一番刺さった吉原昌宏の構図、“完璧な作り”の「ハードロック」
──残る作品が「ニムロッド 吉原昌宏作品集2」「ハードロック」の2作品です。
「ニムロッド」を描いた吉原昌宏さんの作品には、ガンアクションの中で僕に一番刺さったシーンがあるんです。それが、銃を撃つ前とか撃った後に銃を構えた姿で止まっているシーン。歌舞伎の見栄に近いものを感じるというか、動きのあるアクションの中でスッと静止する姿が好きなんですよね。普通は細々とアクションをやりたくなるんですが、そこでパッと抜いて間を作る。そこが印象に残るんです。雑誌が休刊したため単行本になっていない「ブリゲイド」という吉原さんの作品があって、その中にこの構図を使ったシーンがドーンと大きく出てくるんです。その一枚絵にズキューンと心をやられてしまって(笑)。そこからその構図のシーンを意識して見るようになりました。自分で描くときにも意識をして、そういうシーンを作るようにしています。
──最後の1作が「ハードロック」ですが、今回読ませていただいた作品の中で特に出会えてよかったと思えた作品でした。
「ハードロック」は僕の中で完璧な作りをしているマンガだと思っていて。刑事ドラマのベースに乗せつつ、バイクアクションを交えた派手なガンファイトがあったり、猟奇殺人があったり、日常のコメディやベテラン刑事のジーンとくる感動話もあったり。僕が刑事ものでやりたかったことを、うちやましゅうぞうさんはすべてこの作品でやっているんです。作品のトータルバランスが素晴らしくて、ずっと読んでいたかったので最終巻が出たときには「これで終わっちゃうの!?」と虚無感もありましたね。
──主人公のキャラクターにも惹かれました。ぶっ飛んだ行動をして、おちゃらけた面もあるけれど部下からの信頼は厚いというのが、理想的な刑事ドラマの主人公だなと。
「西部警察」とかに出てきそうなキャラクターですよね(笑)。ストーリーだけじゃなくて、話の展開によって銃を使い分けて、その銃も少しカスタムが加えられていたり。そういうところもツボでした。「ゼロイン」で花友蔵が銃を頻繁に変えるのは、完全に「ハードロック」の影響です(笑)。
──実は読んでいて「ゼロイン」に一番影響を与えているのは「ハードロック」じゃないかと思っていました。当時のいのうえ先生の目指すところがこの作品だったんですね。
それはあると思います。「ゼロイン」を描いているときは傍に置いていたんで(笑)。今回挙げた5作品の中だと「ハードロック」は最後のほうに読んでいて。それこそ、ガンアクションは人間ドラマで魅せるというのを学んだのは「ハードロック」ですね。
──「ゼロイン」を読んでいた方にはぜひ「ハードロック」も読んでほしいですね。いのうえ先生の好きなものをより知ってもらえると思います。
「異界撤退パラベラム」で人間くささを描く挑戦
──最新作「異界撤退パラベラム」のお話も伺っていきたいのですが。オカルト、ホラー、異世界、バトルロイヤルFPSといった要素が、ガンアクションにうまく絡み合っていて、普段ガンアクションマンガを読まない層にも響く作品だなと感じました。作品の設定などはどのように決めていきましたか?
「異界撤退パラベラム」の原型があって、そこから今の形になるまでで2、3年かかっているんです。もともとはオカルトチックなお話がやりたくて。それなら「バイオハザード」など、ガンアクションとホラーは親和性があるし、久しぶりにガンアクションの要素も入れようという始まりでした。それに異界が舞台というところは最初の構想から変わっていないですね。
──逆に変化したところはどこでしょう?
原型では異界に調査に行く捜査官の話として考えていました。そこから編集さんとやり取りを重ねる中で、閉ざされた異界に行って戦うバトルロイヤルFPSの要素を入れて、より今の若い子達にも入りやすい作品になるように設定を変えていった感じです。キャラクターの設定は作品自体の設定を調整する中で大きく変わりましたね。まゆるの元になったキャラクターはミステリアスな少女だったんですが、今のギャルチックな感じに徐々になっていきました。
──確かに、バトルロイヤルFPSは昔よりもかなり一般的になっていますよね。作中で主人公の皇麻が引き出しから銃を拾うシーンも違和感なく読めました。
そこはまさにゲームのノリですね。ハンバーガーを食べるところも、バトルロイヤル系のゲームでエナジードリンクでプレイヤーが回復するところが人間くささがあって面白いと思い、それを取り入れました。詳しく説明しなくとも今の子ならゲームの雰囲気だとわかってくれるかなという考えもあって。
──1巻の中でいのうえ先生が描きたかったシーンはありますか?
絵的に気に入っているのはハンバーガーを食べているシーンです。カラーページのハンバーガーにかぶりついている絵は、連載を始めるときから描きたいなと思っていました。読者に「このキャラクターたちは普通に生きている人たちだよ」と親近感を持ってもらうためにご飯を食べるシーンは入れたいなと思っていたんです。
──まさに人間を掘り下げてアクションを活かすというシーンですよね。
皇麻とまゆるはゲームの回復アイテム的な意味でご飯を食べているんですけど、食事シーンって人間らしさが出るんですよ。自分がこれまでやってきた作品ではあまりやらなかったシーンなんですが、「パラベラム」ではガンアクションにプラスして、描いてみたいと思っていました。
──1巻の表紙でもまゆるがハンバーガーにかぶりついていますし、いのうえ先生のこだわりが伝わってきます。
そうですね。銃に食事にお色気って、僕が「パラベラム」で描きたいものが1巻の表紙に全部詰まってますね(笑)。
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銃から滲み出るキャラクター性