スマートフォン向けゲームアプリ「アイドリッシュセブン」から生まれたアイドルグループ・MEZZO"が、1stアルバム「Intermezzo」を10月20日にリリースした。
MEZZO"は同アプリから生まれたアイドルグループ・IDOLiSH7の派生ユニットで、メンバーは四葉環(CV:KENN)と逢坂壮五(CV:阿部敦)の2人からなる。“間奏曲”を意味する「Intermezzo」には既発曲8曲に、明るい曲調が印象的な「未来絵」、さかいゆうが作曲とピアノ演奏を担当した「Tears Over ~この星の君と~」という2曲の新曲を合わせた計10曲が収録され、MEZZO"のこれまでの歴史をたどることのできる内容になっている。
音楽ナタリーでは1stアルバムのリリースを記念し、KENNと阿部にそれぞれインタビュー。新曲にまつわるエピソードをはじめ、MEZZO"の過去、現在、未来についての思いを聞いた。
取材・文 / 酒匂里奈
より細かい部分まで環のことをわかっている
──まずは「アイドリッシュセブン」に携わることになった経緯から聞かせてください。
僕はオーディションでした。初期設定の資料を見ながら(四葉)環のオーディションを受けましたね。
──環役を射止めたあと、MEZZO"として最初の音楽活動は楽曲のレコーディングでしょうか?
「miss you...」(2016年5月リリースのMEZZO"の1stシングル「恋のかけら」のカップリング曲)のレコーディングですね。シナリオの収録はまだだったんですけど、スタッフさんからシナリオの内容や今後の方向性など、ロードマップを聞いてから臨んだので、表現に関してはキャラクターとしても曲としても、今聴いてもしっかり成立しているなと。もちろんそれから環と歴史を紡いできた分、当時と比べると今のほうが細かい部分まで環のことをわかっているし、より表現できるとは思いますけど。
──今改めて「miss you...」や「恋のかけら」をレコーディングしたらニュアンスが変わりそうですね。
かもしれないですね。ただMEZZO"の1stシングルの収録曲に歴史を紡いでない感じが出ているのは、それはそれで正解だと思うんですよ。逆にリアリティがあるというか。当時の表現を今再現するのは難しいかもしれないですし。そういった考え方で言うと、アニメはアプリのストーリーをもう一度なぞる形だから、芝居が必要以上に熟成されてしまうかもと思っていたんですけど、収録のやり方が全然違うのでそうでもなかったんです。キャラの口の動きに合わせる必要がなくて自由に尺感をコントロールできるゲームのレコーディングに対して、アニメはもともとできている絵に声を当てにいくアフターレコーディングなので、最初は苦労しました。スタッフさんに自由にしゃべっていいですよと言っていただくこともあったんですけど、声優としては完璧に絵に合わせたいという思いがあったので、なるべく口の動き通りにしゃべるようにしました。
今だから話せる「RTI」の小話
──「アイナナ」の初ライブである「アイドリッシュセブン 1st LIVE『Road To Infinity』」(2018年7月に埼玉・メットライフドームで開催されたライブイベント)でのMEZZO"にまつわるエピソードを聞かせてください。
もともと阿部さんとは仲よくさせてもらっていましたし、年も近いし、ご本人が親しみやすい性格ということも手伝って、スケジュールが合うときは一緒に稽古したりと、リハーサルの段階から楽しく過ごさせてもらいました。「LOVE&GAME」(KENN演じる四葉環、阿部敦演じる逢坂壮五、佐藤拓也演じる十龍之介による特別ユニットの楽曲)の稽古はさとたく(佐藤拓也)くんも含めて3人でやったり。なつかしい……楽しかったな。青春って感じですね。
──「RTI」では、KENNさんの芝生席へのファンサービスが印象的だったというか、環さんのイメージそのままにステージを駆け回られていたイメージがあります。
あれ、実は(和泉)三月役の代永(翼)から「環、今向こう行ったほうがいいんじゃないの!」とこっそり指示を受けたんです。これは誰にも言ってないかも。今だから話せる話です(笑)。「イエーイ!」なんて言ってましたけど、内心「俺を走らせる気だな! もう足が棒なのに!」と思いながら(笑)。でも環なら行くだろうなと思って走りました。思い返すといろいろありましたね。みんなに水をかけたり、客席のほうに行ったり。アンコール前に外でスタンバイしていたんですけど、ちょうどスタンバイ中の俺らが見えてしまう場所にいらっしゃるファンの方たちがいて。ほかの人に見つからないように「しっ」って言ったら、みんなすごくお行儀よくというか、息を殺すように静かにしてくれて。そんな皆さんのおかげもあってアンコールの演出は大成功しましたね。
──MEZZO"は「恋のかけら」や「Dear Butterfly」(2017年11月リリースのMEZZO"のシングル表題曲)を披露されていました。ともにライブパフォーマンスを行った阿部さんの印象について教えてください。
そーちゃん(阿部)、ライブのときは全然緊張してなさそうに見えるんですよ(笑)。もともと好奇心旺盛だし、物おじしないタイプで。プライベートでもグイグイ引っ張ってもらっていて、すごく頼もしい兄ちゃんだと思ってます。俺もがんばらなきゃと思わされるし、リハでも本番でも、背中を預けていると心地いいし、安心できる。歌やパフォーマンスに対してもきちっと向き合われていて、高いクオリティに持っていける方です。ピアノを弾かれていたときは「さすがに緊張しちゃったよ!」と言っていましたけど、「緊張してないでしょ絶対!」と思ってました(笑)。
──もともと交流があったということですが、ライブを通じて関係性が変わったりしました?
ほかのメンバーもそうですけど、1つの大きなものをみんなで乗り越えるということは仲を深める大きな要素の1つになったと思います。稽古終わりでごはんに行ったり飲みに行ったり、そういうことが以前より増えましたね。あと最近は阿部さんに公私ともにお世話になっているというか、バラエティ番組など作品以外の仕事でもご一緒させてもらっているので(ニコニコチャンネルにてKENNと阿部によるバラエティ番組「阿部敦とKENNの今日はべっけんです!!」を配信中)、一緒にいる時間が増えて、より彼の人間性が見えてきた感じがしますね。
──お二人の仲のよさがライブのパフォーマンスにも反映されている感じがします。
本当ですか? 確かにいい雰囲気を醸し出していると思います(笑)。そーちゃん(阿部)ってグイグイくる感じではないというか、引っ張ってくれはするんですけどオラオラ系ではないんですよ。邪気なく「KENNくんどこどこ行こうよ!」と言ってくれるみたいな。なので、なんて言ったらいいんですかね……すごくナチュラルでいられるんですよね。ほかのメンバーもそうですけどね。今は一緒に録れないけど、アフレコ現場ですれ違うといじったりいじられたり。愛すべきチームで、愛すべき作品ですね。すごく恵まれているし幸せだなと思います。
MEZZO"と環の成長
──1stアルバム「Intermezzo」の収録曲についても聞かせてください。このアルバムに収録された「Forever Note」(2019年10月にリリースされた配信シングル)はMEZZO"にとって大きなターニングポイントになった楽曲だと思います。歌い方や感情表現など、どんなことを意識してレコーディングしましたか?
今までMEZZO"として1つひとつの曲と向き合ってきましたけど、「Forever Note」を今改めて聴いて気付いたことがあって。環、めちゃくちゃグイグイいくじゃんという(笑)。いやな感じのグイグイじゃなくて、ストーリーでそーちゃんが作曲したいと言ったことがうれしくてしょうがないんだろうなみたいな感じが伝わってくるんです。レコーディング時は主観的に環と向き合っていたからかそうは感じなかったんですけど、今改めて聴くと「新しいことに挑戦するなら俺も応援するよ。俺もがんばるからさ! わんわん!」みたいな思いを感じて「よきよき!」と思いました。
──「Forever Note」は成長したMEZZO"だからこそ歌える曲ですね。同様に新曲の「未来絵」も今のMEZZO"だから歌える歌詞だと感じました。いろいろな解釈ができることが歌詞の魅力ですが、「未来絵」に登場する「僕」が壮五さんで「君」が環さんとも取れるなと思っていて。KENNさんは「未来絵」を聴いてどんな印象を受けましたか?
歌詞の解釈は本当に受け手の自由だと思うのでいろいろ考えられますよね。「未来絵」はおっしゃっていただいたように今のMEZZO"としての表現が反映されている楽曲だと思っていて、「miss you...」をリリースした時期に「未来絵」を歌ったらまたまったく違う曲になっていたんだろうなと思います。「未来絵」のレコーディングで僕が意識したことは、環の温かさや包容力のある頼もしい感じ。優しく笑顔で歌っているような部分を多くしつつも、環らしいエッジの効いたニュアンスも忘れずに表現しているつもりです。スタッフさんとディスカッションをしたときにも、MEZZO"も環くんも成長してきたから、今までと少し違う大人な表現もあっていいんじゃないかということを話しました。
──環さんやMEZZO"の成長を楽曲からも感じられるのはいいですね。
環は今までいろいろあったけど、誰かを励ましたり誰かに勇気をあげたりできるところまで成長したかと。初期の頃のがむしゃらな環も誰かを応援することはできたと思いますけど、最近の環はより相手に寄り添うことができるようになったので、感慨深いですね。
──そんな「未来絵」はソロバージョンもレコーディングされたそうで。
はい。マネージャー(「アイドリッシュセブン」ファンの呼称)の皆さんには2人で歌った「未来絵」とはまた違った味の「未来絵」をおいしくいただいてもらいたいですね。それぞれ解釈や表現方法が違うので、聴き比べても面白いかもしれません。
熟成されたブランデーのような「Tears Over ~この星の君と~」
──さかいゆうさんが作曲とピアノ演奏を担当されている新曲「Tears Over ~この星の君と~」を聴いた際の印象を聞かせてください。
ポップスのよさもありつつ大人な雰囲気もあって、熟成されたブランデーのようにまろやかにスッと喉を通り抜ける感じ……ですかね。実はテクニカルな面のある複雑な楽曲なんですけど、一聴するとシンプルでのどごしがよくて。聴いているとすっと入ってくるんですけど、自分で歌うとすごく難しかったです。
──どのあたりが歌っていて難しかったですか?
遊びを作ってくれているメロディラインなので、歌う人によってまったく表現が変わるところですかね。今の環がこういう大人な雰囲気の曲に挑戦したらどんな歌い方になるかというのをスタッフさんと話しながら何テイクか録って方向性を決めました。
──歌詞でいうと、「ラインするからと笑っていたのに」というフレーズが印象的でした。
確かにそういう言葉が入っているとグッと曲にリアリティが増しますよね。
──「アイナナ」はそういったリアルさのある表現やストーリー、プロモーションに定評がありますよね。KENNさんが「アイナナ」に携わってきた中で「これはリアルだな」と思ったことはありますか?
やっぱりストーリーですね。僕らもキャラクターと近しい職業だから“あるある”が描かれていることが多いなって。だからこそキャラクターたちのセリフが僕らにもすごく響くんですよね。僕は以前から各所で「アイナナ」のキャラの中ではてんてん(九条天)が好きだと言っているんです。てんてんは同じ業界にいる人としてすごくリスペクトできるんですよね。体調を崩したてんてんを環がおぶってライブ会場に連れていくシーンがあって、そこでてんてんを好きになりました。彼は「ファンは貴重なお金と時間を使ってライブを観に来ているのに、僕らがちゃんとパフォーマンスできないなんてあり得ない」というようなことを言うんです。やっぱそうだよなって。僕も同じような業界にいる身として、自分の仕事に対して責任を持つということは活動を始めてすぐに覚えたことだったので、改めて気が引き締まりました。
──ちなみにMEZZO"に関連するシーンで心に響いたものはありますか?
MEZZO"は、そーちゃんが自分の思っていることをあんまり言わないタイプ、環は思ったことがあったらすぐに言ってほしいタイプで。そーちゃんが、叔父さんは音楽を仕事にしていたけど売れ続けることはできなくて、自分も音楽活動をしたいと言ったら家族に反対されて半ば勘当のような形で家を出てきた、ということを環に打ち明けるシーンが印象に残っています。今のMEZZO"につながってくるシーンなのでジーンときますね。今後のMEZZO"がどうなっていくのか、どんな楽曲を出していくのか、という未来にも思いを馳せてしまいます。
──MEZZO"の未来、気になりますね。
いやあ、音楽面では「Intermezzo」を出したことで未来へのハードルが上がりましたよ(笑)。
──今後どんな楽曲を発表されるのか楽しみにしています。KENNさんはMEZZO"としてやりたいことや思い描いている未来はありますか?
MEZZO"として、ですよね。
──はい。例えばワンマンライブをやりたい、というような。
それは恐れ多くて僕の口からは言えないです……(笑)。あっ、環も楽器を練習するとかいいんじゃないかと思います!
- KENN(ケン)
- 3月24日生まれ、東京都出身。Zynchro所属。声優、俳優、歌手として活動。主な出演作品に、「宇宙兄弟」(南波日々人)、「アルスラーン戦記」(ギーヴ)、「サンダーバード ARE GO」(ジョン・トレーシー)、「アイドリッシュセブン」(四葉環役)など。2021年12月にニューシングル「Love Story」をリリースする。
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逢坂壮五役 阿部敦インタビュー