TVアニメ「星合の空」特集 赤根和樹監督インタビュー&キャストコメント|現代日本の「スタンド・バイ・ミー」を目指して

それはアニメの見すぎです

──ちなみに、男子ソフトテニス部の部員だけでも何人もいるわけですが、それぞれのキャラクター像はどのように作られていったんでしょう。

これまでに読んだ小説や好きな映画をヒントにしている部分もありますし、あとは実際に今まで出会った人たちの要素をいろいろ入れています。「あのとき、こういうリアクションしたよね」とか、「こういう奴いたよね」とか。実話を盛り込んだエピソードもあります。なので観た人が、近くの人のことを思い浮かべながら観るとか、一緒にいる人のことを想像して観るのもいいんじゃないかと思いますね。

──いわゆる主人公的なストーリーテラーは柊真なのかなと思っていたんですが、思ったより言葉数が少なくて。眞己もひょうひょうとしているし、周りのテニス部員たちもへらへらしていて……みんな本心が見えず、ストーリーテラーが不在なことも新鮮でした。

それを新鮮に感じるのは、きっとアニメの見すぎですよ。

──あはは、否定はできません(笑)。

映画とかなら全然普通じゃないですか。セリフやモノローグで説明しすぎるのはアニメの悪い癖ですね。「こいつ何考えているんだろう?」って探っていって、わかったときに、よりキャラクターを好きになると思うんです。オリジナルアニメは特にそういうところが強みなので、彼らがどういうキャラクターなのか探っていってもえらえれば。ヒントは全部描いてあるはずなので。

──おっしゃるとおりで、まさに「この子たちはどんな子なんだろう」って引き込まれていく第1話だったと思います。

名優がやるような芝居を、アニメーションでも表現できる

──また作画に関してはほとんど手描きで、3Dでも手描き風に見えるよう工夫されているそうですね。赤根監督はCGに否定的というわけではないかと思うのですが、今回の手描きへのこだわりはストーリーに合わせてのことなのでしょうか?

前の作品で、極限までアクションをCGで作ったらどうなるかっていうことにトライしたんですね。オペレーターも大変優秀な人だったので、やれることはやったと思うんですが、やっぱり人間が手で描くアクションには勝てないと思ったんです。CGでマックスをやったぶん、余計に人間の手で描くすごさを再認識したというのがあって、今回は手描きの繊細さと柔軟さで少年たちを表現したいと思いました。CGを否定するわけではないですが、やっぱり生身のアニメーターが描く絵は素晴らしいものがありますよ。もちろんうまければという前提はありますが(笑)。

──「星合の空」にはそれが可能なアニメーターさんが集まっていると。

そうですね。特に高橋くんの絵がそうで、線が半分ズレるだけでも顔が変わるような、繊細な絵を描くんです。眞己のちょっと何を考えているかわからないような表情とか、柊真の融通の利かない感じ、でも時々ふっと不安そうな眼をするところとか、とてもうまく表現してくれますね。そういう手描きアニメーションのよさを残していきたいんです。繊細な、名優がやるような芝居をアニメーションでも表現できるんだよってことを、若いアニメーターの子たちにも気づいてもらいたいし、お客さんにもわかってもらえたらいいなと。先ほど第1話のラストシーンから、すごく眞己のつらさが伝わってくるとおっしゃってくれましたが、それって実写じゃなくてアニメだからこそだと思うんです。

──絵の力もそうですし、完全なフィクションだからこそ感情移入できるという面もありますよね。実写だと「演技だ」って感じてしまうことがありますけど、アニメのキャラクターたちは、演技をしているわけではないですから。

ああ、そうですね。子供を主人公にしたのはそれもあって、日本で子供がいっぱい出てくる作品を実写でやろうにも、上手な子役を7人も8人も集めるのは難しいじゃないですか。だからどうしても嘘くさくなっちゃうんですが、アニメだと本当に見えるんですよ。それは実写にはできない、アニメだからできることだと思います。声優さんたちはハタチを超えても関係なく、少年の演技ができますしね。

──そういえば今回のキャスティングは、名前やプロフィールを全く見ずにテープで選ばれたそうですね。

はい。テープオーディションで、名前を見ずに番号だけで選んでいきました。ただ、名前を見ずに選んでも結局うまい子を選びますし、人気がある子はみんなうまいですね。あと樹役の松岡(禎丞)くんだけは、前の作品で一緒になったときに「うまいなあ」と思っていて、今回は決め打ちでお願いしました。

──若い役者さんも多いですが、声優さんに対しては昔と今の違いを感じることはありますか?

いや、それはないですね。自分が監督をやるときは昔から新人の子を起用することも多かったですし。もともとナチュラルな演技をする声優さんが好きなので、今回もそういう方ばかりを選んでいると思います。

──先行上映会のときも、キャストの皆さんそれぞれが演じるキャラの抱える悩みをほのめかしていたので、柊真と眞己はもちろん、ほかの部員たちにも注目ですね。

いろいろなチャレンジから始まった作品なので、たぶん想像通りのストーリーには進んでいかないと思いますし、「星合の空」というタイトルからイメージした通りに話が転ばないかもしれません。予想がつかない動きというのは、観ていてときどき不愉快になるかもしれないけど、それを我慢してもらえたら快感に変わっていくと思うので、観ていて失望はしないと思います。自分も毎回上がってくるのが楽しみなんです。スタッフ一同がんばっていますので、どう物語が進んでいくか、それを楽しんでもらえたらと思います。

「星合の空」キャストコメント

花江夏樹(桂木眞己役) / 畠中祐(新城柊真役)/ 松岡禎丞(雨野樹役)/ 佐藤圭輔(竹ノ内晋吾役) / 天﨑滉平(石上太洋役) / 山谷祥生(飛鳥悠汰役)

Q.赤根和樹監督はアフレコ現場ではどのような感じでしょうか?

花江 監督は休憩中とかにも、我々によく声をかけてくださいますね。けっこう心配性なのか、「面白かった?」とか「大丈夫?」とか。やっぱり「星合の空」に対してすごく気合いが入っているのが伝わってくるので、僕らもがんばろうって気持ちになります。

Q.中学生男子の悩みを描いた作品ということで、皆さんも当時の気持ちを思い出されたのではないかと思いますが、記憶に残るエピソードがあれば教えてください。

花江 話せる範囲のエピソードだと、中学校で班ごとに外に出かける授業があって、そのときにガムを持って行って食べていたら、先生にばれてボロボロに怒られたことを思い出しました。

畠中 モテたかったですね……。モテたくてバスケをしてました。でも、全然モテなかったです。本当につらかったので、笑わないでほしいです。

松岡 学校でぶどうを摘んで、それをワインにするっていう校外授業があったんです。でも農地がめちゃめちゃ広くて、摘んでも摘んでも終わらず、自分のバケツがぶどうでいっぱいになったら真ん中の大きい容器に入れていく、っていうことを繰り返すんですけど、嫌になってきていっぱいになったバケツを思いっきり足で踏んでいたら、それを保健の先生に目撃されて「松岡くんって、そういうことする子だと思わなかった」って言われたのがショックでした。

佐藤 中学校の時は自転車通学でヘルメットを着用しなきゃいけなかったんですけど、嫌で。学校のリーダー格の生徒は着けていなくて、「お前も外せよ!」とか言われたんですけど。でも外したら先生に怒られる……という葛藤がありました(笑)。

天﨑 水泳の授業が終わったときに好きな子に耳打ちされて、「天﨑くんって、三段腹なんだね」って言われて、すごく傷ついたのを覚えています(笑)。

山谷 僕は同級生に好きな女の子がいて、その子がアニメ好きだったから、共通の話題を作りたくってアニメを見始めたんです。今声優をやっているのもその子のおかげです。

Q.第1話を観た方、これから観る方に向けて一言ずつメッセージをお願いします。

山谷 絵の印象からほんわかしててあたたかい世界観なのかなとか、学校や部活が出てきて爽やかな青春群像劇なのかな、と思って観てくださる方が多いかと思います。1話の最後では衝撃を受けると思いますが、その先の展開も是非楽しみにしていてください。

天﨑 アニメってきっといろんな気持ちで観ると思うんです。お菓子を食べながら軽い気持ちで観る人がいたり、居住まいを正してしっかり観る人もいたり。お菓子を食べたい人は、早めに食べておいたほうがいいです! 後半はしっかり観てください。見逃すともったいないシーンがたくさんあるので、1話からがっつり観てもらえたらと思います。

佐藤 細かいところまで、監督やスタッフの皆さんがすごくこだわって作っていらっしゃるので、そうした繊細な部分まで観ていただけたらと思います。

松岡 家族で、夕飯を食べながら観てください。皆さんの将来に関わる作品だと思います。

畠中 1人ひとりの描き方がとても丁寧だし、抱えているものが重いので、観ていてつらい思いをすることがきっとあると思うけど、それも含めて、この子たちがどういうふうに向き合って進んでいくかを観てもらえればうれしいです。つらい気持ちの先に、見つけられるものが絶対にあると思います。

花江 感じ方が人によって変わってくるアニメだと思いますし、キャラクターもいっぱいいて、どのキャラクターに感情移入して観るかも人によって変わってくると思うので、いろんな層の方に観てほしいです。ソフトテニスを通して部員たちがどうやって団結していくのかも描かれていきますので、ぜひ注目してください。

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