劇場ライブについては、ハッピーなだけのシナリオだったのですごくやりやすかった(都志見)
──では続いて「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」について伺わせてください。最初に映画化について聞いたのはいつ頃でしたか?
種村 「新ブラホワ」の企画や衣装デザインを担当したのですが、それと同時期に劇場ライブの話を伺いました。ほぼ同時進行で進めていたので現場では「どっちの話!?」とたびたび混乱が起きていて。連絡をさかのぼったら2021年の5月には劇場ライブの連絡をしているので、少なくとも2年は劇場ライブについてのやりとりをしていることになりますね。
都志見 私は正式な日付は覚えてないのですが、第5部か第6部を書いているときに劇場ライブの話を聞いた気がします。当初、私は劇場ライブにはそこまで関わる予定ではなかったのですが、あるタイミングで「MCの脚本をお願いしたい」とご連絡をいただきました。
──おふたりは映画化の話を聞いたときは率直にどう思いましたか? 劇場ライブという形やセットリストとMCの一部が異なる“2DAYS上映”というのは斬新ですよね。
種村 2DAYS上映だと聞いたのは割と最近で。編集中のラフ映像が上がってきたときに2DAYSあることを知り、驚きましたね。
都志見 私はMCの脚本を書く必要があったので、2DAYSだということは最初の頃に聞いていました。「アイナナ」はキャストの方によるライブが大成功していらっしゃるので、劇場ライブを作られるということを伺って、ユーザーさんが喜んでくれる素敵な作品になるんじゃないかなと思っておりました。
──種村先生と都志見先生は今回の劇場ライブにどのような関わり方をしているのか、改めて聞かせてください。
種村 私は劇場ライブの企画やテーマには関わっていなかったんですけど、制作のオレンジさんからご指名いただきまして衣装デザインなどに携わっています。当時私はすごくスケジュールが詰まっていたんですけど、「Mr.AFFECTiON」のMVでご一緒したオレンジさんからご指名いただいた以上はひと肌脱がないとって思いまして。そういった経緯で衣装のデザインなどを担当することになり、「新ブラホワ」の衣装がメインビジュアルに使用されることに決まりました。ブラホワと衣装は同じですが、制作会社さんが違うので、オレンジさんバージョンで一から仕立て直されています。ブラホワのときと違うのは、オレンジさんからのご要望で、服の模様を新たに私が高解像度で描き直して、それをそのまま使用していただいたりしています。あと動きやすくするために多少小物を減らそうというご相談がありました。デザイナーとしては苦渋の決断でしたが、現場の方の「より良いライブにするため」という意向を信じて、すべてを託しました。
──都志見先生はMCの脚本をどのように書かれたのでしょうか?
都志見 監督さんがもとから書いてくださっていたセリフもあって、それをリライトさせていただいた形ですね。
──16人がずらっと並んでいるMCパートは、各々のセリフが被るようなシーンもありましたよね。
都志見 観客を盛り上げるような細かいセリフは、収録の現場で動きなどを確認しながら収録されたそうです。
スタッフ リアクション的なところは、声優さんのアドリブも多いと監督から伺っています。
都志見 本来はそういう部分も細かい指定が必要なんだろうなと思いつつ、皆さんならうまくやってくれるだろうと。あのあたりは細かく不ぞろいなところを作らないとライブ感が出ないと思うので、現場のスタッフさんや声優さんたちでうまく調節してくださったんじゃないかなと思います。私としては今回は劇場ライブということで、本編のようにハラハラすることもシリアスなシーンもない、ハッピーなだけのシナリオだったのですごくやりやすかったですね。同時進行で書いていた本編は、「アイドルとは? 人間とは?」を突き詰めるような内容だったので。
──具体的なセリフは明かせないと思いますが、MCでの注目ポイントがあれば聞かせてください。
都志見 絆を感じさせるような会話や、MC中にアイドルたちがある曲をワンフレーズ口ずさむシーンは、ユーザーさんが喜んでくれるのではないかなと思って書きました。
「アイナナ」の一部となってどんどん愛を膨らませていけたら(種村)
──先ほどおふたりにとって「アイナナ」のアイドルたちはどんな存在かと伺った際、種村先生は「血のつながりはあるけど、甥っ子のような感覚で見ている」とおっしゃっていました。その目線で彼らの劇場ライブでの活躍を観て、種村先生は何か彼らの成長を感じられましたか?
種村 やっぱりみんなお互いの理解が深まって、信頼しているのが伝わってきます。IDOLiSH7はみんなが集まってひとつのエースになっていたのが、今は1人ひとりがエースのように思います。だから力も7倍に増えたのかなと。TRIGGERは同居までしてるのに馴れ馴れしくはならないのがさすがだなと思います。一層パフォーマンスに磨きがかかっていて、追随を許さないなと感じます。ŹOOĻは一番空気が変わりましたね。刹那的な寂しさがある集団から、結束のあるチームになった気がします。Re:valeは過去がなくては語れないグループでしたが、ここからが未来へのスタートなのかもと思うほど解放されてるように見えました。
──都志見先生は「アイナナ」のアイドルたちについて「メッセージを背負ってくれている」と語ってくださいました。思いを背負ったアイドルたちが、今回劇場ライブで楽しませてくれようとしている姿を見て、どのような感情を抱きましたか?
都志見 「アイドルとして大きく成長して、素晴らしいステージを与えてもらえてよかったね!」と。これはアイドルたち向けの言葉にはなりますが、アイドルごとに背負ったメッセージ性を汲み取ってくださり、細やかな心理、人柄などを表情や仕草に反映してくださったスタッフさんの愛情深い真摯で丁寧なお仕事を尊敬しておりますし、心から感謝しております。
──最後におふたりそれぞれの立場から感じる「アイドリッシュセブン」というプロジェクトの魅力を聞かせてください。
種村 プロジェクトの規模に対して、スタッフさんの数が少ないほうだと思うんですよね。でも外部からいろいろなクリエイターさんが力を貸してくださって、そのクリエイターさんたちもすごく「アイナナ」を好きになってくださって、みんなの愛がどんどん大きくなっているなと感じています。さらにユーザーさんもそれを感じ取ってさらに愛してくださっている。不思議なコンテンツだなと思います。文太先生が描かれるシナリオは、読んだ後に「愛されているな」と感じることができるんです。「アイナナ」の根底には大きな愛があるなといつも思うんですよね。私もそんな「アイナナ」の一部となってどんどん愛を膨らませていけたらいいなと思います。
都志見 種村先生と似たようなことになってしまうんですけど、作り手側の矜持として、ユーザーさんを喜ばせようという思いが強いプロジェクトだと感じます。なのでユーザーの皆さんは、「アイドリッシュセブン」に愛されていると感じたときは、本当に間違いないと思っていいと思います。もしも「愛が足りないな」「愛されていないな」と感じたときは、意図的ではなくて、こちらがやりたいことが皆さんの思いに一歩届かなかった、思ったように表現できなかったとか、至らないことが起きてしまっただけで。作り手側はいつもユーザーさんを喜ばせようと思って一丸となっていますし、今は劇場ライブに向かってまた1つになっているところだと思います。
プロフィール
都志見文太(ツシミブンタ)
11月30日生まれ、東京都出身。シナリオライター、小説家。同人ゲーム制作サークル「TARHS Entertainment」の主催の1人。主に女性向け・一般ゲームシナリオの制作を手がける。シナリオ担当作品は、「図書室のネヴァジスタ」「魔法使いの約束」「アイドリッシュセブン」「きんとうか」「名探偵コナン マリオネット交響曲」など。
種村有菜(タネムラアリナ)
1996年、りぼんオリジナル6月号(集英社)に掲載された「2番目の恋のかたち」でデビュー。1997年にはりぼんにて「イ・オ・ン」を初連載し、その後「神風怪盗ジャンヌ」が大ヒットを記録する。同作や「満月をさがして」はTVアニメ化もされた。詩的かつ印象的なセリフまわしや、こだわりのある美しい絵は、日本のみならず海外でも人気が高い。2011年にりぼんとの専属契約を終了し、フリーに。メロディ(白泉社)で「31☆アイドリーム」を連載するほか、スマートフォン向けアプリゲーム「アイドリッシュセブン」をはじめ、ゲームのキャラクター原案も手がける。