コミックナタリー Power Push - 映画「聲の形」山田尚子監督インタビュー

“存在している”彼らを通して伝わるもの

小さな積み重ねで、何か精神作用に訴えることができれば

──山田監督の作品って、例えば足下のカットが多かったり、魚眼レンズっぽい映し方をしてみたり、何か意図が含まれているんじゃないかと考えさせられる演出が多いと思うんです。ファンの方もよく演出の考察をされていますが、皆さんの洞察力がすごくて面白いなと思っていて。

ははは(笑)。

──これまでの作品でもそうですし、「聲の形」でもそうでしたが、合間合間に花のカットが挟み込まれているのも、何か花言葉で意図しているものがあるのかな……と想像してみたのですが。

……ありますね、確かに。

──そうなんですね。今作でもそういった映像の見せ方でこだわりを持っている部分が、ほかにもあるのでしょうか。

表に出ない形でのコンセプトっていうのは毎回必ず決めていて、そこに向かって作っているんですよね。そのコンセプトは秘めるものと思っているので、明かしたりはしないんですけど。

──それを言わせてしまうのは野暮だなと思います(笑)。

将也と硝子を取り巻く世界の美しさも、観客の心に何かを訴えかける。

ふふふ(笑)。なんですけど、「聲の形」はとにかく色味でストレスを感じないものにしたくて。作品の性質上、なんとなくシリアスな話として受け取られがちなのかもしれないと思ったんです。それに将也たちはみんなそれぞれ悩んではいるけど、世の中や世界までは悩んでいない。だからその世界はお花も咲くし水もキレイだしっていうところを描きたくて。あとは些細なものでいいので、お花みたいに美しいものや儚いものを挟んでいくことで、彼らが生きている世界をいろんな情報で形成していきたいなと考えていました。地道な努力って感じですね(笑)。小さな積み重ねで、何か精神作用に訴えることができればと思っています。

──言葉などの直接的な表現以外でも、観たときに何か感じてもらえる部分があったらいいなと。

そうなんです。だから花言葉を知らなくてもまったく問題なくて。むしろ知らなくてもいいですし、知らないほうがいいかもしれないと思うんですけど。そのお花が持っている色や形も、観ている人の心に何かを訴えることができる1つのパーツだったりするんです。空気感を演出するために画面をボケさせたり、レンズっぽく見せるのも同じ感覚でやっていますね。どんな感情を持って観てもらいたいか、逆算しながら考えていくことも多いです。それもまだまだ研究途中ではあるんですが。

小学生時代の硝子。

──確かに前半はいじめのシーンが続きましたけど、それこそ画面の色味であったり、合間に挟まるお花などの美しいもののカットが、物語を重くさせすぎない印象がありました。

ああ、よかったです! でも逆に軽くなりすぎないように、というところも気を付けながら組み立てていきました。

キャラクターたちが“本当に存在している”という錯覚を起こす

──山田監督の作品は、これまでにも実写のような見せ方をされていることがあったかと思うのですが、今回は松岡茉優さんを声優として起用していて、音楽をagraphの牛尾憲輔さんが務められて、主題歌をaikoさんが担当されていて……など、そういった方々が制作に関わっていることもあり、より実写映像に近い印象を受けました。

生っぽいですよね。

小学生時代の将也。

──声優さんの演技もその“生っぽさ”を感じました。全体を通してもそこは意識された部分なのでしょうか。

やっぱりキャラクターたちが“本当に存在している”という錯覚を起こしてもらいたいというか。それが錯覚にすら感じないように持っていきたかったので、“生っぽさ”はすごく大事にしましたね。

──松岡さんは普段は女優として活躍されている方なので、声優としてどんな演技をされるんだろうと気になっていたんですが、入野自由さん演じる高校生の将也と違和感がなかったので驚きました。

すごいでしょ?(笑)

──はい(笑)。小学生の将也から高校生の将也に……という、その流れがすごく自然でした。

アフレコをしたのは松岡さんのほうが後だったんですよ。松岡さん自身が将也を作り上げている間に、一度高校生の将也の声を聴くタイミングがあったんです。そうしたら、そこからさらに将也が将也になっていって。あとから松岡さんから聞いたお話だと、入野さんの将也を耳にしたことで、より自然に将也が芽生えてきたみたいで。小学生の将也と高校生の将也が1人になっていって……このおふたりは奇跡の邂逅を遂げたんだと思いました。話し方とか息の漏らし方とか、本当に同一人物なんだなって思えたので、素晴らしかったですね。

映画「聲の形」2016年9月17日(土)より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
映画「聲の形」

ガキ大将だった小学6年生の石田将也は、転校生の少女、西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。「いい奴ぶってんじゃねーよ」。自分の想いを伝えられないふたりはすれ違い、 分かり合えないまま、ある日硝子は転校してしまう。やがて5年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。あの日以来、伝えたい想いを内に抱えていた将也は硝子のもとを訪れる。「俺と西宮、友達になれるかな?」再会したふたりは、今まで距離を置いていた同級生たちに会いに行く。止まっていた時間が少しずつ動きだし、ふたりの世界は変わっていったように見えたが──。

スタッフ
  • 原作:「聲の形」大今良時(講談社コミックス刊)
  • 監督:山田尚子
  • 脚本:吉田玲子
  • キャラクターデザイン:西屋太志
  • 美術監督:篠原睦雄
  • 色彩設計:石田奈央美
  • 設定:秋竹斉一
  • 撮影監督:高尾一也
  • 音響監督:鶴岡陽太
  • 音楽:牛尾憲輔
  • 音楽制作:ポニーキャニオン
  • アニメーション制作:京都アニメーション
キャスト
  • 石田将也:入野自由
  • 西宮硝子:早見沙織
  • 西宮結絃:悠木碧
  • 永束友宏:小野賢章
  • 植野直花:金子有希
  • 佐原みよこ:石川由依
  • 川井みき:潘めぐみ
  • 真柴智:豊永利行
  • 石田将也(小学生):松岡茉優
「映画『聲の形』公開記念特番 ~映画『聲の形』ができるまで~」

アニメ制作の裏側を中心に、キャストによるトークなど秘蔵映像が満載。映画がさらに楽しめる特別番組がオンエアされる。

番組情報
テレビ静岡:2016年9月15日(木)26:15~26:45
TOKYO MX1:2016年9月16日(金)20:29~20:55、9月23日(金)19:30~20:00※再放送
メ~テレ:2016年9月16日(金)25:54~26:24
ABC朝日放送:2016年9月17日(土)26:25~26:55
テレビ北海道:2016年9月17日(土)27:05~27:35
西日本放送:2016年9月18日(日)26:25~26:55
ミヤギテレビ:2016年9月19日(月)26:59~27:29
広島テレビ:2016年9月21日(水)25:59~26:29
山田尚子(ヤマダナオコ)
山田尚子

2004年、京都アニメーションに入社。2009年にテレビアニメ「けいおん!」で初監督を務める。同作は2期にわたり放送され、若年層を中心にヒットを飛ばし、東京アニメアワードやアニメーション神戸賞で優秀作品賞を受賞した。また2011年には「映画けいおん!」で長編映画を初監督。第35回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞に輝いた。2013年には京都アニメーションオリジナル作品「たまこまーけっと」の監督に抜擢。2014年には同作の続編となる映画「たまこラブストーリー」でも監督を務め、第18回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で新人賞を受賞した。