、9月23日(金)19:30~20:00※再放送
- メ~テレ:2016年9月16日(金)25:54~26:24
- ABC朝日放送:2016年9月17日(土)26:25~26:55
- テレビ北海道:2016年9月17日(土)27:05~27:35
- 西日本放送:2016年9月18日(日)26:25~26:55
- ミヤギテレビ:2016年9月19日(月)26:59~27:29
- 広島テレビ:2016年9月21日(水)25:59~26:29
山田尚子(ヤマダナオコ)
2004年、京都アニメーションに入社。2009年にテレビアニメ「けいおん!」で初監督を務める。同作は2期にわたり放送され、若年層を中心にヒットを飛ばし、東京アニメアワードやアニメーション神戸賞で優秀作品賞を受賞した。また2011年には「映画けいおん!」で長編映画を初監督。第35回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞に輝いた。2013年には京都アニメーションオリジナル作品「たまこまーけっと」の監督に抜擢。2014年には同作の続編となる映画「たまこラブストーリー」でも監督を務め、第18回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で新人賞を受賞した。