コミックナタリー Power Push - 清水玲子(原作)×大友啓史(監督)が語る「秘密 THE TOP SECRET」

“「タブーを作品に昇華すること」

清水玲子が1999年から描き続けている「秘密」シリーズは、緻密な伏線を張り巡らした骨太な事件を、美しくも妖しい清水の絵が彩る近未来の刑事もの。今作を原作にした映画「秘密 THE TOP SECRET」が、8月6日に封切られる。監督を務めたのは、映画「るろうに剣心」シリーズを手がけた大友啓史。死者の脳をスキャンし、記憶を映像化して捜査する特別捜査機関「第九」をめぐる事件を、5年の歳月をかけて映像化した大作に仕上がっている。

ナタリーでは「秘密 THE TOP SECRET」の公開を記念し、神山健治監督、メイプル超合金、でんぱ組.incの成瀬瑛美が作品の魅力を紐解く横断企画を展開中。特集のラストを飾るコミックナタリーでは、清水玲子と大友監督の対談を実施し、「死者の記憶を探る」というタブーに切り込んだ本作の“秘密”を明かしてもらった。

取材・文 / 三木美波 撮影 / 石橋雅人

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清水玲子×大友啓史対談

映画版に軽々と打ち負かされてしまった(清水)

──清水さんと監督は打ち合わせなどで何度かお会いしてるものの、おふたりの対談は初だと伺いました。

大友啓史 そうなんですよ。清水さん、今お忙しいんじゃないですか?

清水玲子 70ページ分のネームを描かなきゃいけないんですけど、今ちょうど35ページ分くらいです(笑)。

清水玲子と大友啓史。

大友 向こうにいる編集さん、きっとドキドキしてますね。

清水 まあなんとかなるかな、って。

──ははは(笑)。大友さんは、「秘密 THE TOP SECRET」の映像化を熱望したとのことですが、作品との出会いは?

大友 2000年前後だったと思います。1997年から2年間アメリカに留学していて、日本の活字とかマンガに飢えていたんですよ。だから帰国後は面白そうな本を買い漁っていて、その中に清水さんの「秘密」があった。そこからほかの作品も読み始めて、「輝夜姫」も好きなんですよ。

清水 少女マンガでも構わず読んでいたんですか? 私の絵は結構“少女マンガ”という感じだと思うんですけど。

「秘密 THE TOP SECRET」case2より美貌の警視正・薪剛と新人捜査官の青木一行の物語に。科学警察研究所法医第九研究室、通称「第九」を舞台に数々の事件が描かれていく。

大友 ゆるゆるとそっち側にも手を出していました(笑)。ただ、確かに好き嫌いはありますよね、絵とかコマ割りも含めて。これは少女マンガに限らずですけど。でも清水さんの絵は僕にとってはすごく読みやすくて、かつストーリーが緻密で壮大で読み応えがありましたね。

──「秘密」から清水玲子作品に触れたんですね。「秘密」は1999年にcase1の「大統領ジョン・B・リード暗殺事件」、2001年に今回の映画でも題材になったcase2の「28人連続殺人事件・貝沼清孝」が描かれます。case2以降、舞台をアメリカから日本に移して、主役も読唇術のスペシャリストから、薪と青木の刑事コンビになりましたね。

清水 最初のcase1はあくまで単発の読み切りということで考えた話だったんです。1993年から2005年まで「輝夜姫」を連載していて、ずっと同じ作品を描いていると逃避で「違うのを描きたい」って思っちゃうんですよ。だから年に1回くらい読み切りを描かせてもらっていて。

大友 「輝夜姫」の逃避で「秘密」ですか! 結構重たい逃避ですね(笑)。

清水 え、そうですかねえ(笑)。case1のときは刑事の捜査ものにしようなんて考えていなかったけど、少し経った後にぼんやりと「刑事もので1話完結シリーズにしたら、毎回違う事件を描けるんじゃない?」と思って。

──今メロディ(白泉社)では、連載中の「秘密 season 0」が新章に突入しましたよね。テーマは「観たら死ぬ映画」という……。

清水玲子

清水 すみませんね、こんな(映画が公開される)時期にね(笑)。

大友 そうそう、そこがまた面白い。

──やはり大友監督の映画に触発されて?

清水 もうかなり。初めて映画「秘密」を観させていただいたとき、いい意味でショックでした。軽々と打ち負かされてしまったなというイメージがあって。もちろんマンガと映画は媒体が違うから、一概には比べられないんですが。例えば小説、マンガ、映画だと、視覚・聴覚情報のない小説が一番想像力を必要とする。マンガも映画と比べると音もないし動かないんだけどその分、想像力を使って違ったアプローチができるかなと思っています。

原作で一番惹かれた事件を映画化しました(大友)

──「死者の脳をスキャンすることで、生前に見た映像を再現することができる」というのは、なかなか怖い設定ですよね。

映画「秘密 THE TOP SECRET」より、MRI捜査を行う青木。

大友 うん、脳を覗かれるのは怖いですよ。試写を観てくれた方も「(自分が)見られたくないものを(他人に)見られるということは、グロテスクなシーンよりもよっぽど怖い」と言ってました。「怖い怖い」って連呼していて。怖がらせてしまって申し訳ないなと思いましたが、これは僕のせいじゃないですからね(笑)。原作の設定に素直に従っただけだから。

清水 あはは(笑)。脳を覗かれるのは、精神的に怖いってみんな思いますよねえ。お風呂やトイレに入っているところを、捜査員が見ちゃうのかと思うと嫌ですよね。

──大友さんは、「秘密」のどこに惹かれて映画化したいと思ったんでしょうか?

大友 まさに今の話の部分。他人が見られたくないものって、たぶん自分が一番見たいものなんですよね。人間のこの欲望って、哲学的な一方でものすごく俗っぽい。日常では見ることのできないものを、だからこそ見たいっていう好奇心に繋がりますから。しかも映画館の暗闇の中でひっそりとね(笑)。本来なら心って誰にも見られないはずなのに、脳の記憶映像を再現することで人の心の奥底を覗く行為には、エンタテインメントの基本がある。「秘密」を映画化したら、エンタテインメントという装丁でものすごく深い人間ドラマに入り込んでいけると思ったんです。

清水 今、人間ドラマと聞いて思い出したんですが、そういえば一番最初のネタは人間の脳内の映像じゃなくて、ロボットの映像を取り出して見る……というような展開を考えていました。でもただのロボットだと監視カメラと変わらないじゃないですか。それじゃつまらないから、感情を持ったロボットだったら変化があって面白いかも。でもそうすると人間のほうがもっと面白いだろう……と変化していって、case1にたどり着いたんです。

──ロボットのままだったら、今とは全然違う話になっていたでしょうね。大友さんが原作で一番惹かれた事件はどれですか?

28人連続殺人事件の犯人・貝沼の脳を覗いた捜査官5人のうち3人は死亡し、1人は精神に異常をきたし入院。いまだに捜査官として働いているのは薪のみ。

大友 まさに映画化した部分の、絹子の事件ですね。一方で映画として主人公・薪の内面を掘り下げていかなくてはいけない。そうすると、薪が親友の鈴木を正当防衛で殺した貝沼事件は避けては通れないんですよ。貝沼を出さないと、薪がどうしても浅くなってしまうので。

清水 なるほど。

大友 本当は、原作の設定通りにスーパーで薪と貝沼を出会わせたかったんです。撮影できそうなスーパーを探したんですけど、どうしても近未来の感じが出ないんですよ。ギリギリまで悩んで教会にしました。

清水 スーパーだとリアリティが出すぎてしまうんでしょうね。でも吉川晃司さんと貝沼はもともとかなりビジュアルが違いますからね。

「秘密 THE TOP SECRET」2016年7月6日全国ロードショー

「秘密 THE TOP SECRET」

ストーリー

被害者の脳に残った記憶を映像化し、迷宮入り事件を解決するMRI捜査。その特殊な捜査方法が導入された警察庁の特別機関・通称「第九」で若くして室長を務める天才・薪剛や新人捜査官の青木一行らは、行方不明の少女の捜索に取り掛かる。単純な捜査かと思われたが、事件は次々と連鎖し、やがて決して触れてはならないとされる日本を震撼させた貝沼事件へとつながっていく。そこには、第九捜査官であり、今は亡き薪の親友・鈴木が命を懸けて守ろうとした“第九最大の秘密”が隠されていた……。

スタッフ

監督:大友啓史
脚本:髙橋泉、大友啓史、イ・ソクジュン、キム・ソンミ
原作:清水玲子
主題歌:SIA「ALIVE」

キャスト

薪剛:生田斗真
青木一行:岡田将生
貝沼清孝:吉川晃司
鈴木克洋:松坂桃李
三好雪子:栗山千明
露口絹子:織田梨沙
斎藤純一郎:リリー・フランキー
露口浩一:椎名桔平
眞鍋駿介:大森南朋
今井孝史:大倉孝二
天地奈々子:木南晴夏
岡部靖文:平山祐介

清水玲子(シミズレイコ)
清水玲子

東京都在住。1983年、「三叉路物語」でデビュー。秀麗な画風と独創的な作品世界で多くの読者の支持を得る。メロディ(白泉社)を中心に活躍中。代表作に「月の子」「輝夜姫」「秘密 THE TOP SECRET」など。

大友啓史(オオトモケイシ)
大友啓史

1966年岩手県盛岡市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1990年NHKに入局、秋田放送局を経て、1997年から2年間L.A.に留学し、ハリウッドにて脚本や映像演出に関わることを学ぶ。 帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、大河ドラマ「龍馬伝」などの演出を手がける。2009年に映画「ハゲタカ」の監督を務める。2011年4月にNHKを退局し、大友啓史事務所を設立。 同年、ワーナー・ブラザースと日本人初の複数本監督契約を締結する。代表作に映画「るろうに剣心」シリーズ、「プラチナデータ」など。2016年は「秘密 THE TOP SECRET」「ミュージアム」の2作が公開を控え、2017年には「3月のライオン」が封切られる。