コミックナタリー Power Push - 清水茜「はたらく細胞」
赤血球にも、白血球にも、キラーT細胞にも仕事(ドラマ)がある!細胞擬人化マンガを描く新鋭、“キャラ設定の秘密”を語る
いろいろな身体の機能を本などで調べてノートに書き出す
──「はたらく細胞」の舞台は、人間の身体の中。毎度身体に異変が起きて、それに細胞たちが対処する、という設定です。基本的には白血球……好中球の1146番さんがいいところを持っていきますが(笑)、最近では、好酸球など別の細胞が中心となって活躍する回も増えてきました。毎回ストーリーはどうやって考えているんでしょうか?
自分で最後まで組み立てられていないですね……。まずいろいろな身体の機能を本などで調べてノートに書き出し、それを題材に担当さんと一緒にお話の構成を決めます。打ち合わせの前と後だと全然変わりますね。
担当編集 打ち合わせの段階でいつも面白い話を考えてきてくださるからこそ、「もっと面白くしたい!」と欲が出ちゃうんです。清水さんのプロット、なかなか珍しい形式で、読み応えありますよ。1ページマンガ風なんです(プロットを取り出す)。
──わ、話の流れや細胞の働きが1枚にびっしりと書き込まれていますね!
どんなマンガでもいつもこの形式で描いているわけではなく、「はたらく細胞」の場合はこうしているという感じです。知識をわかりやすくお話に落としこむ必要があるので。毎話1~3枚分くらいかな。そこから打ち合わせをして、ネームに落とし込んでいきます。
──作画の作業はおひとりでされているんですか?
アシスタントさん何人かにお手伝いいただいています。
──背景の描き込みなど、すごく細かいですもんね。メインで活躍する以外の細胞たちも、各コマにこれでもかと登場しますし……。モブの細胞たちも、1人ひとりがすごく細かく描かれてますね。
最初、モブの細胞は描いていなかったんです。ただ、メインで活躍する細胞たちをヒーローと見たときに、逃げ惑う細胞だったり抵抗できない細胞だったりが画面にいたほうが物語も説得力も増すし、読者のみなさんも楽しいだろうなと思ったんです。例えば第8話の1コマ目に出てくるこの人たちは後ろで太極拳しています。そしてシリウスの付録として描いたイラストの左の建物にいる人たちは引っ越しの準備をしていますが、これは細胞分裂の準備をしているんです。
──言われるまで気づきませんでした! こうした動作も、物語としての臨場感を出すために?
いや、趣味ですね(笑)。子供の頃、人形遊びをよくやっていて。ディテールが細かく作られていて手足が可動するタイプのやつです。そういう人形のようなイメージで、モブの子ひとりひとりに動きをつけるのが楽しいんですよ。あと、キャラクターにお友達を作るのも楽しくて。実は白血球の1146番さんには4989番さんというお友達がいて、過去編以外にはすべて出ています。皆勤賞です。
──また新事実が……。これは1巻もまた読み直さないと。メインで描かれている白血球は1146番ですが、ほかにも白血球が山ほどいて、それぞれ顔つきも違う。赤血球も血小板も1人ひとり固有の顔がありますね。
同じ細胞でもいろいろな人を出すようにして、白血球さんも個体を識別するために「1146番」という番号を付けました。
マンガ家以外の職業になれる気がしなかった
──では清水さん自身のことも伺っていければと思います。最初にマンガ家になりたいと思ったのはいつ頃なんでしょうか?
きっかけは、幼稚園の先生に絵を褒めてもらったときでしょうか。小学校低学年の頃には職業としてマンガ家になりたいなあと思っていました。それで、キャラクターがひたすら紙の上でわちゃわちゃしゃべっている、終わりも始まりもないようなものを自由帳にずーっと描いていました。1話1話が明確にあるストーリーマンガを描くようになったのは、専門学校に入ってからですね。
──清水さんが描くキャラはどんなポーズも決まっている……というのでしょうか。人物の体型のバランスがきれいだと思いました。
高校の授業中、視界に入るものをずっとデッサンしていました。意識的に絵の練習をしなくちゃと思っていたんです。マンガ家以外の職業になれる気がしなかったので、どうにかしてマンガ家にならなくちゃ、と。先生も同級生も、デッサンのモデルという訳ではないからすぐポーズが変わっちゃうので、一瞬見たら目を閉じて、頭の中に残った残像をノートに描き写す、というのを繰り返していました。
──専門学校に入学する前から、ご自分でも独自にマンガに必要な基礎訓練を積んでこられたんですね。清水さんの絵柄は、スタイリッシュだけど懐かしいような、ほかにない空気をお持ちだと思います。影響を受けているマンガ家の方などはいますか?
専門学校のときには日常系マンガを中心に描いていて、そのときの参考にしていたのは「よつばと!」とかですね。でも、絵柄の影響というと……いろいろな作品から影響を受けてごちゃごちゃになっていて、自分でもわかりません。子供の頃から人見知りで、兄と妹と遊ぶ以外は親の持っているマンガばかり読んでいました。「あさりちゃん」「ドカベン」「ツルモク独身寮」「マカロニほうれん荘」……。
──渋い(笑)。現在40代くらいの方でもなかなか読んでいないラインナップではないでしょうか。しかも子供の頃に。今、21歳でしたよね。
はい。もうすぐ22歳になります。
読者に「自分の体内のことかもしれない」と思ってほしい
──マンガ家になってよかったこと、困っていることはありますか?
自分が考えたキャラクターを毎月毎月動かしてマンガを描けるというのは、本当に楽しいです。困ったことは……、すごく評価が気になってしまうタチなので、恥ずかしくて本屋にも行けなくなりました(笑)。1巻を読むと、細胞の特徴で間違ってる部分とかを見つけてしまいそうで、ほとんど読み返してないですね。読者の方から感想をいただくのはありがたいことなんですが。
──「このときはスランプだった」という経験はありますか?
マンガ専門学校にいた2年間がそうでした。キャラクターの言動が意図せず悪いものになってしまって。例えば恋愛の話だと、自分では自然に描いている女の子がものすごく身勝手になってしまって、読者の方に愛してもらえない子になってしまう。でも、シリウスで賞をいただいて、実際に社会に出てお仕事をするようになって、スランプを脱せたかなと。いろいろな方と接してお話するようになって、「愛される人」がどういう人か、わかるようになった気がします。
──確かに赤血球や白血球だけでなく、セレウス菌やスギ花粉も嫌いにはなれません(笑)。そういえば、白血球たちが働いているこの身体の持ち主は今後出てくるんでしょうか?
この身体の人自身は、出てこないですね。読者の方に「自分の身体かもしれない」と思って読んでもらうほうが楽しいかなと。なので、題材にする怪我や病気なども、年齢や性別が特定されないものを中心に描いています。
──なるほど! 自分の体内で赤血球や白血球ががんばっていると思うと、読者も応援しがいがありますね。今後、お話はどういう方向へ向かう予定でしょうか?
毎話毎話そのとき思いつく精一杯をマンガにぶつけているので、未定な部分が多いです。担当さんとは、キラーT細胞の子供時代とか、地味に人気のある単球の話などはやりたいね、とは話しています。
担当編集 毎回本当に出し惜しみをしていないんですよ。編集としては、ネタ切れにならないように支えていければ。
──では最後に、まだ「はたらく細胞」を読んだことのない方へメッセージを。
えーと……作者の不勉強がたたってしまって、医学や学術の部分ではちょっと……なマンガですが、監修の先生などいろいろな方に協力してもらって、広い目で見てもらったら楽しいマンガになっていると思いますので、ぜひ手に取っていただければうれしいです。どうぞよろしくお願いします。
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