「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」が、<DAY 1><DAY 2>の2バージョンで全国の劇場にて“開催”されている。
この映画は、スマートフォン向けアプリを原作とするメディアミックスプロジェクト「アイドリッシュセブン」初の“劇場ライブ”として制作されたアニメーション作品。IDOLiSH7、TRIGGER、Re:vale、ŹOOĻという4グループ、総勢16人のアイドルたちが一堂に会するライブを、セットリストが一部異なる2バージョンで劇場にて楽しむことができる。音楽ナタリーでは同作の“開催”を記念して、ライターによるレビューで本作の見どころやDolby Atmos版の魅力を紹介する。
※本記事は「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」本編への言及も含まれます。
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文 / ナカニシキュウ
「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」本予告
「劇場版アイナナ」は硬派なライブ映像作品
目下“開催中”の「劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD」は、レインボーアリーナと呼ばれる大規模アリーナ会場を舞台にIDOLiSH7、TRIGGER、Re:vale、ŹOOĻの4グループが所属事務所の垣根を超えて一堂に会し、<DAY 1><DAY 2>の2公演にわたって行ったジョイントライブを映像化したもの。「劇場ライブ」と謳われている通り、舞台裏の様子などを交えたドキュメンタリー形式ではなく、舞台上で繰り広げられる事象のみをストイックに収めた硬派なライブ映像作品となっている。
本公演が開催されることになった発端は、スマートフォンアプリ「アイドリッシュセブン」内で行われた「ブラック・オア・ホワイト ライブ ショーダウン」。これは年末恒例の国民的音楽番組とされる「ブラック・オア・ホワイト ミュージックファンタジア」(通称「ブラホワ」)が大幅リニューアルされた大型イベントで、出演アーティストはそれぞれ4曲構成のミニライブを披露して勝敗を競い、文字通り“白黒”を付ける。このうち男性アイドルグループ部門の決勝戦で頂点を争ったのが、前述の4グループであった。
その折、決戦を終えたばかりの彼らが興奮冷めやらぬ中で語り合った「同じメンバーで、競争なしで一緒にライブができたら楽しそう」という素朴な願望が現実となったのが今回の「BEYOND THE PERiOD」だ。しかも、「それぞれ新曲を作って臨みたい」「16人全員で歌う曲も作りたい」といった妄想じみた無邪気に飛び出した理想のプランまでもがすべてベストな形で具現化されており、もはや奇跡的なライブであると言っても過言ではなかろう。以下に本公演のレポートを掲載する。
各グループの世界観が堪能できる
ライブは各グループ単独のステージでスタート。トップバッターを務めたのはIDOLiSH7だ。彼らのライブは美麗なオープニングムービーに続いて問答無用の代表曲「MONSTER GENERATiON」で幕を開ける。ハッピーなミュージカルを思わせる華やかなステージセットと傘を使った小粋なダンスパフォーマンスで、観客は瞬時にドリーミーな世界へと誘われた。なお本公演では、ステージに備え付けられた大きな階段のセットと背景スクリーン、可動式の映像スクリーンなどが用意され、1曲ごとに異なる世界観を堪能できる。映像演出がフル活用されることで舞台はさまざまに姿を変え、めくるめくエンタテインメントが創出されているのだ。鮮やかな演出や輝くアイドルを前に、オーディエンスたちは思い思いにペンライトを振り、体を揺らし、あふれ出る思いを絶叫。場内は早くも高揚感に包まれた。
トップバッターのIDOLiSH7が醸成したさわやかでピースフルな会場のムードは、続いて姿を現したŹOOĻによって不穏なトーンへと一変し、パワフルなパフォーマンスで会場を熱狂させる。さらにTRIGGERが洗練されたクールなステージングで聴衆を魅了する一方、絶対王者・Re:valeはゴージャスかつ息の合ったパフォーマンスでファンを圧倒。各グループの持ち味を存分に発揮したステージが続けざまに展開するジェットコースターのようなそのスピード感に、オーディエンスは陶酔の一途をたどるばかりであった。この冒頭ブロックは<DAY 1>と<DAY 2>で一部セットリストやMCが異なるため、2公演とも鑑賞してその違いを楽しんでみてはいかがだろうか。
そして公演は新曲を披露するブロックへ。ここでは4グループそれぞれがこの公演のために用意した、とっておきの楽曲がお目見えする。まず投下されたのは、IDOLiSH7「NiGHTFALL」だ。流麗なピアノとストリングスが織りなすこのミディアムナンバーは、柔らかなピアノイントロに導かれる和泉一織の歌声を皮切りに各メンバーのソロ歌唱が七瀬陸まで順につながれていき、サビ後半で満を持して7人のユニゾンに収れんされる、カラフルでポジティブな1曲。続くŹOOĻは「STRONGER & STRONGER」と題された、メロウなサウンド感のトラップ系スローナンバーを突き付けてきた。いつになく繊細な響きをたたえた狗丸トウマのソフトタッチなフロウも印象的で、アイドル界におけるヒール役を返上した現在の彼らの姿をそのまま表したような、前向きな1曲に仕上がっている。
Re:valeの新曲「Journey」もミディアムバラードで、フォーキーな味わいのメロディとオーガニックなサウンドデザインが印象的な、みずみずしい人生賛歌。俗に言う“カノン進行”を取り入れた王道感の強い歌メロで、百と千の対照的なボーカルがよりくっきりと浮かび上がる。そして、今回の4組による新曲のうちでは唯一のアッパーな曲と言えるTRIGGER「BEAUTIFUL PRAYER」で、このブロックは締めくくられる。「BEAUTIFUL PRAYER」はベースミュージック由来のハードなシンセベースリフが耳に残るクールな四つ打ちダンスナンバーで、Dメロには「確かな音“楽”」「“龍”のように」「“天”高く」とメンバー名をもじったフレーズが忍んだTRIGGER愛にあふれた1曲。TRIGGERはこの曲をパワフルにパフォーマンスし、客席をさらなる熱狂の渦に巻き込んだ。
ここからステージはラストスパートに突入する。まずは陸と九条天(TRIGGER)によるデュエットで「Incomplete Ruler」が厳かに披露された。これは天が主演を務めた舞台「ゼロ」で使用された楽曲で、つまりTRIGGERの持ち曲でもなければもちろんIDOLiSH7の持ち曲でもないため、本公演のような特別な場でなければライブで歌われる機会はそうそうないであろう1曲だ。観客からすると「なぜ2人がデュエットをしているのか」という疑問が脳裏をよぎったかもしれないが(もちろんマネージャーたる読者諸氏にとっては自明のことだが)、いずれにせよこのレアなパフォーマンスに対し、人々が「酔いしれる」以外の選択肢を持ち得ようはずもなかった。
同曲を歌い終えた天が退き、陸がぽつんと佇むステージには、唐突に響き渡った軽快なギターサウンドとともにIDOLiSH7のメンバーが再集結。「TOMORROW EViDENCE」のパフォーマンスが勢いよくスタートした。本公演開催のきっかけが「新ブラホワ」にあったことは本稿冒頭でも述べたが、この曲はそこでIDOLiSH7の新曲として披露されたもの。彼らにとっては“これからのIDOLiSH7”を象徴するマイルストーン的な意味合いを持つ1曲となっている……のだが、2コーラス目を歌い終えたタイミングで、なんとTRIGGER、Re:vale、ŹOOĻのメンバーが次々にステージへと姿を現し、横一列にずらりと整列。おもむろに16人全員で続きを歌い始めたのだった。
このサプライズ演出によって会場のボルテージは最高値を更新する。観客をさらに熱狂させたのは、16人で歌うために作られたラストナンバー「Pieces of The World」のパフォーマンス。この曲で彼らは、壮大な宇宙空間を思わせる映像演出を背に、重厚でシンフォニックなエレクトロサウンドに乗せて「小さな存在が無数に集まってこの宇宙を形作っている」というスケールの大きなメッセージをまっすぐに発した。所属事務所も違えばアイドルとしてのスタンスもそれぞれ違う彼らだからこそ説得力を持つ、本公演のすべてを象徴するような1曲でありパフォーマンスであったと言っていいだろう。
アンコールではライブTシャツに身を包んだ16人がステージに再登場し、ハーフタイムシャッフルの弾むビートが印象的なソウルポップナンバー「Welcome, Future World!!!」を軽やかに歌唱。広大なアリーナ空間のすべてを、余すところなく希望にあふれた笑顔で埋め尽くしていく。徹底的にハッピーなムードを充満させたまま、16人はこのスペシャルなステージに幕を下ろした。
よりリアルに感じ取ることのできるDolby Atmos版
なお、本作はスタンダードなバージョン以外にDolby Cinemaや4DX、MX4Dも6月24日(土)より上映予定だ。特に音響面においては5月20日(土)より上映中のDolby Atmos版(Dolby Cinemaフォーマットにも含まれる立体音響の方式)の恩恵が大きく、一般的な平面サラウンド音声と比較すると明らかに空間の感じられ方が違ってくる。「BEYOND THE PERiOD」はアリーナ会場での音楽ライブ興行を映像化した作品であるだけに、マネージャー各位にはその広さをよりリアルに感じ取ることのできるDolby Atmos版をぜひとも体験してもらいたいところだ。
実際にDolby Atmos版の試写を鑑賞させてもらった筆者の感覚で言うならば、最も印象的だったのが「会場内のすごく遠い席で叫んでいる観客の声が、本当にすごく遠くから聞こえてくる感じがした」という点。自分の座っている場所が小さな試写室の中だと頭ではわかっているだけに、それは感覚的な混乱をきたす奇妙な体験であった。この臨場感は、おそらく実際に体感してもらう以外に伝える術はないように思う。
とは言え、もちろん通常の音響であっても「各劇場がライブの本会場」という意気込みで作られた本作の魅力は十分に伝わるので、その点は安心してもらいたい。あくまでも「Dolby Atmosによってその体験がよりリッチでリアルなものにグレードアップしますよ」という話である。余力のあるマネージャー諸氏には、通常版とDolby Atmos版の両方を観に行って聴き比べてみるといった楽しみ方も大いにオススメだ。